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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
2章 南米共同戦線
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2章-作戦会議②-


「そんでもって半霊体の性質その三。物体への憑依」


足元にある自分の影をタップダンスするように軽く叩けば一拍遅れて影からデフォルメされた大きめのネコのぬいぐるみが飛び出してきた。

続いてカラスのシルエットのままのふーがぬいぐるみに飛びかかり、溶けるようにぬいぐるみの中に入ってしまう。


するとぬいぐるみは自分の足で床に立ってそのまま華麗にターンを決めて見せた。


「へえ、かわいいじゃない。これはさっきの黒まんじゅうみたいな子が操ってるの?」

「そうですね。憑依した物体を自分の体として自在に動かせるわけです。……そして今回の作戦ではこの能力を一番意識してもらう必要があります」


事前の調査でグランダイバーが大地に同化して操る能力を持つとわかっているが、その能力はこの憑依能力の上位版だと言っていい。

単に半霊体であるだけでは、大きすぎるものや、大地や水などの明確にひとつのものとして成立していないものを操ることなどできない。

今回のアンノウンはそれをなし得るだけの力を有しているという証拠だ。


「艦長たちには少し話しましたが、簡単に言えば"アマゾンのジャングルそのものが敵になる"と考えてください」


直接アンノウンが同化した大地はもちろんのこと、そこに根を張る植物などもまたアンノウンの体としてこちらに牙を剥くだろう。

さすがにアマゾン全体がそうなるとは言わないが、それなりの範囲が操られると見ていい。


「その話を聞くと途方もないが……具体的にどういった攻撃が予想される?」

「地面が隆起して迫ってくるとか、植物が急成長して触手みたいにこちらを捕まえようとしてくるとか、ですかね」


他に地割れを起こしてきたりすることも予想できるが、幸いこちらの機動鎧は飛行できるので関係ない。

もしこちらの戦力が飛行できなかったなら、相手にやりたい放題されていたところだった。


「機動鎧は高度をしっかり保っておけば、相手からの攻撃にはそうそうやられないと思います。……逆に言えば間違って地面に降りようものなら完全にあっちの独壇場です。絶対にそれだけは避けるように」


ハルマたちパイロット三人組に念を押しておけば、三人ともが真剣な様子で頷いた。


「〈ミストルテイン〉は……できるだけ後方に控えておいてほしいです」

「ああそのつもりだ。小回りが利かない戦艦では一方的にやられかねない」


今回のアンノウンの場合、相手のテリトリーに入ってしまえば全方位から攻撃に晒されかねない。

機動鎧ならまだしも戦艦がその攻撃をさばききるのは不可能だ。

シオンがわざわざ言わずともそれを理解してくれているようで、話が早くて助かる。


「長々と説明しましたが、重要なことは三つです」


ここまで話をしてきたが、はっきり言って魔法や異能に詳しくない人間ではピンと来ない内容も多いはず。

中途半端な理解はむしろ勘違いを招くこともあるので、シオンは三つのポイントだけはっきりとさせておきたい。


「ひとつ。アンノウンは大地に宿り、地面や植物を操って攻撃してきます。地面に近づけば近づくほど敵の銃口に近付いているのと同じだと認識してください」


はっきり言って地上に近付くのは自殺行為と言っていい。

高度を保つのは当然として、なんらかの理由で飛行できなくなったならその時点で戦線から離脱するべきだ。


「ふたつ。アンノウンが大地と同化している限り、ダメージは与えられても殺すことは難しい。作戦の第一段階としてアンノウンを大地から追い出す必要があります」


憑依対象を傷つければアンノウンにダメージを与え消耗させることはできるが、決定的なダメージを与えるのは難しい。

例外的にそれを可能にする魔法や道具は存在するが、この場においてシオン以外にはそんな芸当はできないのでないとカウントしていいだろう。


アンノウンに大した知能はないが、それでも本能的に自分に有利な状況――大地と同化し続けることを選ぶだろう。

故にミランダが用意してくれた攻略法で無理やりにアンノウンを大地から引き摺り出す必要がある。


「みっつ。大地から出てきたアンノウンに対して、通常の実体兵装は効果がありません。光学兵装、もしくは≪魔女の雑貨屋さん(ウィッチ・マート)≫製の銃弾を使用して攻撃してください」


大地と同化している間はどんな武器でも問題ないが、大地を離れたグランダイバーは半霊体のアンノウンだ。

加えて安全な大地から引き離された状況では、攻撃されにくいように物質を通過できる状態になろうとするだろう。

そうなれば効果が望める攻撃は限られてくるので、注意が必要になる。


シオンから言うべきことは以上だ。

細かなことは置いておくとしてこの三点を注意していれば、今回の戦いで困ることはまずないだろう。


「イースタル、助かった。……ここからはより具体的な作戦について説明する。今回の場合、作戦の順序をひとつでも誤れば、リカバリーすることは難しい。心して聞くように」


厳しい表情のアキトにブリーフィングルームの空気が張り詰めるのを肌で感じる。


ミランダから伝えられた攻略法をもとに、より具体的に考案された作戦。

アキトは時折シオンに意見を求めつつ丁寧かつわかりやすくその内容を説明する。


作戦の開始予定まで残り十二時間を切っている中、戦いの準備は着々と進んでいくのだった。


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