終章-騎士団長との対面②-
ギルベルトに促されてテーブルについたシオンたち。
アンナやレオナルドの自己紹介も改めてしてしまい、テーブルを挟んでギルベルトと向かい合う。
「それで、姫様。我々のところまで足を運ばれたということは……人類軍と我々の交渉を促すため、ということでしょうか」
「……アーサー兄さんからある程度は聞いているようですね」
「私は立場上、戦争に賛成も反対もしない中立の立場を貫いておりましたからな。アーサーも私を信じて一通りのことを話してくれたのです」
「貴方は中立の立ち位置だったのですか……?」
アキトの質問にギルベルトは当然とばかりに頷いた。
「我々≪銀翼騎士団≫は王国最強の騎士団。強い武力を持つがゆえに、政には介入すべきではないと建国された当時から教えられているのです」
「確かに、そんな人たちが特定の思想に走ると、武力で他の思想を潰してしまえって話になるからねぇ」
軍部が政治に干渉し始めると、クーデターなどに発展しかねない。
そういったことを理解し、気をつけてきたこともセイファート王国がこれまで平和を保ち続けてこれた理由なのだろう。
「であれば、話は早いですね。ギルベルト騎士団長。貴方からこちらの世界の人々に向けて交渉の呼びかけをしてもらいたいのです」
ガブリエラは続けて現在の人類側の事情をかいつまんで説明した。
ギルベルトは口を挟むことなく真剣な様子でその話を聞いてくれる。
「……なるほど、確かにその状況であれば、我々から声をかける方が事が早く進みそうですな」
「ええ。……弱みに付け込むようなことですので、貴方は少し気乗りしないかもしれませんが……」
「否定はしませんが、私も長く生きておりますゆえ。時にはこういったことも必要なのだと理解しております」
「……つまり、こちらの提案に乗っていただけるという認識でいいだろうか?」
アキトの確認に、ギルベルトは躊躇いなく頷いた。
「こちらの世界で我らがどのように動くかは、私に任されております。それに国王陛下――ミカエラ様からも、最大限血を流さずに済む道を模索せよとおっしゃっておりましたからな。我らからの呼びかけで戦いを止められるのであれば、断る理由はありませぬ」
シオンも含め、【異界】側は恐らくこの提案に乗ってくれるであろうと予想はしていたが、その予想以上にスムーズに話が進んでしまって、むしろこちらの理解の方が追いついていないくらいである。
とはいえ、提案に乗ってもらえるのであればありがたい。嬉しい誤算というやつだ。
「ありがとうございます。ギルベルト団長」
「いえ、こちらこそ感謝いたします。人類の混乱は把握していたものの、どう動くべきか決めかねていたのです」
「……あ、そりゃあ流石に人類軍本部のことも把握してますよね」
「ええ。……あの一件には我らも衝撃を受けました」
忙しさのあまり意識していなかったが、人類軍本部で起きた大量のアンノウンの出現は人外から見ても明らかな異常事態だ。
こちらの世界に暮らす人外はもちろん、【異界】からこちらに来ていた≪銀翼騎士団≫にとっても注目せざるを得ない事件だったのだろう。
「もしも可能であれば、あの事件についても教えてはいただけないだろうか? 残念ながら我々はあまり事態を把握できていないのです」
ギルベルトに情報を提供するのは簡単だ。
何せ、あの場で起きた出来事を最も正確に把握できているのは、シオンたち〈ミストルテイン〉の面々とクリストファーたちなのだから。
「(トウヤのこと、【異界】にはできれば伝えたくなかったけど……みんなに説明してる範囲なら話しても問題はないか)」
ガブリエラがギルベルトに知りうる情報を伝えるのを横目に、シオンはあえて黙っておく。
「……なるほど、そのようなことが」
一通りの話を聞き終えたギルベルトは真剣な表情で何かを考え込んでいる。
「ひとつ、質問をしてもいいでしょうか」
「なんですか?」
「皆様は、クリストファー・ゴルドなる人物の動向をご存じですか?」
突然出てきたクリストファーの名前に少々驚かされるシオンたち。
さらに気になるのは、ギルベルトの表情がどうにも険しいことだ。
「何故、このタイミングで彼の名が?」
本部での事件について話す中で彼の名前は出したが、メインとなったのはディーンやトウヤの話であり、クリストファーについてはついでに触れた程度だった。
なのに、ギルベルトは明らかにトウヤよりもクリストファーのことを気にかけているように見える。
「……我々≪銀翼騎士団≫は彼の動向を警戒しています。彼こそが、全ての発端となった予知された“災い”を引き起こす者として」




