終章-魔女と語らう時間③-
≪天の神子≫
シオン・イースタルという“神”を指す名前の由来とアキトは詳細には知らない。
シオン曰く、「どんな人外や人間相手でも拒絶反応なく魔力を与えたり、逆に魔力を受け取ったりできる……善きものも悪しきものもすべて許容する天空」ということだったがシオン自身あくまでそのように聞いたというだけ。
そしてシオンにその説明をし、≪天の神子≫の名を与えたのは他ならぬサーシャ・クローネその人だったはずだ。
「どう? 興味あるでしょ?」
アキトがその話題に食いつかないわけがないと確信している様子の問いかけ。
その答えは確かにイエスだ。だが、それ以上に――
「何故、今その話をしようと思ったんですか?」
サーシャの言葉を聞いてアキトの頭に1番に浮かんだのはこの疑問だった。
確かに気になる話題ではあるが、今更と言えば今更でもある。
≪天の神子≫がどういう由来でつけられた名前であろうが、アキトはシオンを信頼しているし、シオンという人間のこともそれなりにわかっているつもりだ。
シオンがまだ隠している能力の秘密などであればまだしも、名前の由来を今更聞かされてもあまり意味はない。
そのくらいのことはサーシャにもわかるだろう。
それでもサーシャが「話しておこうと思う」と言い出すのなら、そこには何かしらの意図があるのではないかとアキトは考える。
「話そうと思った理由は……アナタがシオンを大事にしてくれてるから。それから、あの子の名前は少なからず≪月の神子≫に関係するからよ」
「≪月の神子≫に?」
「あーでも心配しないで。アナタたちが親戚だとかそういうことは全然ないから」
まさかシオンまで月守家に関係があるのかとアキトが身構えれば、サーシャは先にそれを否定した。
そのことにはひとまず安心したが、では何が≪月の神子≫に関係するのだろうか。
「≪天の神子≫……シオンはね。その気になれば“封魔の月鏡”が今のままの状態であっても≪月の神子≫の代わりの人柱になることができるの」
「な!?」
サーシャの言葉にアキトは思わず声をあげた。
「代わりの人柱!? それは≪月の神子≫にしかできないはずじゃ……」
「ええ本来はね。でも極めて純粋な魔力を持つあの子は例外よ」
“封魔の月鏡”は魔術である以上、魔力を根拠に≪月の神子≫を判別する。
そしてどんな魔力にも適応できる≪天の神子≫であればその認証を突破することができるのだとサーシャは言う。
「このことはもう証明されてるわ。……だってあの子はずっと前からコヨミと接触できてたんだから」
アキトたちもつい最近知ったばかりだが、シオンは夢を介してコヨミとすでに接触していたという。
それは本来サーシャやミランダ、玉藻前という実力者であっても不可能なことだという話だったはず。
「シオン自身、奇跡とか偶然だと思ってるみたいだけど、シオンとコヨミが接触できたのはある意味必然なの。この世でそれが可能なのは≪天の神子≫だけだったんだから」
「そして、それができたことがシオンが代わりの人柱になれる証明にもなると?」
アキトの問いにサーシャは頷いた。
「サーシャさん。シオンにこの話は?」
「してないわよ」
「……そうですか。よかった」
シオンが“封魔の月鏡”から≪月の神子≫であると認識されてしまうのなら、アキトたちができることはシオンにもできることになる。それは“封魔の月鏡”の書き換えなども含むだろう。
そんなことをシオンが知った日には……
「教えちゃったら、アナタたちを危ないことから遠ざけて全部やろうとするだろうからね」
「わかってくださってるようで何よりです」
サーシャはまさにアキトの心配を言い当てた。それを理解した上でシオンに秘密にしてくれているのはありがたいことである。
「シオンに言わないでくださってありがとうございます」
「いや、残念だけどお礼を言ってもらえるような立場じゃないのよね。アタシ」
アキトの感謝に対して気まずそうに目をそらすサーシャ。
しかしアキトにはその発言の意味がわからない。
「あのね、今だから言っちゃうけど……アタシ、あの子に≪天の神子≫の名前をつけた頃は、あの子をコヨミの代わりの人柱にしようと思ってたのよ」
「…………は?」
「だからね。シオンを犠牲に、コヨミを取り戻そうとしてたのよアタシ」




