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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
2章 南米共同戦線
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2章-魔女からの宅急便④-


数十分ほどかけてミランダとの通信を終えたシオンたち。

そんな彼らの目の前には大量の物資が積み上げられていた。


「魔法というのは、本当に俺たちの予想を軽く越えていくな」

「そうですか?」

「こんな量の物資を一瞬で送ってくるだなんて、予想しろというほうが無茶な話だろう」


目の前の大型トラックを使ったとしても一台では運びきれないほどの物資の山は、たった今(・・・・)、魔法で送りつけられてきたものだ。

具体的には魔法陣を介しての空間転移魔法によるものである。


「俺たちからすれば転送魔法での配達なんて日常茶飯事すぎて今更なんですけどね」

「うむ。私たちの隠れ里でも定期的に世話になっていたものだ」

「アンタたちの常識はアタシたちからすれば非常識なのよ……」


呆れた様子のアンナをスルーしつつ、シオンは届けられた物資を確認していく。


「この紙束は……今回の調査報告書ですね。こっちの束は提供された物資のリストみたいです」

「この時代に紙の書類ですか」


馬鹿にしたような態度のミスティだが、仮に人外たちが電子データをバリバリ使いこなしていたら彼女は絶対に嫌がるだろう。


「でもこれ、普通のコピー用紙よね……ってことはデータでも渡せたんじゃ」

「多分、普段の商売の癖とかですよ。電子機器使える人外なんてほとんどいませんから」


魔女たちが電子機器を使えないというよりは、魔女たちからものを買う人外たちが使えないからわざわざ紙の書類を印刷しているのだ。

人外社会のペーパーレス化はまだまだ遠い。


「マジフォンなどというものを作るくらいだ。少なくとも魔女たちはそれなりに電子機器も使えるのだろうな」

「俺と同い年の魔女だっていますからね。そういう若い世代はバリバリ使いこなしますよ」


マジフォンは若い世代の企画だとミランダも言っていたし、まさにそういった日常的に電子機器を使うような魔女たちの主導で作られたものなのだろう。

そのせいもあって技術の詳細については有耶無耶になってしまったが、端末本体はシオンの手元にあるのだから調べようはある。


「にしても、さすが≪魔女の雑貨屋さん(ウィッチ・マート)≫ですね。俺以外魔法使えないのを考慮して機動鎧(アークメイル)や歩兵が使える近代兵器に手を加えたものをピックアップしてくれたみたいです」


リストを流し見てみた限りは、専門の知識がいるような道具は最低限――それこそシオンが使う分くらいしかない。

大部分は普通の銃器に魔法陣を刻んでアンノウンに効果的になるように改造したものや、退魔の力を持つ銀を使った銃弾などの魔法の心得が全くなくても扱えるような代物ばかりだ。


「でもシオン。人外向けの通販なのに人間用の武器なんて売ってるの? 必要ないんじゃない?」

「人外にもあんまり強くない種族はいますし、人外と縁がある家系に産まれたけど魔力は人並みでほぼただの人間、みたいな人いますからね。需要はあるんですよ」


アンナへの返答もそこそこに物資を漁ってみればいくつか興味深いものもある。


「これなんてすごいですよ! 対魔物用RPG!」

「どう見ても普通のRPGだけど!? そんなものまであるの!?」


シオンが掲げているのはお手本のような見た目の対戦車グレネードランチャーである。

少し見ただけでは人類軍で使用されているものと見分けがつかないのではないだろうか。


「こんなんですけど極端に大きくなければ中型アンノウンも仕留められる優れものなんですよ」

「すごいわね……確か使わなくても返品とかしなくていいんだったっけ」

「そういう約束だな」

「書類にもそこは明記されてるんで大丈夫だと思いますよ?」

「じゃあ歩兵部隊の備品にするわね! 今回のアマゾンでは使えないでしょうし!」


アンナがうきうきしているのはおそらく勘違いではない。

一発こっきりの使い捨ての武器とはいえ、これを使えば歩兵が中型アンノウンを仕留められるのだ。

どれだけ火力のある武器を使っても歩兵では小型アンノウンまでしか相手できないとされている中でその戦略的価値は高い。


「……人外の兵器をあてにするなんて」

「それを言ったらシオンを使い倒してる時点で一緒よ。気にしない気にしない」


苦々しく文句を言うミスティをばっさりと切り捨てたアンナはシオンと一緒に武装の検分を始めた。

ミスティはと言えば明らかに納得していない様子だが反論はできないらしい。


「(あの人懲りないなー)」


ここまで幾度となくシオンにからかわれ、アンナに論破され、さらにアキトに注意までされているというのに、彼女は人外やシオンに対する攻撃的な態度を変えようとする素振りも見せない。

疑うのは別に構わないし、勝手にすればいい。

しかし、騒ぐのなら詭弁でもいいからそれらしい根拠のひとつくらい用意してくればいいものを、と少し思ってしまう。

まあ、彼女がどうしようとシオンには関係のないことなのだが。


「あー艦長。この物資諸々どうします? 心配なら艦長も一緒に確認しますか?」

「……いや、アンナが確認するのなら任せる。ただ、調査報告書には目を通しておきたい」

「はーい、飛ばしますよ」


片手に持っていた調査報告書を風に乗せてアキトの手元に飛ばせば難なくキャッチした。

アンナほど積極的というわけではないが、彼もまた着実に魔法に順応しつつある。


「シオン、このマットみたいなのは何?」

「それは多分マットに書いてある魔法陣を魔物が踏んづけると爆発するトラップですね」

「へえ~! 便利ね!」

「えっと、この箱は機動鎧用の銃弾か……しかもスナイパーライフル用」

「こっちにはハンドガン用、アサルトライフル用……一般的な規格は網羅してくれてるわけね」

「……みたいですね」


至れり尽くせりすぎて少々怖い。

ミランダは特別金にうるさいわけではないが、だとしても少々大盤振る舞いが過ぎる印象だ。


「(何か裏があったりしないよな……?)」


魔女という名前からはずる賢そうなイメージを受けるだろうが、≪魔女の雑貨屋さん(ウィッチ・マート)≫自体はクリーンな組織だ。

それにシオン自身ミランダのことを何も知らないわけでもない。

彼女の性格上、あとから騙し討ちのように何かを要求してくることはないだろうと思う。


どちらにしてもここで考えてわかることでもないと割り切って、シオンはアンナと共に作業を続けるのだった。


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