終章-災い来たれり②-
「師匠! 師匠はここから東の方角に全力でサーチをかけてください! 西は俺がやります!」
「わかったわ!」
「コウヨウ君! 人類軍本部にすぐに連絡を! 世界各地の人類軍基地周辺で何か異常が起きていないか調べるんだ!」
「レッド、こちらもすぐに〈シルバーウィング〉に連絡を! ≪銀翼騎士団≫も情報を集めているはずだ!」
世界において何かが起きたのは間違いない。
アキトとアーサーが情報を集めようと動いているのを横目に、シオンは足元に強力な探知魔法のための魔法陣を展開する。
サーシャも全く同じ魔法陣をその場に展開すると、西を向くシオンとちょうど背中合わせになるように東に体を向けた。
「シオン、タイミングを合わせて」
「はい!」
サーシャと同時に探知魔法を発動し、〈ミストルテイン〉の西側にソナーのように魔力を放つ。
魔力が欧州を通過し、アジアを通過し、そして太平洋に差し掛かった時、シオンはそれを捉えた。
「これ、なんだ……!?」
太平洋のど真ん中にある異様な気配。
間違いなく穢れの気配なのだが、普段感じるものとは明らかに異なる。
だが、どこか覚えのある気配だとも感じた。どこで感じ取ったことのある物なのかを考え、思い至ったのはアマゾンの大型アンノウンや、北欧のファフニールに力を与えた闇の出所。
突然空に生まれた、どこに繋がるのかもわからない亀裂。
あの亀裂から感じられたとてつもない穢れの気配と一致する。
「……師匠、すごく悪い予想があるんですけど聞いてもらえます?」
「奇遇ね。アタシもすごく悪い予想をしたところなの」
東側にサーチをかけたサーシャもおそらくはシオンと同じ気配まで辿り着いている。
その上でこういった発言が出てくるのはどうにも不穏だが、言わないわけにはいかないだろう。
「太平洋にある穢れの気配……もしかして、【禍ツ國】に繋がってるなんてことあります?」
「残念ながら、アタシも同じように考えたところ」
本来はこの世界と隔絶されているはずの【禍ツ國】。
それを繋げられる者は“封魔の月鏡”の要である≪月の神子≫くらいのはずだが、少なくともコヨミはそんな真似をしない。
であればそれができる存在はひとりに限られる。
「トウヤが、繋げてるってことになります……よね?」
「そうね。でも、話に聞いてる限りそういう子じゃないんでしょ?」
「はい」
穢れを自ら抱え、この世界に影響を出さないために【禍ツ國】に向かったトウヤが、ここに来て世界を危険に晒す行動をするとは考えにくい。
しかしそれは、トウヤが正常な状態であればの話でもある。
「……シオン、もしかしてトウヤ君は」
「はい。多分……魔物に堕ちています」
トウヤの体は魔物のものであり、魂は浄化の力を持つ歴代≪月の神子≫たちの魂の残滓の集合体。
常人と比べれば遥かに穢れに対する耐性はあるだろうが、それも無敵というわけではない。
「(……動きがなかったから大丈夫かと思ったけど……そんなわけなかったんだ)」
たった十歳の子供が、大事な母も眠っている状態で世界にひとりきり。
そのような状況での精神的な負担は言うまでもない。
年齢の割にはしっかりした子供であっても、心が折れてしまってもおかしくはなかったのだ。
心が折れ、絶望に染まり、少年は魔物に堕ちた。
そうして今、【異界】によって予知されていた大いなる災いは、自然発生でも、クリストファーの暗躍でもない、想定外のきっかけから始まろうとしているのだ。




