終章-これからすべきこと②-
「――シオン、サーシャさん」
解散し、通路を歩くシオンとサーシャに声をかけたのはアキトだった。
「どうかしましたか?」
「少し気になることがあってな」
振り返ったシオンとサーシャに追いついてきたアキトは、一呼吸おいて質問を投げかける。
「俺たちの計画だが、何か見落としはないだろうか?」
「……朱月の言ってたこと、気にしてるんですね」
具体的なことこそ何も言わなかったが、朱月はそのようなことを理由として口にしつつこちらの計画ではなくクリストファーの計画を選んだ。
この計画の発案者でありつつも詳細は異能に通じるシオンやサーシャたちに任せるしかないアキトからすれば、不安に思っても仕方がないだろう。
「見落としねぇ……一応お母様も玉藻様もチェックしてくれてるし、ないとは思うんだけど。やることがやることである以上は絶対に大丈夫とは言ってあげられないわね」
「俺も師匠と同じ考えです」
サーシャの言葉に嘘はない。
人柱をなくして“封魔の月鏡”を維持するための術式はミランダや玉藻前のお墨付きであり、見落としがあるとは思えない。
ただ、本当は人柱を残すのが最善であるという事実を明らかにしていないだけだ。
本気で心配を抱えているアキトを騙すのはシオンでも少なからず心苦しいが、それでもこれは必要なことだと割り切る。
「(師匠が先に話してくれてよかった)」
いつの間にやらアキトはシオンの嘘を見抜くのがずいぶんと上手くなった。
このことも、シオンが説明していたら何かを気取られていたかもしれない。
サーシャの説明に「そうか」とひとまず安心したらしいアキトが見えなくなってからシオンはそっと息を吐き出す。
「朱月ってば、土壇場でやらかしてくれるわよね」
「ええ本当に……でもまあ、アイツも人柱を立てたいわけではないみたいですけどね」
コヨミの救出が叶えばいいというのなら、新しい人柱を立てることもまた朱月にとってはどうでもいいことだ。
おそらく人柱を立てる方がよいということを察していたはずだが、それをあえてぼかして口にしなかったのは朱月もまた人柱を立てることに前向きではないということなのだろう。
しかし、サーシャは少し考えが違うのかうんうんと唸っている。
「朱月のことだし、人柱がいることくらいなら気にしないと思うんだけど……」
「まあ、確かにそうですね」
「……アイツが気にするとしたら、気に入ってる子が人柱になったら嫌ってことなんじゃない?」
そう言われると、確かにそちらの方が納得できる。
「コヨミさんのことあれだけ気に入ってますし、アキトさんたち兄妹のこともやっぱり気にかけてるんですね、アイツ」
「それはそうだろうけど……それだけかしらね?」
「?」
含みのあるサーシャの言葉は少し気になったが、視線で問いかけても答えてくれる気配はない。
こういう時どれだけ尋ねても意味がないのはわかっているのでシオンも深くは追求しないでおく。
「細かいことはともかく、実際どうですかね? 上手くいきます?」
朱月の裏切りは過ぎたことであり、それよりも今はこちらの計画が上手くいくかどうかの方が重要なのは言うまでもない。
準備自体は万全ではないが最低限できているし、実際問題やるしかない状況ではある。
しかし、上手くいくかどうかはシオンでもなんとも言い難い。
「本音を言えば、アタシにだってわからないわ。上手くいく時は上手くいくし、ダメな時はダメでしょうね」
つまりはやってみなければわからないというのがサーシャの答えであり、シオンの考えとも一致するわけだ。
それにアキトやアンナたちも言葉にしないだけでそのことはわかっているだろう。
「何もかも前代未聞の計画だもの。ぶっつけ本番であとは臨機応変にやるしかないわ」
「臨機応変、ですか……」
サーシャの言うように、ここから先は状況に合わせてやれることをやるしかない。
おそらくゆっくり考えている余裕もないので、その場その場で瞬時に最善を選び取る必要があるだろう。
「(最善、か……)」




