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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
終章 選び取った未来
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終章-残る最後の問題-


「そういえば、どうするか話してなかったような……」

「どうするもこうするも、倒す以外の選択肢がないからな」


どうあれ、あちらの世界に出現してしまったものは倒すしかない。

“封魔の月鏡”を書き換えてしまったのだからなおさらだ。


さすがに疲弊してしまっている今の状態のアキトたちが脱出後そのまま戦うのは無謀すぎるため一度撤退することにはなるだろうが、≪銀翼騎士団≫や他の協力者たちは引き続き戦うだろうし、ある程度休息が取れればアキトたちも再び討伐に動くことになるだろう。


「でも、あの数を倒すとなるかなり厳しい戦いにはなるよな」

「ああ、予想以上の規模ではあったからな」


“穴”の周辺に大量のアンノウンが溢れるであろうことはわかっていたが、それがこちらの予想を遥かに上回っていたのもまた事実だ。

当初アキトたちが考えていた以上に後始末は大掛かりなことになるし、当然戦いによって出る被害も相当なものになってしまうだろう。


「……ごめんなさい」

「いや、トウヤがやろうとしてああなったわけでもないだろ? 気に病みすぎなくていい」

「でも……」


大量のアンノウンが溢れていることの原因が自分であると理解しているトウヤはどうしてもそのことが気になってしまうのだろう。

彼はしばらくじっと考え、そして真剣な目をして口を開いた。


「……あの、」

「どうした、トウヤ」

「その魔物たちを僕に集めちゃうのはどうかな?」


アンノウンたちをトウヤに集める。

それは北米の人類軍本部で実際にトウヤがやってみせたことだ。


「でもトウヤ、そんなことをすればまた君が魔物堕ちしてしまうだけじゃ」

「確かに僕に集めるだけだと、そうなっちゃう。……でも、集めた穢れを浄化できるなら……」

「……なるほどなぁ。魔物共を穢れに戻してトウヤの坊主に集めた上で、≪月の神子≫の力で消し飛ばそうって話か」


トウヤの考えに朱月は感心した様子で笑みを浮かべている。


「そんなことができるのか?」

「できるも何も、“封魔の月鏡”が千年以上やってきたこととほとんど同じだ。穢れを集める器がトウヤの坊主か【禍ツ國】かどうかの違いくらいなもんだろ」

「でもそれなら、今回の分だけまた【禍ツ國】に集める方が安全なんじゃないか?」


同じだと言うのなら、トウヤという個人に集めるよりも【禍ツ國】に集めてしまう方が危険は少ないというハルマの意見にはアキトも賛成だが、朱月は難しい顔をしている。


「どうだろうな? 多少外に流れ出たとはいえ【禍ツ國】にはまだまだとんでもない量の穢れが残ってやがるし、今は≪月の神子≫からの魔力が途切れて浄化も止まってやがる。外に漏れ出た分を戻して大丈夫なもんかは疑わしい。危ない橋は渡らないに限るぜ?」


そのリスクを軽視して穢れを【禍ツ國】に戻した結果、今度こそ“封魔の月鏡”が崩壊するようなことになればここまでの苦労が水の泡だと朱月は言いたいのだろう。


「だが、トウヤの体は大丈夫なのか?」

「確かにまだちょっと調子は悪いけど、集めてすぐに浄化できれば……」

「いやいやいやダメダメ! 絶対に反対だから!」


トウヤの言葉を遮るように、作業をしていたはずの片方のシオンが凄まじい勢いで割り込んできた。


「シオンお兄さん……」

「俺はあくまで魔物堕ちから元に戻れるくらいの量を食べただけで、トウヤの中にあった穢れ全部がなくなったわけじゃないんだよ!? そんなただでさえ万全じゃない状態でまた穢れを集めるなんて、すぐに浄化する準備ができてるとしても危ないから!」


