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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
終章 選び取った未来
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終章-両軍交流会③-


「(なんか、騎士の人たちも案外ノリがいいな?)」


交流会に参加してくれている時点で友好的なのはわかっていた。

しかし騎士という名前のイメージからして、もっとお堅い人々なのだと思っていたのだ。

具体的に言うと、酒も食事もあくまでほどほどな程度で上品に交流をするつもりなのではないかと。


「おお! 騎士の兄さんいい飲みっぷりじゃねぇか!!」

「ははは! そういう技師殿もなかなか! それにしてもこの世界の酒は美味いですな!」


そんなシオンの想像に反して、ロビンと酒を楽しげに飲み交わす騎士の青年。

どちらも声が大きく、既に酔っているのは間違いない。


「ちょっと夢が壊れた感じがする……」

「その、彼らのフォローをするとしますと、こちらの世界の食べ物は総じて美味しいので……」


それはつまり【異界】の食事が不味いのではと思ったが、よく考えるとあちらの世界ははるか昔にこの世界から離れた人外たちの世界だ。

加えて人外たちは魔法でほとんどのことが解決するので、工夫や発展ということをしにくい。

美味しいあまり飲みすぎてしまうというあたり、食文化はこちらの世界ほど発展していないのかもしれない。


「……なるほど。機会があればあっちの世界に旅行してみたかったけど、ひとまず見送りかな」

「なんだか、シオンの中で【異界】の評価が大きく下がった気配が……」

「まあ、どうせ旅行するなら飯が美味い所に行きたいよな」


シオンがあえて言わなかったことをギルが躊躇なく口にした結果、ガブリエラがショックを受けたような顔をした。


「確かに正直こちらの世界の美味しい食事に慣れた今のわたしがあちらに戻った時、あちらの世界の食事に絶望するのではと心配になるくらいに食事のレベルの差はありますが……食事はともかく空気や景色はあちらの世界も素晴らしいですよ?」

「何気に食事の評価一番辛辣なのガブリエラでは?」


そんな会話の間にも酒飲みだらけの十三技班に混じって豪快に酒を飲む騎士たちも少なくない。

それ以外にはゲンゾウとタイチのクロイワ親子が酒を交わしつつ喧嘩のような言い合いをしていたり、女性騎士とリンリーたちがワイワイしているのも見える。

よく見るとアーサーが混ざっていてジョッキを片手にピザをつまんでいるように見えたがそっと見なかったことにしておいた。


「んん?」

「シオン、どうかしたか?」

「いや、あんだけ酒飲みたちが盛り上がってる場所なのに、酒が大好きな鬼がいないなと思って」


放っておけば昼間から勝手に酒盛りをおっ始めるような鬼、朱月。

それが今まさに酒を飲みまくっている集団の中にいないことに気づいた。


「言われてみれば。ガブリエラの歓迎会の時は思いっきり親方たちと飲みまくってたのに」

「確かに、いないのは不自然ですね」


シオンの発言で朱月の不在に気がついたらしいギルとガブリエラも同じように首を捻る。

それほど朱月と近しいというわけでもないふたりですら当然のようににそう感じるくらいには朱月は酒に目がなく、あの酒飲みたちに混ざっていないのが不自然であるというわけだ。


「……あれがこの場にいないってなるとなんか嫌な予感がするような」

「オイオイ、そいつぁ流石に失礼じゃねぇか」


噂をすれば影、と言わんばかりにシオンたちの背後に朱月がひょっこりと姿を現した。


「何だいたんだ。どっかで何か悪巧みでもしてるのかと思った」

「俺様だっていつもいつも何か企んでるわけじゃねぇよ。そんなの疲れちまうじゃねぇか」

「それは確かにそう」

「だろ?」

「じゃあ、珍しく酒盛りに参加しないでなにやってたのさ」

「俺様だって静かに飲みたい時くらいはあるって話だ」


単なる気分。そう言われてしまえばシオンたちも「そういうものか」としか言えない。

実際朱月の手には酒があるので、全く飲んでいないというわけでもないらしい。


「(……でも、本当にそれだけか?)」


特に確信があるわけではない。

ただなんとなく、そうではないような気がする。

どうしてそう思うのかと聞かれたところで、シオン自身はっきりとした返答はできないだろう。これはそのくらい曖昧な直感だ。


「どうしたよシオ坊」

「いや、別に。というか、今気づいたけど今のお前に酒飲まれると俺の身体に悪いんじゃ?」


どういう原理か外見は朱月の影響で変化しているが、あくまでその身体はシオンのもの。

であれば朱月が酒を飲めば飲むほどシオンの身体がアルコールを接種したことになるわけで。


「……まあ、細かいことはいいじゃねぇか」

「よくないんだが?」


これ以上飲むなと酒を奪い取ろうとするシオン。それを回避しそのまま逃げ出す朱月。


先程感じた極めて曖昧な直感はすっかり頭から抜け落ち、シオンは朱月を追い回すのだった。


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