終章-救出、それから-
「――というわけで、無事にトウヤの救出完了しました!」
本殿からトウヤの手を引いても戻ってきたシオンはニコニコと笑顔で無事を伝える。
そんなシオンの前にアキトはゆっくりと歩いてきたかと思えば――
「で、代わりにお前から凄まじい穢れの気配を感じるのはどうしてだ?」
「怖い怖い痛い痛い」
厳しい表情で問答無用のアイアンクローをくらわされた。
とはいえこれは正直想定内である。
「というかお前、目が赤いんだが? ほぼ魔物堕ちしてないか?」
「何せ一回魔物堕ちは経験してるので、耐性がついてるというかなんというか。とにかく大丈夫なやつです」
「まったく安心できないぞ」
「そこはほら、信じてもらえると嬉しいです」
「信じて送り出した結果がこれなんだが?」
「……その、ごめんなさい、僕のせいで」
シオンとアキトのやり取りをそばで聞いていたトウヤが申し訳なさそうに言ったことで、アキトの意識はトウヤに向かい、シオンの顔面から彼の手も離れた。
「トウヤ君……いや、この際トウヤと呼ぶか」
そう言ってアキトはトウヤの両肩に優しく手を置いた。
「……トウヤのせいだとは思わない。ただ、このバカが想像以上に危ない橋を渡ってきたことに腹が立つだけだ。……ここまでするなら俺かハルマに頼るべきだっただろうに」
「俺も同意見だ」
腕を組んでシオンを見るハルマの顔もまたわかりやすく機嫌が悪い。
これも想定内でやったことなのでシオンは文句を言える立場ではないのだが。
「でもまあ、トウヤが無事でよかった」
「……本当に?」
「ああ、知り合いとして普通に心配だったし、俺にとっては弟みたいなものなわけだしさ」
ハルマの「弟」という言葉に目を丸くしたトウヤに、アキトも優しく笑いかける。
「生まれ方は少し特殊らしいが、母さんの子なら俺たちの兄弟と言っていいだろ。まさか今になって弟が増えるとは思ってなかった」
「兄弟……僕の……」
戸惑いつつもトウヤはどこか嬉しそうにも見える。
そんな様子をソードに抱えられたままのコヨミもまた嬉しそうに見つめている。
「お母さん……!」
コヨミの視線に気づいたトウヤがすぐさま彼女のそばに走り寄る。対するコヨミはそんなトウヤの頭を優しく撫でた。
「ごめんなさい……僕……」
「いいのよ。あなたが無事なら、それで」
コヨミとトウヤの再会にシオンもほっとする。
ここにあるのは間違いなくハッピーエンドと言える光景だ。
「で、シオ坊はそのまんまんで大丈夫なのか?」
「大丈夫なつもりだけど、一応保険はかけとくよ」
朱月の問いかけに答えつつ、影の中から取り出すのは一冊の本。もちろんただの本などではない。
「シオン、それは?」
「本社に行ったときに受け取った≪魔女の雑貨屋さん≫特製の封印の器です」
「そんなものがあったのか?」
「ま、試作品らしいので本番で使う気はさらさらなかったわけですが。今回みたいな状況ならちょうどいいでしょ」
本を自身の目の前に浮かせ、開く。
「――我が身の内に渦巻く穢れ ≪天の神子≫の名の下 ここに封じよう」
本へとかざす右手に穢れを集め、本へと流し込む。
時間をかけてある程度の量を流し込んだところで本を閉じれば、革の装丁についていたベルトが勝手に締まってしっかりと本が閉じられる。
「……全部は封じなかったか」
「所詮は試作品なので無茶はしません」
アキトは不満気だが、穢れを注ぎすぎて本自体が壊れるようなことがあっても困る。
それにシオンとしては多少の穢れは残しておいて損はない。
「なんにせよ、これでコヨミもトウヤの坊主も救えたわけだし、やることやってさっさとこんなところおさらばしようじゃねぇか」
「ああ。“封魔の月鏡”の書き換えを始めるか」
「あ、その前にちょっと」
朱月とアキトが動き出そうとする中、シオンは挙手してストップをかける。
「何かあるのか?」
「ええまあ。ちょっと、仕返しを」
誰もが「仕返し」の意味がわからない様子でキョトンとしている中、シオンは軽く腕を振る。
そうすれば、朱月の胸を突然現れた光の刃が貫いていた。




