終章-交渉の前に②-
「冷静になってみると、私たちはほとんど≪銀翼騎士団≫のことを聞いていませんでしたね」
「彼らがこちらの世界に来た時点で確認すべきことだったはずなのに……」とやや落ち込んでいるミスティ。
「気持ちはわかるけど、あの時はアタシたちそれどころじゃなかったじゃない」
「だろうね。だって君たち、ちょうどその頃北米に呼び出されたんだろ?」
アンナとレオナルドの指摘通り、≪銀翼騎士団≫の襲来と上層部からの出頭命令はほぼ同タイミングだったはず。
優先度はどう考えても後者の方が高くなるだろう。
「まあまあ。俺もざっくりしか知りませんし、特に騎士団長さんなんて名前も初めて聞きましたし。気にせず今いろいろと教えて貰えばいいじゃないですか」
シオンが話を進めれば、ガブリエラがコホンと軽く咳払いをして話す準備を整える。
「≪銀翼騎士団≫というのは王国の騎士の中でも実力を認められた騎士が集められた騎士団……私の所属する王都守護を務める≪戦乙女騎士団≫や、王国全土を守る≪王国騎士団≫が一般的な騎士だとすれば、彼らはエリートと呼んでいいでしょう」
「【異界】側の最高戦力……という認識でいいでしょうか?」
「はい。その認識でいいかと」
その辺りの認識はシオンがざっくりと把握していたものとも違わない。
逆に言えば、ここから先はシオンにとっても未知の領域になってくるわけだ。
「≪銀翼騎士団≫は総じて特別な任務を担当します。≪戦乙女騎士団≫や、≪王国騎士団≫は王都や担当地域の守護などやるべきことが決まっているので基本的にルーチンワークな仕事をしますが、彼らは王国の状況に合わせて都度様々な任務に従事するわけです」
「要するに、〈ミストルテイン〉みたいな感じなんだろうね」
どこかでおかしな事件があれば呼び出され、強い魔物が出れば呼び出され、要人の警護を明示されたこともあった。
≪銀翼騎士団≫も同じく、状況に合わせて柔軟に対応することを求められているのだろう。
「エリート部隊ってことは、もしも戦うことになれば厄介なのは間違いないってことね」
「そうですね。〈ミストルテイン〉であれば対応できるでしょうけれど、一般的な人類軍の方々であれば勝ち目はないかと」
「実際、基地とかあっさり陥落してるしねぇ……」
≪銀翼騎士団≫が現れたその日に、都市に被害を出さずに基地だけ制圧してみせた辺りからも、能力の高さはうかがえる。
もちろん、人類軍側にも有能な部隊は存在するので、どこもかしこもあっさりやられることはないだろうが、人類軍が混乱している今、本気で≪銀翼騎士団≫が攻撃を仕掛けてくれば非常に不味いだろう。
「それに、俺たちだって普通に勝てないかもしれませんからね」
「え、君みたいなバケモノがいるのに?」
「少なくとも、レイル隊のソードさんに勝てるって確証は今のところありません」
ソードのことを知らないレオナルドを除く面々がシオンの言葉に頷いた。
「え、そのソードとかいう人外、そんなにやばいの?」
「〈ミストルテイン〉で〈ラグナロク〉以外の全兵装での一斉攻撃を仕掛けたが、斬り払らわれたな」
「斬り払われた……? え、でも、光学兵装とかあるよね……?」
「光学兵装のビームも斬られた」
アキトの説明を聞いて、唖然と言う言葉がぴったりな様子で言葉を失うレオナルド。
実際目にしたシオンたちですら最初は目を疑ったのだから、言葉で説明されただけのレオナルドには信じがたいし、イメージすら難しいだろう。
「え、そんなやばいのが普通にいる軍隊が相手とか、どう考えても勝ち目なくない?」
「ああ。正直、【異界】の側が戦争に積極的でなかったのはこれ以上ない幸運だろうな」
数の利が人類軍にあったとしても、そんなとんでもない人外を倒す術は人類軍にはない。
もしも【異界】がこちらの世界を侵略するつもりだったなら、人類軍がそれに対抗するのはほぼ不可能だっただろう。
「一応言っておきますが、ソード様ほどの使い手は【異界】でも極めて少ないんですよ? あの方が≪銀翼騎士団≫において五本指に入るのは確かですけど」
「裏を返せば、そんなのがあと四人くらいいるってことだよね?」
「残念ながら、あんまり慰めにはならないわねぇ……」
ガブリエラの気遣いもシオンとアンナの指摘であっさりと無意味なものになってしまった。
だが実際ソードのような戦力が他にもいる時点で人類軍にとっては絶望である。
「一応聞くんだけど、騎士団長さんの実力ってどうなの?」
「……≪銀翼騎士団≫の団長は、指揮能力などももちろん重視されますが、原則としては最強の騎士が務めるのが決まりです」
「……つまり、ソードさんより強い?」
「ふたりが直接実力を競ったことはありませんが……その可能性は、あるかと」
ガブリエラの言葉にシオンは頭を抱え、他の面々も表情を強ばらせる。
「……この交渉、万が一こじれて敵対しようものなら、その時点で〈ミストルテイン〉終了のお知らせってことになるね」
空気が読めないのか、はたまたあえて読まなかったのか。
レオナルドは全員が理解しつつもあえて言わなかった恐ろしい事実を口にしたのだった。




