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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
終章 選び取った未来
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終章-呼びかける者、応じるもの-


「間もなく、≪銀翼騎士団≫の勢力圏に入ります」


セレナの報告により、ブリッジの空気が緊張する。

こちらに敵対の意思はないとはいえ、一応は戦争相手の勢力圏に入ったのだから当然と言えば当然だ。


「では、レイル君。準備はいいか?」

「はい。シオンも協力してくれましたし、いつでも大丈夫です」


ブリッジの一角に立つガブリエラ。その足元には光の線で描かれた魔法陣がある。

その魔法陣を利用すれば最大限遠くまでガブリエラの念話を届けることができる。

より早く、確実に≪銀翼騎士団≫までガブリエラの念話が届くようにするために、シオンとガブリエラで協力して用意したものだ。


「機密性とか全部捨ててとにかく距離重視にしたんで、これなら迎撃とかされるよりも先に連絡ができると思います」


≪銀翼騎士団≫がそれほど攻撃的ではないのはわかっているが、せっかく対話をしようというのに、ガブリエラが呼びかけるより先に戦闘に突入してしまっては困る。

だからこそ、とにかく遠くまで届く念話で早めに戦いの意思がないことを伝えようという狙いだ。


「そのリスクを考えるなら、レイル隊のみなさんに仲介してもらうべきだったのでは……」

「確かに確実ではあっただろうが、一応彼らと俺たちのつながりは秘密だからな」


秘密のつながりを持っていた〈ミストルテイン〉は少なからず不信感を持たれるであろうし、レイル隊が人類軍と通じていた裏切り者として扱われてしまう危険もある。

ここでつながりを明らかにするより、万が一交渉が失敗した時などのための切り札として残しておく方がいいというのがアキトの判断だ。


「それでは勢力圏に入ると同時に、レイル君には≪銀翼騎士団≫への呼びかけを始めてもらう。……念の為俺は魔力防壁を展開しておくが、基本的には戦闘にならないことが好ましい」


シオンの見立てではおそらく大丈夫だが、ここから先はなるようにしかならない。

とにもかくにも、≪銀翼騎士団≫の勢力圏に飛び込むのみである。


「――勢力圏、入ります」

「始めます!」


ガブリエラの魔力に呼応して魔法陣の輝きが強まる。

同時に、ガブリエラの声がシオンの頭の中に届き始めた。


『私は、セイファート王国第一王女、ガブリエラ・エル・セイファート。≪銀翼騎士団≫団長、ギルベルト・ガルブレイスの応答を願います。――繰り返します。私は、セイファート王国第一王女、ガブリエラ・エル・セイファートです』


念話は発せられているし、魔法陣も問題なく機能している。

シオンたちの想定通りかなり遠くまでガブリエラの声は届いているはずだ。


「(近くに騎士がいなかろうが、探知系の魔法のひとつやふたつくらい仕込んであると思うし、そう時間はかからないと思うけど……)」


今はとにかくガブリエラに念話を送り続けてもらうしかない。


「(まあ、王女を名乗ってる相手の話を聞かずに先制攻撃なんてことは流石にないだろうし……)」


ガブリエラと面識がなくて魔力での本人確認ができない末端の騎士が相手だとしても、攻撃されることはあるまい。

そう判断してシオンは少し気を抜き、事前に持ち込んでいた缶入りのカフェオレを口にした――その矢先、前触れなく鳴り響いた警報によって盛大に咽せた。


「嘘でしょここで仕掛けてくる馬鹿とかいたの!?」

「シオン君、違う! ≪銀翼騎士団≫とかじゃなくて、シンプルに魔物だ!」


新たに出現したのではなく、どこかに出現して徘徊していた複数の個体がこちらに接近してきているらしい。


「陸上の複数の個体、魔力反応増大! 魔力弾、来ます!」


コウヨウによる警告の直後、〈ミストルテイン〉を守る魔力防壁に複数の魔力弾が着弾した。

特に衝撃などはないので、威力は大したことはないようだ。


「アキト、大丈夫な感じ?」

「ああ。この程度なら問題はないが……このまま数が増えると流石によくないぞ」


攻撃を仕掛けてきた中型アンノウンの群れだけではなく他にも複数のアンノウンが接近してきているのがセンサーに表示されている。


「なんで急にこんなわらわら集まってくるわけ……!?」

「あー、念話の魔力に反応したのかも……」

「まさか、こうなるかもしれないってわかってたの!?」


詰め寄ってくるアンナの問いに対する答えはイエスだが、シオンとしては言い訳をさせてほしい。


「念話の魔力に多少アンノウンが反応するのは普通ですけど、こんなわらわら寄ってくるのは想定外なんですよ! いくら広域に念話飛ばしてるとはいえ多すぎです!」


魔法陣を組む際にガブリエラとも意見を交換し「多少寄ってくるかな?」くらいの想定はしていたが、こんなすぐに、しかも大量に集まってくるのは完全に予想外だ。


『ど、どうしましょう! これは完全に予想外ですし、一回念話を止めましょうか!?』

「いや、念話は継続してくれ! こちらの意図が騎士団に伝わらないのは不味い」


ガブリエラも動揺しているのか念話のまま会話してしまっているが、アキトの言うように≪銀翼騎士団≫への呼びかけを止めるのは得策ではない。

当然、アンノウンへの対処をしなければならないのだが、念話での呼びかけなしでは〈ミストルテイン〉が勢力圏に勝手に侵入してきた挙句に暴れ回っているという悪い印象を与えかねない。


「レイル君は念話を継続。アンノウンは騎士団にとっても排除すべき対象のはずだ。俺たちが戦っても問題はないだろう」

「それじゃあ一応格納庫待機にしてたハルマくんたちに出てもら」


アンナの言葉を遮るように再び警報が鳴り響く。


「今度はなんだ!?」

「強大な魔力反応……!? しかもアンノウンじゃないです!」


この場において、アンノウン以外の魔力反応。しかも〈ミストルテイン〉以外となれば、候補はひとつしかない。


シオンがそれを理解した直後、どこからか飛来した光の槍が先程〈ミストルテイン〉に攻撃を仕掛けてきた中型アンノウンの群れの中心に命中した。

弾けた閃光に飲み込まれ、中型アンノウンたちが一気に消滅していく。


「魔力パターン、クラーケン戦でレイル隊の戦艦から放たれた高火力攻撃魔術と一致します!」


コウヨウの報告を耳で聞いている中、シオンの頭にガブリエラ以外の魔力が届く。


『我々は≪銀翼騎士団≫所属、ファルマ隊。ガブリエラ王女殿下の搭乗する貴艦を援護する』


念話と共にブリッジから視認できる位置にやってきた≪銀翼騎士団≫の戦艦。そしてその周囲に展開する無数の魔装。


「どうやら、お迎えついでに露払いしてくれるみたいですね」


そして、≪銀翼騎士団≫による手慣れた魔物掃討が開始された。


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