終章-セイファート王国国王②-
『見苦しいところをお見せしてしまいまして、申し訳ありません』
シオンたちがいろいろ諦めて黙って見守り始めてからざっと十五分後。
ようやく説教も終わり、なおかつシオンたちの存在を思い出したらしい。
鏡越しにこちらに申し訳なさそうに頭を下げる様子は一国の王とは到底思えない、ただの礼儀正しい少年といった風である。
「(まあ、いきなり王様が死んじゃって王様になっちゃったわけだしな)」
王になってから六年は経過しているとはいえ、彼は今年でようやく十三歳になるという話だった。王としての貫禄を持てという方が酷な話というものだろう。
『改めまして、私の名はミカエラ。ミカエラ・エル・セイファート。未熟ながらセイファート王国の王位についています』
「……今更ですけど、俺たち跪くとかそういうアクションが必要だったのでは?」
ガブリエラ相手には気にしたことがなかったが、相手は【異界】の王族だ。
相応に礼儀を弁えた振る舞いをするべきなのではと今更ながらに気がついた。
アキトたちもその辺りは失念していたようで、どうしようかという微妙な雰囲気になる。
『ああ、いえ。お気になさらず。この通信は公のものではありませんし、姉上のご友人ということですから』
「それでいいんだろうか?」と疑問をこめてギルベルトに視線を送ってみれば「いいんですよ」と言わんばかりにゆっくりと頷いて見せてきた。
そんなにフランクでいいのかと思わないでもないが、礼儀作法などわからないので気にしなくていいのならば喜んで気にしないことにさせてもらう。
「それじゃあ、俺はシオン・イースタル。……≪天の神子≫と名乗る方がわかりやすいかもしれないけれど、できれば気にせずシオンと呼んでほしい」
「人類軍特別遊撃部隊〈ミストルテイン〉隊長。アキト・ミツルギです。……本来、一国の代表とお話するような立場ではないのですが、以後お見知り置きを」
続けてアンナとレオナルドが自己紹介をするが、見る限りミカエラはシオンとアキトの自己紹介が気になって仕方がないようである。
『≪天の神子≫様に、イッセイ様のご子息……でしょうか?』
「え……? ミカエラはイッセイ・ミツルギ様を知っているのですか?」
少なくともガブリエラは知らなかったはずだが、今の発言からしてミカエラはそうではないらしい。
「あ、えっと、僕にそちらの世界のことを教えてくれているのは、元々イッセイ様の部下だった方なので」
六年前にイッセイと共に【異界】に流れ着いた人間の中の誰かが、ミカエラに人間の世界のことを教えてくれているということのようだ。
同じような立場である元人類軍の技師、タイチ・クロイワが≪銀翼騎士団≫に所属していることを思えばあり得ない話ではないだろう。
「(若干怪しい感じはするけど、まあそこは置いておこう)」
とにかく、ミカエラにとってシオンとアキトの自己紹介はなかなか衝撃的なものだったようだ。
アキトはともかく、おそらく復讐劇を含めた悪評が伝わっているであろうシオンに敵意を向けたり怖がったりしないあたりは流石ガブリエラの弟というところだろうか。
『シオン様、アキト様。それからアンナ様とレオナルド様、ですね。……弟である私が言うことではないかもしれませんが、その、姉上がご迷惑をおかけしてはいませんでしょうか……?』
「かけていませんよ!? ……おそらくは」
「大丈夫。少なくとも俺はかけられてない」
「そうですね。彼女に迷惑をかけられたということは特にありません」
『であればよかったです。姉上は強く賢い女性なのですが……その、たまに妙に思い切りがよいところがありまして』
ミカエラの言葉に内心「わかる」と頷く。
シオンたちですら思い当たることがあるくらいなのだから、弟であるミカエラはそれ以上に色々な思い切りのいい行動を目にしてきたことだろう。
「(冷静になると、十三技班にいてそこまで埋もれないって時点でもう……)」
個性の強い問題児集団の輪の中で普通にやっていけているあたり、普段の育ちの良さからくる雰囲気に誤魔化されているだけで、シオンたちが思っている以上にガブリエラもぶっ飛んだ人物なのかもしれない、とちょっぴり嫌な事実に気づいてしまった。




