終章-セイファート王国国王①-
シオンたち一行はギルベルトに先導されるまま、巨大な鏡が設置された部屋へと移動していた。
「鏡……でもまあ、ただの鏡ではないんだよね?」
「ええ。世界の狭間を超えてあちらの世界への通信を可能にする、特別な鏡です」
「うーん、魔法素人のアタシから見れば装飾とかが立派で大きい鏡って風にしか見えないんだけど。多分それってすごいわよね?
「ですね。鏡を使って魔法版テレビ電話にするってのはそれほど珍しくもないですけど、本来あっちの世界との通信は難しいはずなので」
そんな世界を超えた通信を可能にしているのだとすれば、これは相当高度な魔法によって作られていることになる。
そんなものがあるとは、流石は王国の精鋭部隊である≪銀翼騎士団≫の団長が乗る戦艦である。
「姫様。使い方はおわかりになりますね?」
「はい。大丈夫です」
「姫様たちがこの船に到着する前に、一度国王陛下には姫様のご無事をお伝えしてあります。……おそらく姫様からのご連絡を今か今かと首を長くして待っておられるかと」
「そうですか……では、早く顔を見せて安心させてあげなくてはいけませんね」
鏡の前に立ったガブリエラが正面に右手を伸ばし、魔力を発する。
そうすれば鏡面がぼんやりと光り、ここではないどこかを映し出した。
一番最初に目についたのは、ガブリエラと同じ白銀の髪だった。
ガブリエラほどではないが男性にしては長い白銀の隙間から、これまたガブリエラと同じ宝石のような鮮やかなブルーが覗いている。
「(儚げ美少年版ガブリエラ……)」
流石に国王相手に余計なことは言うまいと内心で呟くだけに留めたが、鏡の先にいる王冠を頭に載せた少年はまさにそんな風な姿だった。
白銀の髪にブルーの瞳と言えばアーサーとも同じなのだが、従兄弟かつ同性のアーサーではなくガブリエラと似ているとすぐに感じられる辺り、まだ名乗られてはいないが、彼がガブリエラの弟であるミカエラなのは疑う余地もないだろう。
「ミカエラ――久しぶりですね」
「姉上……」
パッと見た限り血色などもよく健康そうな弟を前に、ガブリエラは安心したように語りかければ、あちらからも声が鮮明に帰ってきた。
そしてミカエラはもう一度「姉上」と繰り返す。
「ええ、あなたの姉のガブリエラですよ」
のほほんと微笑んだガブリエラの返答を聞いてからミカエラはすぅと息を吸い込むと――
「どうして姉上はそう無茶をなさるのですか!?」
儚げ美少年というシオンの印象をひっくり返す勢いで叫んだ。というかキレた。
「み、ミカエラ……?」
「姉上が人々を守るためにいつも全力であることは重々理解しています。戦うことが≪戦少女騎士団≫の役目であることももちろんです。ですが、だからといって空間転移寸前の魔物に切りかかるなんて無茶をなさることまでは理解も看過もできません! 幸いにもあちらの世界に無事にたどり着けたようですが下手をすれば世界の狭間を永久に彷徨うことにもなりかねなかったのですよ!?」
「そ、それはそうですけれど……」
「しかも! 世界を超えての連絡は容易ではありませんが、姉上であれば不可能ではなかったはずでしょう!? にもかかわらず半年以上に渡ってなんの音沙汰もないなど! 幸いにも姉上の使い魔である天馬との契約から生きておられることだけはわかっていましたが、みな心配していたのですよ!? 姉上が行方不明になった日などメイド長はもちろんじいやまで卒倒してしまったんですよ!?」
怒涛の説教の中「アーサーがあんまりガブリエラを見つけた時に驚いてなかったのは生死の判断はできてたからか〜」などと納得しつつ、同時に今回は非常に珍しいことにガブリエラが悪いパターンだと理解した。
ガブリエラ自身もそれはわかっているのか、シオンやギルベルトに助けを求める様子もない。
これはミカエラ国王の気が済むまで待つしかないなと全員が理解し、静かに弟から姉への説教を見守るのだった。




