終章-冴えたアイディア-
「つまり、俺たちがこれから目指すべきなのは、そのエナジークォーツの確保ということでいいんですね」
「そうね。書き換えのための細かい術式はお母様たちが組んでくれるわ。幸い玉藻様が詳しい日本の術だったからそんなに大変じゃないらしいわよ」
準備に関しては他に任せつつ、必要なリソースの確保が〈ミストルテイン〉と〈レイル・アーク〉でこなすべきタスクということになるようだ。
「っていうか、むしろエナジークォーツの確保なら≪魔女の雑貨屋さん≫の得意分野なんじゃないんですか?」
人外界隈の品物を確保するという話なら、ミランダたち≪魔女の雑貨屋さん≫以上に得意とする集団はいないはず。
術式の準備も玉藻前主導ということならむしろミランダたちに動いてもらうのが最善ではないだろうか。
「もちろん、お母様たちも探してはくれてるけど……まあ、物が物だからね。流石の≪魔女の雑貨屋さん≫でも簡単にはいかないっていう」
「……そのような状況で、私たちにできることがあるのでしょうか?」
ミスティの疑問にはシオンも大いに賛成である。
≪魔女の雑貨屋さん≫に見つけられないものがシオンたちに見つけられるとは思えない。
「……ひとまず、ひとつは当てがあります」
そんな中、ガブリエラが静かに告げた言葉はシオンにも完全に予想外だった。
「え、あるの?」
「ひとつだけですが、十分なものがあります。シオンもよく知っているはずですよ」
シオンの知るエナジークォーツ。そして極めて上質なもの。
少し考えればガブリエラの言っているのがなんなのかは理解できた。
「〈光翼の宝珠〉か」
「そうです。あれなら、確実に条件を満たせるでしょう」
現在〈ミストルテイン〉を動かしている、セイファート王国の王家が代々受け継いできた神宝。
それで条件を満たせなければ他に条件を満たせるエナジークォーツなど最早存在し得ないだろうというくらいに上等な代物だ。
「しかし、いいのか?」
アキトがガブリエラに確認するのも無理はない。
現在はなんの因果かアキトが契約をしているが、元を正せば〈光翼の宝珠〉はガブリエラたち王家の所有物だ。
それをそう軽々しく使用していいものかというのはシオンだって気にする。
その問いに対して、ガブリエラは「構いません」と迷いなく答えた。
「そもそもあの神宝は王国や世界を守るためのものです。“封魔の月鏡”を発端とするであろう“災い”を防ぐために使えるのであれば、なんの問題もないでしょう」
「……じゃあここはお言葉に甘えましょう」
ひとまずはひとつ確保できた。とはいえ、残り最低ふたつは必要という話だ。
「師匠、最低三つっていう話でしたけど、それってどういう理由で三つなんですか?」
「えっとね。基本的にはひとつの精霊石から魔力を供給するの。残りふたつは、供給中のひとつに何かあった時の予備を念の為ふたつ用意しておこうってことね」
「トラブルが起きたひとつ目はどうするんですか?」
「あんまり良くはないけど、誰かが修復に出向くつもり。書き換えの時に侵入の条件を多少緩くしてお母様とか玉藻様も【禍ツ國】に入れるようにしておこうって」
予備で魔力を賄っている間にひとつ目の精霊石の不具合を解消し、今度はそれを予備としておく。そうしてトラブルがあっても途切れないように魔力を供給し続ける算段だ。
やっていることはシンプルで、機械などに予備電源を用意しておくのと何ら変わらない。
【禍ツ國】に必要以上に干渉するのは危険かもしれないが、そこは背に腹は変えられないという話だ。
「(というか、もしかしなくてもエナジークォーツを代わりにするのって――……)」
一瞬頭の中に浮かんだ考えをなかったことにして、話を続ける。
「確かにその話だとあとふたつは欲しいですね……」
「とはいえ〈光翼の宝珠〉級のエナジークォーツなんてホイホイ見つかるわけでもないのよねぇ」
シオンとサーシャが唸り出してしまえば、他の面々も同じように唸るしかない――かと思いきやひとり挙手をする男がいた。
「はい、質問です!」
「何かしらギル君」
「その魔力って、質とかも大事なんすか? それとも量だけあればいい?」
「質はあんまり関係ないわね。魔力量の方が大事」
「なら、質のすごくいいのを三個じゃなくて、質がそこそこいいのを三十個とかじゃだめなんすか?」
ギルの問いに少し考え込むサーシャ。そして、
「三十個じゃダメね。……でも」
「でも?」
「もっとたくさんあればいけるかも! 〈レイル・アーク〉の精霊石レベルでも1日くらいは維持できるだろうし! ちょっと計算するわね!」
「なるほど、質のそこそこいいやつで1日維持して、次の日は別のでって繰り返しくんですね! それに〈光翼の宝珠〉にトラブルさえなければそれだけでも維持はできるんだから、宝珠に何かあった時の補助にすることだけ考慮すればいいし……」
ギルのアイディアを受けて空中をホワイトボード代わりに計算を始めたサーシャ。
それにシオンも参加して色々と計算を進めていく。
計算を開始して数分後。空中に大量の文字やら数字やらが溢れる中、師弟は結果を述べる。
「「うん、これならいけそう! ギル(君)天才!」」




