終章-隊長たち①-
〈ミストルテイン〉の艦長室で、アキト、ミスティ、アンナという〈ミストルテイン〉の代表者たちと、アーサーとレッドというレイル隊の代表者たちが向かい合っている。
「――これで、双方の戦力については全て共有できたな」
「ああ。問題ないはずだよ」
アキトとアーサーが頷き合ったところで、互いに緊張を解く。
「急な協力関係……しかも人類軍と≪銀翼騎士団≫ってことでちょっと身構えたけど話してみればスムーズだったわね」
「とはいえ、私たちの部隊が異能に慣れていたからこそのものでしょうが」
「……それはこちらも同じく、タイチがいてある程度人類軍の兵器について把握していたのが功を奏したのでしょう」
ここで代表者同士集まって行っていたのは、〈ミストルテイン〉とレイル隊の戦力、および具体的に可能なことの情報共有だ。
クラーケンの一件で共に戦ったとはいえ、あの時はその場限りの想定だったこともあり互いの手の内についてはほとんど明かしていなかった。
その時とは違って今後共に行動するのだから、隠さずに情報共有をしようというわけである。
「それにしても、〈ミストルテイン〉は思っていた以上に少数精鋭で戦い抜いてきたんだね」
「そもそもあくまで実験用の部隊だったからな。それがいつの間にか当たり前のように戦力として扱われるとは、隊長を任された時には想像もしなかった」
冷静になってみると普通ならあり得ない話である。
その上、今となっては世界の未来をどうこうしようなどという話をしているのだから、本当に人生何があるかわかったものではない。
「しかし、シオンはもちろん他のパイロットたちも優秀な一方で人手不足がずっと問題だったんだ。レイル隊に協力してもらえればそこはなんとなかりそうでありがたい」
レイル隊にはアーサーやソードという突出した戦力に加えて、有能な騎士たちや霧の中で見た無人兵器も多数揃っている。
前線で戦える戦力がそれだけ増えるのだとすれば〈ミストルテイン〉にとってこれほどありがたいことはない。
「……ただ、気になっているのですが、この戦力を使用する機会はあるのですか?」
「残念だが、あるらしい」
レッドの疑問にアキトはすぐに答えを返した。
それはシオンと朱月からの情報だ。
「“封魔の月鏡”の書き換えと魔力の源であるエナジークォーツの運び込みには、どうしてもこの世界と【禍ツ國】を繋げる必要があるそうなんだ。となれば……」
「膨大な穢れとアンノウンを溜め込んでいる世界とこの世界が繋がって、あちらの世界からそれらが流れ込んでくる。ということになるね」
「実際、≪月の神子≫の代替わりの際にはそういったことが起こるらしいからな」
朱月が十年前に力を失った原因はまさにここにあり、コヨミがあちらの世界に渡るにあたってふたつの世界を繋げた際にこちらの世界に来たアンノウンたちをひとりで退けたと聞いている。
そして単なる≪月の神子≫の移動だけでは済まない今回の場合、十年前以上に多くの穢れやアンノウンがこちらに流れ込んでくることになるのは間違いないとのことだ。
「もちろん実行の際には〈ミストルテイン〉とレイル隊だけではなく≪銀翼騎士団≫全体や≪魔女の雑貨屋さん≫も協力してくれる予定だが、一番前に出るのは書き換えなどを行う俺たちになるからな」
「激戦になるのは間違いないってわけね」
おそらくは〈ミストルテイン〉にとってもレイル隊にとっても、これまでで一番危険な戦いになる。
この話をした時にシオンと朱月はそう断言していた。
「何、それはわかっていたから問題ない。それに、騎士として世界の安寧のために戦うのは当然だしね」
「そう言ってもらえると助かる」
その計画を立てていた〈ミストルテイン〉はともかく、レイル隊に関してはアキトたちと面識があったがために巻き込んでしまったとも言える。
それはアーサーもわかっているはずだが、それでもこのように言ってくれているのだ。
アキトは謝るのではなく、彼の善意に感謝すべきなのだろう。




