終章-食堂にて女子会①-
――〈ミストルテイン〉の食堂。
人で賑わう食事時以外は閑散としているはずの場所なのだが、今日は少しばかり様相が異なる。
というのも、食堂の隅に団体が――しかも女性だけが集まっているのだ。
「なるほどなるほど。つまりナツミちゃんはシオンへの恋心をバッチリ自覚しちゃったわけね!」
「その通りなんですけど大声で言うのやめてくれませんか……?」
ニコニコとそれはそれは楽しそうなサーシャに微妙な気持ちになるナツミ。
しかしサーシャはナツミの言葉など全然聞いていないようである。
「いや〜ハワイで話を聞いた時からもしかしてとは思ってたけどやっぱりそうだったのね!」
「そんなに前から兆候が……? あ、でも言われてみればそうかもしれませんね」
「学生時代から噂になったこともあったしね……」
「まだ続けるの!? というか学生時代の噂って何……!?」
サーシャ、ガブリエラ、リーナの三人がナツミの恋バナで盛り上がっている。
当人を置いてきぼりにしての和気藹々としたトークがナツミはどうにも恥ずかしい。
「まあ、これはいわゆる女子会だしねー」
「しかも前々から怪しかったナツミちゃんからシオン君への恋愛事情なんておもしろ……気になるネタが提供されちゃえばこうなるっすよ」
「確実に今「面白そう」って言いかけましたよね?」
続けてリンリーとカナエまでそんなことを言い出す始末だ。
さらに言えば発言こそしていないがアンジェラとマリエッタもしっかり目をキラキラさせているので、ここにナツミの味方はいない。
「サーシャさんがシオンと関わりのある女の子たちと話してみたいから女子会するって話だったはずなのに……なんで話題があたしのことばっかりなんですか」
「それはまあ、シオンに関わるからかしらね。ほら、シオンってアタシにとっては大事な弟子で、息子みたいな感覚だし? そんなシオンを大事な友達であるコヨミの娘であるナツミちゃんが気になってるなんてちょっと運命感じちゃうじゃない」
「そう言われると、世間って狭いですよね本当に」
確かにリーナの言う通り、世間は狭いとナツミも感じてしまう。
この世にたくさんの人間がいる中で、ナツミは何かと縁のあるシオンのことを好きになってしまったのだから。
「それはそうと、わたくし気になっていることがありますの」
「気になってること?」
「はい。……ナツミ様は、いつシオン様に告白されるのですか?」
マリエッタからの直球な質問にナツミは言葉に詰まった。
同時に自分の顔に熱が集まっていくのがはっきりとわかる。
「それは〜……まだ全然考えてないっていうか……こんな状況だしちゃんといろんなことが片付いてからの方がいいかな〜って」
「ですけど……多分全てが上手くいったとしても余裕ができるほど落ち着くまでには年単位の時間がかかるのではないでしょうか?」
困った顔をしたアンジェラの指摘に「う」と声が漏れる。
確かに仮に今考えている通りに“封魔の月鏡”を書き換えられたとしても、その後もアンノウンは出てくるわけであるし、この世界と【異界】の和平の問題などにも〈ミストルテイン〉はおそらく関わっていくことになる。
アンジェラの指摘通り、ゆっくりと告白ができるようなタイミングが訪れるのはかなり先になるだろう。
「わかってはいるんだけど、かと言って今すぐ告白っていうのは……そもそもあたし自身それどころじゃないし……」
こんな状況でも恋心を大事にしていいのだとガブリエラに言ってもらえて、ナツミ自身そのことに関しては折り合いをつけたつもりだ。
だからこの状況下で恋に現を抜かしている場合ではない、とは思っていない。
だが、それはそれとして“封魔の月鏡”のことやコヨミの救出のことなどもナツミにとっては気にするべき重大な問題には違いない。
自分の先祖や死んでしまったと思っていた母親の問題が解決していない今、自分の恋愛に集中できるはずもないだろう。
それらの問題が片付いていない状況でシオンとのことを考えるというのは、シンプルにナツミのキャパシティをオーバーしている。
「してはいけない」と思っているわけではなく、「できない」というのが実情なわけだ。
その説明に全員が「ああ……」と納得したような声を漏らした。
「まあ、実は自分の一族が世界の秘密に関わってました! なんて最近急に発覚して、しかも現在進行形でそれが世界を滅ぼすかもしれない問題になってたら、そっちの方が気になるっすよねぇ」
「確かにそうなんでしょうけど……アタシとしてはやっぱり早めに思いは告げておくべ気だと思うわよ?」
カナエの言葉に同意はしつつもサーシャはあくまですぐにでも告白すべきと考えているようだ。
それは何故なのかというナツミの疑問を表情から読み取ったのか、サーシャは少し困ったような笑みを浮かべながら、答えを告げる。
「だって、今の内に言っておかないと一生言えなくなっちゃうかもしれないでしょ? シオンもナツミちゃんも、明日絶対に生きてる保証なんてないんだから」
当たり前のことのように投げかけられた言葉に、ナツミは一瞬頭が真っ白になった。




