終章-切り捨てるべき相手-
知りうる情報を隠し、ギルベルトからの信用を失うリスクを負ってでもクリストファーたちと≪銀翼騎士団≫の衝突を避けるべきか。
衝突のリスクを承知でギルベルトの信用を優先し、人類と【異界】の対話のチャンスを確実なものにするか。
どちらを選択しても、〈ミストルテイン〉にとって不都合が生じることは避けられない。
つまりは“どちらがマシか”を判断する他にない。
しかし、ここで何かを迷うような素振りを見せれば何か知ってると宣言するも同然なので、隠すなら即決しなければならない。
「(とはいえ、アキトさんにもガブリエラも即決とはいかないよね)」
アキトにとってのクリストファーは恩人でもある相手であり、そう簡単に切り捨てられないだろうし、ガブリエラは他人を裏切ることができるタイプでもない。
となると、もうこれはシオンの出番である
「クリストファー・ゴルドは太平洋にいます」
シオンが躊躇なくクリストファーの情報を口にしたことにアキトとガブリエラはもちろん、アンナとレオナルドもわかりやすく驚いたようだが、ひとまずそれは気にしないでおく。
「一応厳密な座標も知ってますけど、もう何日か前のことなので、用心深いあの人ならもう移動してるでしょうね。拠点が巨大な船みたいなもんなので海上にはいるでしょうけど、最悪太平洋からもいなくなってるかも」
「その様子だと、直接その巨大な船のような拠点で顔を合わせでもしたのですかな?」
「その様子だと、俺たちがゴルドさんと近しい関係なのを知ってて鎌かけてきたってわけではないんですね」
相手は色々と未知数なギルベルトなので、全部知っていながらこちらを試すために質問をしてきている、という最悪のパターンもあり得たが、幸いそうではなかったようで少し胸を撫で下ろす。
「ま、お察しの通りちょっとお話をしました。俺たち〈ミストルテイン〉は何かとあの人の世話になっていたので」
「つまり、彼の味方であると?」
「いえ、味方じゃないですよ。敵でもないですけど」
「“災い”の元凶であっても?」
「その辺りの事情は、今から説明しますからとりあえず判断はその後でお願いします」
「シオン!?」
シオンがさらなる情報をギルベルトに与えようとしていることに気づいたアキトがついに声を上げたが、シオンはそんなアキトを手で制した。
「アキトさんにしろ他のみなさんにしろ思うところはあるんでしょうけど……ゴルドさんとギルベルト団長のどっちを取るかって話なら俺はギルベルト団長を取ります。……どうせ俺たちがこの件でゴルドさんを裏切ったところで多分あの人痛くも痒くもないでしょうし」
クリストファーにとって〈ミストルテイン〉は味方の方がいい存在だが、それはイコール絶対に味方ではないと困る存在ではない。
だからクリストファーは考えをシオンたちに説明した時も味方になってくれとは一言も言われなかったし、中立という考えもあっさりと許容してくれた。
最初から、味方になればよし。敵対するのも場合によっては仕方なし。という考えだったのだろう。
ギルベルトを裏切れば信用を失い大損するリスクがあるが、クリストファーを裏切ったところでちょっぴり残念がられる程度、と予想できるなら前者を優先した方がいいに決まっている。
「(この場で気持ち的にその決断ができないのがアキトさんとかガブリエラなわけだけど)」
それならば、クリストファーを裏切ってもかけらも心が痛まないシオンが裏切ってしまうのが手っ取り早いという話だ。
――そうして、シオンはクリストファー・ゴルドがこの世界で生じた穢れを異空間に溜め込む大魔術“封魔の月鏡”を消し去ることで、世界を元々あった形に戻し、未来に起きるであろうより大きな災いを避けようとしていること。
その結果として世界にアンノウンが溢れ、多くの命が犠牲になるであろうことをギルベルトに説明した。




