終章-話をする時間②-
格納庫での一件でなんともモヤモヤしたものを胸に抱えたまま食堂を目指すシオン。
すると、正面から見知った顔がこちらに向かって歩いてきた。
「ハルマたちー」
「シオン。お前がこの辺りにいるってことは食堂か?」
何も言っていないのにあっさりと行き先が言い当てられた。
実際この通路の近くでシオンが行くような場所は食堂しかないので、ハルマたちからすればすぐにわかることなのだろう。
「あれ? でも、ひとり? 普段は大体ギルと一緒だよね?」
ひとりで食堂に向かおうとしているシオンに気づいて、レイスが意外そうに尋ねてくる。
実際、そう思われる程度にはギルやガブリエラなどと一緒に食堂に行くのが日常なのだ。
「それが、なんかわかんないけどひとりで行くように仕向けられたというかなんというか……?」
ハルマとレイスが首を捻る中、何故かその後ろに控えていたリーナがはっとしたような顔をした。
シオンにしか見えていないその表情の変化は、確実に何かを知っている人間のそれである。
「よくわからないけど、僕たちも食堂に行くところだったし一緒「ちょっといいかなふたりとも!!」
リーナは彼女らしからぬ大声でレイスの言葉を遮った。
そしてハルマとレイスの腕を掴んで引っ張り始める。
「え、リーナ。どうしたの?」
「ちょっとふたりに一緒に来てほしいの。食堂に行く前に」
「は? 食堂に行こうって言い出したのはリーナだったろ」
「用事を思い出したの! とにかく食堂は後で!」
そうしてわかりやすく戸惑うハルマとレイスを引っ張ってリーナは去っていった。
なんというか、わかりやすく格納庫の時と同じシチュエーションである。
「リーナも関係者か〜」
現時点でシオンを食堂にひとりで行かせようとしているのはガブリエラ、リンリー、アンジェラ、マリエッタ、そして今加わったリーナ。
見事に女性だけなのはおそらく偶然ではない。
思い当たることは何かあるかと聞かれると……
「あ〜……一個あるな」
シオンの思いつく中で、女性陣が連携して動いてきそうなこととなれば、心当たりはそのひとつだけ。
その心当たりが正解なら、シオンをひとりで食堂に行かせる理由にも合点が行く。
「となると、やっぱり食堂に行くしかないか」
行けば、シオンの予想が正解かどうかも自ずとわかる。
そう判断して食堂へと足を進め、食堂へ通じるドアを開こうとしたその時だった。
「――シオン、偶然だね!」
そんな風に声をかけてきたのは、ナツミ・ミツルギ。
偶然と言ってはいるが、何やら慌ててここに来たのかわずかに息が上がっているのにシオンは気づいた。
そして、自分の予想が正解だったことも同時に理解する。
「今からシオンも食堂? あたしもそうなんだけど、一緒にどうかな?」
「……うん、一緒に入ろっか」
やや早口な誘いにシオンが頷くと、わかりやすくホッとしたような表情を浮かべるナツミ。
あえてそれを指摘しないで、シオンは食堂へのドアを開いた。
「(全部、俺とナツミがふたりきりで話す時間を作るためだったってわけか)」
諸々の答え合わせを終わらせると共に、シオンは知らぬ間に何やら大事になっていた事実にひっそりとため息をついた。




