終章-セイファート王国国王④-
元々ギルベルトは同意してくれていたが、国王であるミカエラのお墨付きももらえたとなれば、セイファート王国側は完全に対話へと動いてくれることになる。
「王政って話だから大丈夫とは思いますけど、戦争をしたい派閥とかが反対しないですかね?」
国王とエリート騎士団の団長のふたりがそのつもりである以上、異を唱える者はいなさそうではあるが、王国ではその派閥の発言力が大きいという話もあった。
一応の警戒は必要なのではなかろうか。
しかしギルベルトはシオンの懸念をあっさりと否定した。
「その点については問題ないでしょう。我らがこうしてこちらの世界にくる前の時点で、全ての大臣たちも同意の上で好機があればすぐに和平を目指すことに決まっておりましたからな」
「あれ? そうなんですか?」
「……六年戦争状態だった割には切り替えが早いように思うのは僕だけでしょうか?」
シオンもレオナルドと同意見である。
少なくともこの六年間は戦争を推す意見の方が多かったという話だった。いくら反戦を掲げる人数が増え、なおかつ国王もそちらよりの意見になっているとはいえ、全ての大臣が反戦の方針に賛成するものだろうか?
『確かに、私も少しばかり不自然には感じました。未熟な私ではもう少し説得に時間がかかるかもしれないと思っていましたから』
「……それに関しましては、アーサーと≪語り部の魔女≫殿が裏で動いていたのでしょう」
突然出てきたアーサーとサーシャの名前にシオンたちはもちろん、鏡の先のミカエラも目を丸くする。
「私も全てを把握しているわけではありませぬが、中立の立場にあった者や戦争の推進に迷い始めていた者たち相手に裏で声をかけていたようです。アーサーは若い身の上ながら王家への忠義の厚さに信頼のあるレイル家の者ですし、サーシャ殿は言葉を扱うのがお上手ですからなぁ」
「アーサーさんはともかく、師匠に関しては若干悪口では?」
要するにアーサーの人徳とサーシャの口八丁、さらにはガブリエラ第一王女というカードを駆使して、中立派や揺らいでいた戦争推進派を味方につけていたということらしい。
実際そうするという話はしていたが、こちらに知らせずに色々と動いてくれていたようだ。
「私はあくまで中立の立場を貫きましたが、実際彼らの説得に応じた者もいました。戦いを推す者と反対する者が五分五分となったところで国王陛下直々に説得されたこともあり、強硬策を考えていた者たちも引き下がってくれたのでしょう」
『そのようなことが……そこに気付けずにいたあたり、やはり私はまだまだ王として未熟なのですね』
「アーサーはミカエラ様を実の弟のように思っておりますからな。できるだけ貴方様に負担がかからぬようにと秘密裏に事を進めたのでしょう」
経緯はどうあれ、王国の側で内部分裂が起きてしまうリスクは限りなく低いという認識でよさそうだ。
であれば、あとはギルベルトによる人類軍への呼びかけを実際に行ってもらうまでである。
「…………」
「あれ? ガブリエラ、なんか不安そう……?」
ひとまず、ふたつの世界は対話のテーブルに着こうとしている。
ガブリエラにとって理想的な形ではないにしても、喜んでもいい場面のはずなのだが……どうにも彼女の表情は微妙だ。
「不安、というわけではないのですが……本当にこれで十分だろうか、と思ってしまって。……この件は世界の行く末を決める大一番になるわけですから」
「まだ何かできることがあるんじゃないか、って思ってるわけか」
この件が滞りなく進めば問題ないが、万が一にも何かトラブルがあればとても不味いことになる。それはガブリエラの言う通りだ。
現時点でも十分にできることをやったとシオンは思うが、彼女は本当に漏れがないかどうか心配になっているのだろう。
事の大きさを思えばおかしくはない心配であるし、シオンも自分にとって重要な事であれば同じような心配を抱えていたかもしれないので気持ちもわかる。
「とはいえ、ここからは【異界】と人類軍の問題になるからねぇ。僕らができることはないと思うんだけど……」
「私もそうとは思うのですが……」
レオナルドの言い分を理解しつつも、やはり不安そうなガブリエラ。
シオンとしては、愛する友人をそんな不安を抱えたままにしておくのは気が引ける。
「じゃあ……ちょっとダメ押ししておく?」
シオンの提案に誰もが目を丸くする中、シオンはあることを提案する。




