終章-厄介な選択肢-
そもそも【異界】がこちらの世界へ干渉しようとした発端は、とある未来予知だった。
その予知が示したのは、大いなる災いの起きる未来。
具体性はないが、こちらの世界を脅かすような問題を指すことは間違いない。
そしてこれまで【異界】や、彼らからその辺りの事情を聞いたシオンたちは最近起きているアンノウンの異常発生などがそれに該当すると考えていたわけだが……
「クリストファー・ゴルドが“災い”を引き起こすっていう話はどこから出てきたんですか?」
「かつて王国の星読みたちがこの予言をした時から今日に至るまで、少しでも災いに関する情報を得られまいかと星読みたちは日々占いを続けてくれています。そして最近、その占いにクリストファー・ゴルドという人物が浮かび上がるようになってきたそうです」
前提として、未来予知の魔法は、遠い未来ほど見え方が曖昧になり、近い未来ほど詳細が見えやすくなる。
ゆえに、少し遠い未来を見ていた関係で、事の発端となった予知は“それほど遠くない未来に”、“人間の暮らす世界で”、“何か大きな災いが起こる”という大まかなことしかわからなかった。
そして今、問題の災いが起きる時が近づいてきたことで詳細を見ることができるようになり、結果その未来に大きく関係すると思しきクリストファーのことがしっかり見えるようになってきたということらしい。
「(まあ、あながち間違いでもないんだよね)」
クリストファーは“封魔の月鏡”を消すことで世界に混乱をもたらすつもりでいる。
それはこの先の世界の未来のためだが、世界中を巻き込む大事件を引き起こそうとしているのは紛れもない事実だ。
そして王国の星読みたちがそのような予知をしているということは、かつて予知された災いと“封魔の月鏡”の消失によって起きる混乱はイコールということになるのだろう。
「(もしかして、問題の“災い”は“封魔の月鏡”の消失のことで、それに至るいくつかのルートの中からゴルドさんが引き起こすルートに決定したってことなのか?)」
遠い未来の予知ほど、実際に事が起きるまでの期間に発生する事象の影響で誤差が生じる。
その誤差を発生させる要因がいよいよなくなってクリストファーが起こすという流れが確定したからこそ、今になってはっきりとクリストファーのことが見えるようになってきたのやもしれない。
「(いや、この際そういう未来予知のあれこれはどうでもいい。問題は、ゴルドさんが何かやらかそうとしてるのが【異界】に先読みされてるってことか)」
【異界】および≪銀翼騎士団≫がクリストファーを災いを引き起こす元凶であるとほぼ確信している。
となれば、次に彼らがしようとすることは簡単に予測ができるだろう。
「現在、我ら≪銀翼騎士団≫はクリストファー・ゴルドを見つけ出し、拘束、もしくは排除することを一番の目標としています」
ガブリエラたちが息を呑む中でシオンは「やっぱりそうなった」と内心頭を抱える。
元々【異界】は問題の災いに対処するために動いていたのだ。
その災いの原因と思しき人物がわかったならすぐにでもどうにかしたいに決まっている。
そして今この場で一番厄介なのは、シオンたちがギルベルトの問いにどう答えるべきかという問題だ。
クリストファー・ゴルドの動向を知っているかと問われれば答えはイエスだ。
彼がこれからやろうとしていることも知っているし、すでに移動している可能性はあるが少し前まで彼がいた場所も知っている。
だがその情報を伝えてしまえば、≪銀翼騎士団≫はなんとしてでもクリストファーを阻止しようとするだろう。
しかし、クリストファーも黙って阻止されることは恐らくない。
その先で起こるのは、クリストファーが邪魔をされる前に慌てて“封魔の月鏡”の消失を強行するか、クリストファーたちと≪銀翼騎士団≫の武力衝突が起きるかのどちらか。
どちらに転んだとしても、シオンたちにとっては非常に都合が悪い。
かと言ってここで知らないフリをして、もしもそれが嘘だとバレると、せっかくこちらに協力的であるギルベルトとの関係が拗れかねない。
そうなれば人類と【異界】の話し合いの機会が遠退いてしまう可能性もある。
とにもかくにも、非常に面倒な状況になってしまっている。




