終章-導き出した解決策-
月守屋敷にて大量の本やら魔法道具やらを回収したシオンたち。
その後すぐ、アキトとシオン、朱月、コウヨウの四人はそれらの資料の調査に乗り出した。
ちなみにガブリエラも調査への協力を申し出てくれたのだが、日本語――しかも現代では使われていない文字や表現を含む本の数々は流石に彼女ではどうにもならなかった。
正直に言えばシオンやアキトも厳しく、一番の戦力は朱月、時点で妖狐のコウヨウだった。
そんな条件の悪さの中、文字通り寝る間を惜しんで資料を読み漁ること二日。
「――なんとか色々と情報が得られた」
〈ミストルテイン〉の会議室に集められた主要メンバーの前でアキトは結論を述べた。
「って、もうあの量の資料全部が確認できたのか!?」
「全部ってわけじゃない。明らかに関係なさそうなものは除外したからな」
「だとしてもかなりの数あっただろ……それを四人で二日って」
実際、シオンたちが確認した本はかなりの数になる。
しかも読み慣れない古い日本語となれば、普通の本以上に読破に時間を要することになる。
ハルマの驚きは当然のことで、普通に四人で確認していたらどう考えてもこの日数ではどうにもならない。
それがどうにかなっているのは何故かというと……
「実際、十人くらいでやったからね。分身して」
「あ……その手があったか……」
普通はホイホイ作れるものではないので朱月はともかくコウヨウには難しいのだが、シオンの全力のサポートによりコウヨウを三人、朱月も三人。
さらに解読というよりは関係ないものの仕分けなどの目的でシオンも三人増やして計十三人で挑んでのこの日数である。
「それで……何か解決の糸口は掴めたんですか?」
「ああ。資料から得られた情報から、俺たちであればゴルドさんにはできないアプローチができることがわかった」
「つまり、“封魔の月鏡”を消す以外のやり方ってこと?」
アンナの言葉にアキトは頷く。
「“封魔の月鏡”に関して、ゴルドさんは消す以外の選択肢を考えていないようだった。……まあ、それが存在している限り、いつまでも意図しない崩壊の危機に怯える羽目になるんだから当然だけどな」
かつては間違いなく世界を守る希望だったのだろうが、長く穢れを溜めすぎた結果、世界にとっての爆弾としての側面も有してしまっている。
しかも、解体することもできず、いつか爆発することが確定しているという厄介な爆弾だ。
そんな危険物をどうにかするために、爆発後の問題への準備を最大限整えたタイミングで意図的に爆発させてしまうことが、クリストファーの計画というわけである。
「んー? アキトは“封魔の月鏡”を消す以外のやり方って言ったけど、それだと未来の問題は解決しないんじゃないの?」
「確かに、現状の“封魔の月鏡”を残せばそうなる。……だが、“封魔の月鏡”のシステムを変えられるとしたらどうだ?」
“封魔の月鏡”のシステムを変える。
アキトの突拍子のない発言にアンナはもちろん周囲で話を聞いていた面々もしばし沈黙する。
「システムを変えるってことは……穢れをこれ以上吸収させなくするとか、そういうことができるってこと?」
「ああ。基本的に干渉を受けない“封魔の月鏡”だが、≪月の神子≫だけは術式への干渉ができるらしい。……当然と言えば当然だな。何か不具合が起きた時に誰も手が加えられなかったら困る」
とはいえ誰にでも干渉できる状態だと不慮の事故などが起きる可能性もあるので、≪月の神子≫にしかできないようになっているのだろう。
「幸い、俺はもう≪月の神子≫の力に目覚めているから干渉することができる。それを利用して“封魔の月鏡”を今とは違う形に変えるつもりだ」
「具体的にどうするかも、もう決めてるの?」
「詳細はまだ詰めるが、大まかには二つ。ひとつめはさっきアンナも言っていたようにこれ以上穢れを溜めないようにする」
穢れを溜めないようにすることができれば、少なくともこれ以上状況が悪化するのを止められる。
ひとまず、多すぎる穢れを原因とした“封魔の月鏡”の崩壊のリスクは大きく下げられるだろう。
「ふたつめは、“封魔の月鏡”からこの世界に穢れを流すシステムを付け加えるつもりだ」
「え、穢れを流しちゃうの!?」
アンナが驚くのも無理はない。
穢れをこちらの世界に流すということは、こちらの世界にアンノウンを出現させるのと同じことなのだから。
「それじゃあ、ゴルドさんのと同じなんじゃ……」
「落ち着いてください教官。流すって言ってもドバッと大量に流そうって話じゃないんです」
「ああ、あくまで少しずつ。具体的な量については細かく計算しなければならないだろうが、今よりも少しアンノウンが増える程度に調整するつもりだ」
今までの“封魔の月鏡”は、言うなれば穢れを溜め込むバケツだった。
溜め込まれた穢れをバケツの外に出すことはなく、≪月の神子≫の力によって浄化されて消えるのを待つだけの作りになっていた。
アキトはそのバケツに小さな穴を開けようとしている。
そうすれば溜め込まれた穢れは少しずつ漏れ出していき、新たに穢れが注がれないとなればいつかはバケツも空になるだろう。
「“封魔の月鏡”を一瞬で消してしまえば膨大な穢れによって世界が大混乱に陥る。それを避けるために俺たちは、“封魔の月鏡”をすぐには消さず、中の穢れを少しずつ放出させて穢れがなくなるまで待つ」
そうすれば爆発的にアンノウンが増加して世界が乱れることはなく、ゆくゆくは“封魔の月鏡”という魔術だって安全に消し去ることができる。
それが現時点でシオンたちに考えられる解決策だ。




