終章-魔女と語らう時間④-
シオンを犠牲にコヨミを取り戻そうとしていた。
決して難解でも遠回しでもないサーシャの言葉の意味は当然理解できるが、アキトはそれをすぐに受け止めることができない。
「思った以上に驚かれちゃったわね。シオンなら多分そうはならないんだろうけど……思ったよりもアキトくんはアタシを信用してくれてたのかしら?」
「……驚くなという方がどうかしていると思います」
アキトの見る限り、シオンとサーシャの仲は良好だ。
シオンは時々冷たい対応をしているように見えてサーシャのことを身内と受け入れているのがわかるし、サーシャもまたシオンのことを弟子というよりは我が子や弟のように扱っているようにも見えていた。
それなのに、サーシャは実はシオンを人柱にしようとしていただの、シオンならそれを知っても驚かないだろうだの言われて、はいそうですかとはならない。
「そこはまあ、アキトくんはやっぱりコヨミと同類の根っこからの善人で、アタシとシオンはそれとは真逆の悪いやつってことよ」
自分を“悪いやつ”と言いながらも悪びれている様子はない。
そんな振る舞いは確かにシオンがたまにするのとよく似ている。
「数年仲良くしてきた友達と、たまたま拾った見ず知らずの子供。どっちが大事かって言えばもちろん前者でしょ?」
「当たり前でしょ?」という言葉が聞こえてきそうなサーシャの主張にアキトは決して首を縦には触れなかったが、一方でシオンであればあっさりと「そりゃそうだ」と受け入れるのだろうとも思えた。
シオンが大事なもののために手段を選ばないのと同じく、サーシャもまた自分にとって大事なもののためなら手段を選ばない性格なのだろう。
ここまで話をすればアキトも彼女の言葉が冗談でも何でもないことを理解できたし、ひとまず飲み込むこともできた。
「もちろんシオンに浄化の力はないけど、代わりにあらゆる魔力を……穢れすらも喰らうことのできる力があった。その上、一気に大量に喰らわなければ魔物になることはないし、時間をかければシオンの体の中で穢れが浄化されるってこともわかった」
≪月の神子≫のように集めた穢れを瞬時に消し去ることはできずとも、自らの内に溜め込んで浄化して、余裕ができれば再度溜め込んでということを繰り返せば≪月の神子≫と同じことだってできる。
それであれば、確かに≪月の神子≫の代わりを務めることができるだろう。
「シオンに出会ってあの子の力を理解した時「これだ!」って思ったわ。≪月の神子≫の代わりなんてどんな人外にも務まらないと思ってたのに、ちょうど代わりになり得る“神”が現れたんだもの。だから手元に置くために魔法を教えることにしたわ」
つまりはあくまで自分の目的のためにシオンの師匠になったということらしい。
今の二人の関係を思うと、それはどうにも複雑だ。
「だから、あの子にあげた名前も、結局はそういうことだったのよね。あの子の力と、“月”に代わってこの世界を見守る存在っていう意味を込めて、“天”。それが≪天の神子≫の所以ってわけ」
そう語ったサーシャは微笑んでいたが、その笑みにはどこか後悔が滲んでいた。




