2章-魔女からの宅急便①-
〈ミストルテイン〉の点検は滞りなく、問題が見つかることもなく進行している。
予定に遅れはないので明後日には出航可能な状態になる予定だ。
となればそろそろ≪魔女の雑貨屋さん≫からの調査報告が届いてもいい頃なのだが、未だあちらからのコンタクトはない。
「思えば、あちらからの連絡をどのように受け取るかを決めていなかった」
艦長室に呼び出されたシオンを前に、アキトは顔をしかめている。
そのような基本的なことを相談し忘れてしまっていたという事実に軽い自己嫌悪に陥っているようだが、あんなにも急な展開だったのだからそれくらいのうっかりは仕方がないのではないかと思う。
それはともかくとして、今は≪魔女の雑貨屋さん≫との連絡手段についてだ。
「いっそこっちから連絡します?」
「急かしているような印象を与えないか?」
「それくらいでへそ曲げるような器の小さな人じゃありませんよ」
女性らしく年齢の話題には少々過敏だが、一〇〇〇年以上の時を生きるミランダは基本的に器が大きく寛容な人物だ。
こちらから状況を尋ねるくらいなんてことはない。
「アタシたちがここで悩んでるくらいなら、ぱぱっと連絡しちゃうほうがいいんじゃないかしら?」
「そうですね。それについては私も賛成です」
両隣に控えるアンナとミスティの進言にアキトはひとつ頷く。
「ではイースタル。悪いがお前から連絡を……」
アキトの指示に横槍を入れるように通信を知らせる電子音が鳴る。
律義にもシオンにひと言断りを入れてからアキトはその通信に応じた。
『こちらはマイアミ基地正面ゲート警備班です。アキト・ミツルギ艦長、少しお時間よろしいでしょうか』
「構わない。なんの用だろうか」
『艦長宛の荷物が届いています。特に事前の申請などがなかったのですが……』
人類軍に所属する人間は戦艦や基地内の居住区画で生活する者が多い。
それに関連して知人からの手紙や荷物、通販で購入した商品などを基地宛に配送してもらうことが許されているのだが、その場合は荷物が届く前に「この日程でこういった荷物が届きます」という申請を出しておく必要がある。
万が一にも危険物などを送りつけられないようにというセキュリティ上の都合だ。
今回は申請のない荷物がアキト宛に届いたから確認が来たということのようだが、アキトがそういった事務手続きを忘れるイメージはあまりない。
実際本人は首を傾げており、届いた荷物に全く心当たりがなさそうに見える。
「すまないが、差出人を教えてもらえるか?」
『差出人は……≪魔女の雑貨屋さん≫、イギリスからの荷物のようです』
「…………は?」
通信越しに告げられた名前に呆けた声を漏らすアキト。
その傍でシオンもまた口を開けてポカンとしてしまう。
「どういうことだ?」とアキトの視線がシオンに向けられた。
「いや知りませんけど」という意思を込めてシオンは全力で首を横に振る。
続けて「本物か?」と再び視線で尋ねられたので、「多分」という意味で小さく頷き返した。
「すまない、こちらへの荷物で間違いなさそうだ。……少し特殊な品なので念のためこちらから受け取りに行く。必要以上に荷物に触れずに待っていてくれ」
『……承知しました。お待ちしております』
アキトの指示は妙を通り越してかなり怪しいものだったが、あちらもアキトの抱える事情――要するにシオンの存在を知らないわけではない。
若干ためらう素振りはあったがこちらの要望を尊重してくれ、通信は終了した。
「……さて、イースタルを同伴させたほうがいいか?」
「大丈夫とは思いますが、一応行きましょう」
ぞろぞろ大所帯で行くのは正直微妙なところだが、ものがものだ。
結局艦長室にいた四人全員で正面ゲートまで荷物を取りに行くことになり、警備班の人々になんともいえない目を向けられることになってしまうのだった。




