終章-師弟の語らい①-
「いや〜、流石はシオンの親友くんね」
シオンとサーシャによる「ギル天才!」発言から数時間後。
ブリーフフィングルームでの話し合いは終わり、シオンとサーシャは〈ミストルテイン〉の展望室で飲み物をおいたテーブルを挟んでゆったりと過ごしていた。
「それに、十三技班とやらのみなさんも面白い人たちじゃない。シオンが教えたとはいえ、あんなに術式を使いこなしてる人たち珍しいわよ」
「創作意欲の塊みたいな人たちですからね……」
ギルの提案した魔力供給をするエナジークォーツのローテーションのためには供給源を切り替えるための術式も必要になるのだが、それはギルを筆頭にゲンゾウや連絡を受けた十三技班の面々も協力してくれてすぐに完成した。
一応ミランダや玉藻前への確認も必要にはなるだろうが、おそらく問題はないだろうというのがサーシャとシオンの見解だ。
「正直、精霊石を集めて代わりにするのってかなり難しかったんだけど、品質を数で補っちゃえるならなんとかできそうね」
「ええ。“封魔の月鏡”のイメージからなんとなく最高品質のものを用意しないといけない気になってたので、ギルのおかげで助かりましたよ」
“封魔の月鏡”ははるか昔から今日まで続いてきた極めて強力な大魔法である、というイメージからそれを維持するには極めて高品質のエナジークォーツを用意しなくては、という考えに固執してしまっていたシオンたちの間違いをギルが指摘してくれていなければ、あのまま実現は難しいという考えから抜け出せなかっただろう。
「本当にあれは盲点だったわ〜。アタシもかれこれ何百年も生きてるけど、まだまだ未熟ってことね」
自分のことを未熟と言いつつも、サーシャはどこか嬉しそうである。
「本当に、この世界には新しいことも面白いこともたくさんあるわ。やっぱり、まだまだ終わってもらっちゃ困るわよね」
「そうですね。そのためにもどんどんエナジークォーツ集めないと」
計算の結果、“封魔の月鏡”の維持には〈光翼の宝珠〉以外に〈レイル・アーク〉のような【異界】の戦艦の動力となっているクラスのエナジークォーツが一〇〇個ほど必要になる。
当初のように最高級の品質の物を集めようとするよりははるかに難易度が低いが、それでも簡単ではないのは間違いない。
ここから〈ミストルテイン〉と〈レイル・アーク〉はそのために奔走しなければならないわけだ。
「まあ、≪魔女の雑貨屋さん≫も味方してくれるわけだから、集められないってことはないはずよ。問題は時間ね」
≪魔女の雑貨屋さん≫に在庫がある分は即座に売ってもらえばいいということで、すでにシオンはルリアに連絡をしている。その結果、現時点での在庫はせいぜい四〇しかないとのことだった。
残りの六〇は≪魔女の雑貨屋さん≫が別の誰かから買い取るか、もしくは製造するしかない。
とはいえそのクラスのエナジークォーツがほいほいと買い取れるとは考えにくいので、現実的なのは製造してもらう方になる。
シオンが作ったお手製のエナジークォーツの製造期間はざっと一ヶ月程度だが、あれは機動鎧さえ動かせればいいとして用意した物であり、シオンが“神子”であることもあって一ヶ月で作ったにしては強力だが必要とする品質には及ばない。
条件を満たす品質のエナジークォーツを作るなら、“神子”であるシオンでも最低二ヶ月。≪魔女の雑貨屋さん≫の普通の魔女たちが作るとなればそれ以上に時間を必要とするだろう。
≪銀翼騎士団≫による妨害や、和平交渉が進みつつあることなどを考慮しても、その間クリストファーが待ってくれるかは正直微妙なところではある。
ある程度実現性も見えてきたので、この計画をクリストファーに伝えて待ってくれるように交渉するという手もあるが、逆に二ヶ月も待てないと言われてしまうリスクもあるのが難しいところだ。
「(それに……)」
シオンには今回の計画に関して気がかりなことがある。
そして幸いにも今ここにはシオンとサーシャのふたりしかいない。
テーブルの下、つま先で二度ほど軽く床を叩けば人避けの魔法が展望室に展開される。
サーシャは当然それに気づいただろうが、理由を尋ねてくることもない。
「師匠。ひとつはっきりさせておきたいんですが……この計画、最善なのは人柱を立てること、ですよね?」




