終章-隊長たち②-
「そういう暗めの話は一旦置いておきましょうよ。それより、明日のこと聞かないと」
「あ、ああ。そういえばそうだったな」
「明日のこと?」
「明日の夜なんだが、こちらの船で両方の部隊の交流の場を持てないかと思っているんだ」
簡単に言えば、食堂を使って〈ミストルテイン〉とレイル隊のメンバーで食事会をしようという話だ。
「どちらも主要メンバーくらいしか交流がないからな。これから共に戦っていくのだし互いの顔を見る機会くらいはあった方がいいと思うんだ」
「それはいい考えだね。実際、こちらの騎士たちも君たちのことを気にしているようだったからちょうどいい」
それは〈ミストルテイン〉の方も同じで、主要メンバー以外の船員たちも騎士たちがどんな風なのかを気にしているようだった。だからこそアキトもこの食事会を提案しようと思ったわけだ。
結果的に、どちらにとっても願ったり叶ったりの機会になるということらしい。
「……セルシス副隊長。あなたも問題はありませんか?」
「……そちらこそ問題はないんですか、アーノルド副隊長」
ミスティの問いかけに質問を返すレッド。ふたりの間の空気がわずかに緊張する中、そこに割って入るのはアンナだ。
「はいはいピリつかないピリつかない。まあ、ある意味副官同士仲良しって感じでいいけどね」
「「仲良くありません!」」
反論のタイミングがピッタリと合ってしまって気まずそうにするミスティとレッド。
「私が彼に質問したのは、以前、彼が私たち人間のことをかなり警戒していたからです。レイル隊長が受け入れているとは言え、思うところがあるのに参加を強制するのは双方にとって好ましくないと思いまして」
「それに関してはそっくりそのままお返しさせていただきたいところですね」
「私はもう【異界】に関する警戒心については自分なりに決着をつけましたのでご心配なく」
「私も国王陛下や騎士団長が和平の道を選んだ以上、こちらの世界の人間と共存していくことに異論はない」
「要するに、どっちも食事会には賛成ってことでOKなわけね」
どうにも相性が悪いのか喧嘩腰ではあるが、アンナのまとめた通り食事会の実施に関して反対するつもりはないらしい。それならそれで問題はないだろう。
「ふふ、楽しみだ。こちらの世界の料理はおいしいからね」
「期待してもらっているところ悪いが、それほど高級なものは出せないぞ? 一応≪魔女の雑貨屋さん≫経由でパーティー料理は手配してるが……」
「ああいや、高級なものでなくてもいいんだ。個人的にはピザとフライドチキンなんかがあると嬉しいんだけど」
「どうしてまたそのチョイスなんだ……?」
絵本から出てきた王子様のような見た目のアーサーから思いのほかジャンキーでチープなメニューが飛び出してきて、内心アキトは戸惑っている。
「前にサーシャさんとハワイで食事をしたことがあってね。その時立ち入った店で初めて食べたんだが、あちらにはない味でとても驚かされたよ。どうもこちらの世界の方が料理や食文化というのがかなり進んでいるみたいだ」
どうやらアーサーはこちらの世界の食事というものに随分と興味があるらしい。
基本的に落ち着いた雰囲気の彼が子供のようにワクワクしている様子に、たまに格納庫で見かける楽しそうに機械を弄るガブリエラの様子が重なった。
「何はともあれ、楽しみにしてくれているのはいいことだな。……それじゃあ、何かトラブルでもない限りは明日の夜に実施しよう」
「ああ。こちらの騎士たちにも伝えておくよ」
「……それにしても、【異界】の騎士たちとこうして食事を共にする機会が持てるなんて少し前までは考えもしなかったな」
それこそ〈ミストルテイン〉に乗ったばかりの頃は、《境界戦争》の先行きは何も見えない状態だった。
互いに滅ぼし合うのではなく対話によって平和的に終わらせるのが理想的であるとはずっと考えてはいたものの、それが実現できるビジョンなど少しも浮かんでいなかった。
それが今では交渉は進みつつあり、アキトたちはアーサーたちと食事をしながら仲良くしようとしているのだから、不思議なものである。
「それは私たちも同じだよ。……けれど、それはとても喜ばしいことのはずだ」
「ああ。そうだな」
「ふふ、楽しい時間にしたいものだね」
食事会への期待から微笑むアーサーに、アキトもまた微笑みを返すのだった。




