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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
終章 選び取った未来
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終章-問題点-


「結論から言えば、アナタたちのやりたいことは全部できるわ」


場所を格納庫からブリーフィングルームに移し、主要メンバーを集めてすぐにサーシャはそう告げた。


「全部って……本当に全部ですか?」

「ええ。これ以上穢れを集めないようにするのもOK。溜め込んだ穢れを少しずつこちらの世界に戻すのもOK。でもって一番大事な≪月の神子≫が【禍ツ國】にいなくてもいいようにするのもOKよ」

「師匠、一応一番最後のやつは優先度一番低いですよ」

「あら? アキトくんはそのつもりでも、シオンや朱月にとっては最重要項目じゃないの?」

「カカカ! 違いねぇな!」


シオンたちが世界の安全よりも月守家の安寧を優先していることはともかくとして、アキトの掲げた書き換えるという計画は有識者たちの視点からでも実現可能であるとお墨付きが出たというわけだ。


ただ、そう聞かされて素直に喜べるほどシオンは素直ではない。


「本当に大丈夫ですか? 正直そんなにうまくいくとは思ってなかったんですけど?」

「俺様も同意見だ。元より犠牲を前提にしてた代物が多少形を変えたとはいえそう易々と都合よく作り変えられるとは思わねぇ」

「……それに関しては、俺も同意見です」


シオン、朱月、アキトの三人からの確認に、サーシャは「あらあらまあまあ」とわざとらしく反応を返してくる。


「とはいえ、三人の言う通りそうあっさりとは解決しないのよね」

「つまり、問題点はあると?」

「ええ。ただ、そこまで絶望的な問題ではないから安心していいわ」


ミスティの問いにサーシャはさらりと返しているが、シオンはその発言をあまり信用していない。サーシャにとって大した問題ではなくとも、普通の人間にとってそうではないとは限らないのだから。


「簡単に言うと、維持のための魔力の問題ね。≪月の神子≫がいなくなると、“封魔の月鏡”を維持するための魔力が供給できなくなるわ」

「……すみません。≪月の神子≫がいなくてもいいようにできるという話ではありませんでしたか?」

「ええ、≪月の神子≫はいなくてもいいわ。でも、それ以外に魔力を供給する方法は必要ってことよ」

「それはつまり……」


恐る恐る尋ねるアキトに、サーシャはなんでもないことのように告げる。


「まあ、≪月の神子≫に限らなくていいけど、そこそこ大きな魔力を持ってる誰かを新しい人柱にするのが手っ取り早いわよね」


サーシャがさらりと口にした答えに集まったメンバーの大部分は表情を険しくし、シオンはため息をひとつ零した。


「あら? なんか思ったより反応が……」

「俺たちはともかく、アキトさんたちは≪月の神子≫さえ犠牲にならなければいいってわけじゃないんですよ……」


誰かが犠牲になる時点でアキトたちにとってはこの計画は成功とは言えない。

サーシャは少々その辺りの倫理観がズレているようである。


「えっとごめんなさいね。ただ、別に絶対に誰かを人柱にしないとダメなわけじゃないから……」

「……そうなんですか?」

「魔力の供給ができれば、って話ですもんね。供給源が生きている誰かである必要はないんですよ」

「なるほど、エナジークォーツを代わりにすることもできるのか」


軽い説明で答えにたどり着いたアキトの言葉で、険しい表情になっていた面々の表情も少しマシになる。シオンもひとまずそのことにホッとした。


「しかし、それで済むなら問題点というほどのものではないのでは?」

「うーん、そうもいかないのよね。多分そこらへんの精霊石じゃ全然パワーが足りないから」


何せ、“神子”という特別な存在の魔力で維持されていた大魔術だ。

維持するための魔力量は相当なものであると考えていい。


それをエナジークォーツで工面するとなると、かなり質のいいものを用意しなくてはならないはずだ。


「具体的に、どのくらいのものが必要なんでしょうか?」

「とりあえず〈レイル・アーク〉を動かしてる精霊石じゃダメね」

「戦艦ひとつを動かせるものでも足りないとは……」

「そこそこの魔力を継続的に供給し続けないといけないからね〜」


そもそもエナジークォーツは、短い時間ではあまり多くの魔力を生み出せない。

魔力の回復速度が人間や人外のような生きている存在と比べて格段に遅いのだ。


しかし、“封魔の月鏡”の維持にはその”あまり多く生み出せない魔力”がそもそもそれなりの量でなければならないわけだ。

それだけの質のエナジークォーツとなると、もちろん簡単には手に入らない。


「しかも、ひとつじゃダメなの。そのひとつのトラブルが起きたらアウトになっちゃうから」

「確かにそうですね……しかし、それは≪月の神子≫というか、人間や人外でも同じなのでは?」

「そこに関しては、≪月の神子≫の健康を守るための術式が用意されてて、何かあったら自動で回復してもらえるようになってたみたい。ただ、精霊石相手にはそうもいかないから」


人間の体調をどうにかするくらいなら大して難しくもないが、エナジークォーツの調整となるとかなり高度な魔法が必要になる。少なくとも事前に仕込んでおいてどうこうというのは難しいだろう。


「総括すると、かなり質のいいエナジークォーツが複数……最低でも三つはないと人柱の代わりにはできないの」


【異界】の戦艦に使われているようなエナジークォーツよりも高品質のものを最低でも三つ。そんな代物を確保するのは難易度が高いため、この件は問題点となるわけだ。


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