トウヤ相手には甘いシオンだが、彼の身が危険になるとなれば譲る気は一切ないらしい。


「というか穢れを集めればいいって話なら俺がやるし!」

「ほぼ魔物堕ちしてるお前がそれ以上穢れを集めるとかバカか!?」

「トウヤにやらせるくらいならバカでも俺がやるほうがマシですー!」

「はいはいちょっと落ち着きましょう」


ヒートアップするシオンに対し、コヨミが冷静にストップをかけた。


「トウヤ、確認するけど……大丈夫なのよね?」

「うん、できるよ」

「ええ。頑張って」

「ちょっと、コヨミさん!?」

「トウヤが自分のやったことに責任を持ちたいっていうなら私は応援するわ。……それに、トウヤだって私の子だからね」

「確かに、こうと決めたらダメって言っても止まらないでしょうけども……」


コヨミが賛成してもなおシオンはどうしても嫌だという態度を隠せていない。


「シオン君がそうであるように、当然私だって心配よ。だからちょっとだけやり方には口を出させてもらうわ」

「やり方?」

「ええ。……本当はあんまりやらないほうがいいんだけど」

「お母さん?」

「トウヤ。あなたの力を使って魔物たちを合体させるの」

「合体……?」


唐突にも思えるコヨミの言葉にトウヤはもちろんアキトやシオンも理解が追いつかない。


「魔物たちをトウヤの中に集めるんじゃなくて、トウヤの外でひとつに集めて一体の強い魔物にするってことよ」

「トウヤってそんなことまでできるんですか!?」

「穢れや魔物を操ることができるんだもの。難しくはないはずよ」


確かにその方法であればトウヤ自身が負うリスクはかなり小さくなる。シオンが一番気にしているトウヤの安全という点は解決するだろう。


『ダガ、ソレハ非常ニ強大ナ魔物ヲ作リ出ストイウコトダロウ? 倒セルノカ?』

「少なくとも浄化はそのほうがやりやすいわ。……広くたくさんの魔物を浄化しようとするとどうしても力が分散してしまうもの」

「とんでもない数の魔物共をまとめて浄化するより、一体にまとめた上で一点集中でぶちかますほうが楽ってのは間違いねぇだろうよ」


“穴”周辺に集まっている数からしてヤマタノオロチやファフニールを凌ぐ怪物が誕生させることになるのは確かにリスクが高いが、浄化する前提であるならそのリスクを冒す価値もあるのだとコヨミと朱月は断言する。


「それに、集めた上で暴れるなとでも命令すれば楽にやれるんじゃねぇか?」

「ううん。それはちょっと、無理だと思う」

「魔物を操れるって話じゃなかったか?」

「操るっていうか話しかける? 命令する? とにかくあっちが嫌だって強く思ったらダメ」


ほとんどのアンノウンには本能はあっても知能がない。

そのため大して強制力のないトウヤの力でも平常時のアンノウンの行動を制御することは容易い。

しかし「黙って浄化されろ」という生存本能に反するような命令となればそうはいかないということらしい。


「それについては小さな魔物でも同じだしね。強い魔物と戦わないといけないのは確かだけど、このままよりはよっぽど戦いやすいはずよ」

『――その話、アタシも賛成』


突然アキトの背後から聞こえてきた声に振り返れば、ここにはいないはずの魔女の姿があった。


「師匠!? なんで!?」

『今さっきあっちにあった“穴”が塞がって書き換えが完了したらしいのがわかったから、無事に外から干渉できるようになったかのチェックも兼ねて思念体を飛ばしてみたところよ』


よく見ればサーシャの姿は少し透けている。本体はあくまであちらの世界にいるのだろう。


『で、今の話だけどいいと思うわ。というか、やらないとダメな感じで……』

「そっちはそんなに苦戦してるんですか?」

『今は拮抗状態って感じ? ……けど、こっちは魔物たちと違って疲れちゃうから』


状況が長引けば、それだけこちらが不利になるというのは間違いない。


『でもコヨミ、アナタ本調子じゃないでしょ? 浄化し切れる?』

「確かに私は大して魔力が残ってないけど、アキトたち3人が手伝ってくれれば多分なんとかできるはず。……ただ、浄化には少し時間がかかるからその間私たちを守ったり、魔物の気を逸らしてくれる人たちが必要なんだけど……」

『なら、その役目はアタシたちや≪銀翼騎士団≫……あとついでにクリスたちも巻き込んで引き受けるわ。それなら十分望みはあるでしょ?』


溢れる魔物たちを集めて強大な一体の魔物を生み出し、総力戦で叩く。


それが、この戦いの本当の最後になるらしい。


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