終章-話をする時間③-
食事時を外れた時間ということもあって、シオンとナツミ以外に食事をしている船員はいない。
それぞれ適当な飲み物だけ確保して、食堂の隅の席に座る。
「えっと……こうして話すの久しぶりだね」
「確かに、しばらくは全然話してなかったからな」
シオンとナツミがまともに言葉を交わしたのは、“天魔竜神”の一件の直後。
つまりは、シオンが色々と混乱しつつ力技でナツミたちの記憶をどうこうしようとした時である。
言葉にはしなかったがナツミもその辺りのことを思い出してしまったのだろう。
なんとも微妙な沈黙が二人の間に流れ始めた。
「(うん。これはもう、いろいろと観念した方がいいな)」
実のところ、シオンがここしばらくナツミと話をしていなかったのは偶然ではない。
あからさまに見えない程度にわざとナツミのことを避けていたのだ。
そしておそらく、その結果ナツミは他の女性陣を巻き込んでシオンとふたりで話す機会を作ろうとしたのだろう。
一応、シオン自身いつまでもナツミを避けるつもりだったわけではなかったが、こうなってしまった以上は潔く白状するのが吉だ。……特に、ナツミに関することはやたらとこじれるのだから。
「とりあえず先に言わせてもらうね。ごめん、ナツミ」
「え?」
「実は、このところお前のこと避けてたというか……どういう顔して話していいかわかんなかった」
シオンの言葉にポカンとしているナツミは、避けられていることまでは気づいていなかったらしい。
「避けてた……はともかく、どういう顔して話せばいいかわからなかった……?」
「いや、だってさ……あの時の俺、かなりアレだっただろ?」
強くなりすぎた魔物の力に狂い、本当の魔物堕ちになりかねなかったところをナツミやアキトたちによって救われた。
それなのにシオンが一番に伝えた言葉は感謝ではなく、シオンを救ってくれたナツミたちの行動を否定するものだった。
シオンにとってそれがあの時の本心だったことは否定しない。
けれど、あの時口にすべきことではなかったこともわかっている。
「アキトさんたちはともかく、ナツミはパイロットでもないのに助けに来てくれたのに、多分……というか、確実に酷いこと言ったから。気まずくって……」
どこかでちゃんと謝らなければならないとわかっていて、それでも踏ん切りがつかなくて。
そうこうしている間に、ナツミを避けたまま結構な時間が経過してしまっていたというわけだ。
「だから改めて、あの時はごめん」
ようやく伝えられた謝罪にナツミは戸惑いを隠せないようだった。
視線をあちらこちらに彷徨わせながら、必死に言葉を探しているのがわかる。
「その……あの時のことは、シオンがそれだけあたしたちのこと大事にしてくれてたからだって今はわかってるから、別に怒ってるとかは全然ないし……その後色々とありすぎてちょっと忘れてたところもあるし……」
「と、とにかく! 気にしてないから! だからあんまり暗い感じ出さないで。ね?」と慌てるナツミ。
シオンとしては謝らなければという考えが強かったのだが、むしろナツミのことを困らせてしまったらしい。
「……最近、どうにもナツミ相手だと空回りするな。俺……」
以前であればそうでもなかったはずなのだが、第一人工島での一件からはそんなことが続いているように思う。
自分らしからぬことだとは思いつつも思い当たる原因はなく、シオンは首を捻るばかりだ。
「まあ、それはもういいじゃない。シオンが気にしてたことも解決したわけなんだし、難しいことは抜きにして普通におしゃべりしようよ。……あたしは今日、そういうことがしたかったんだから」
「了解。避けてた分もしっかりおしゃべりに付き合うよ」
ようやく普段らしい気楽な空気が戻って、シオンとナツミは互いに少し笑いながら、久しぶりに他愛のないおしゃべりを始めるのだった。




