終章-隠された部屋にあったもの-
恐らくはアキトとハルマ、そしてここにいないナツミにしか見えないであろうドア。
シオンにも朱月にも、その存在はもちろんドアを隠している魔法の気配すらも一切感じさせていない辺り、極めて高度な術が用いられているのだろう。
「とりあえず、開けてみるぞ」
シオンを肩に乗せたままアキトはドアがあるという壁へと手を伸ばす。
そのまま恐らくはドアノブを動かしたのだろうが、残念ながらシオンの目には何も見えていない。
「……俺が知る限りの見破るタイプの魔法全部発動してるのに、マジで何にも見えませんね」
「そうなのか……とりあえずドアに鍵はかかってないし、もう数センチ程度ドアが開いてる」
丁寧に説明してもらったところで、シオンにはアキトが何もない空中でドアノブを引いたジェスチャーをしたようにしか見えていない。
「ちょっと失礼しますね」
アキトの肩からドアへ伸ばされているであろう腕の上を伝い、ドアノブを握っているであろう手のあたりにぬいぐるみの腕を伸ばす。そうすれば相変わらず何も見えていないものの、確かに何かに腕が触れた感覚があった。
「やっと“ある”ってわかりました」
「ひとまずよかった。俺とハルマが幻覚を見てるってわけではないらしい」
「だな。で、俺様たちには見えてねぇがドアは開いてるんだろ? とりあえずシオ坊引っ付けたままドアの先に行けるか試してくれや」
「え、でも大丈夫なのか? 隠されてるくらいだし、俺や兄さん以外が入ろうとすると罠が起動するとか……」
「だからシオ坊に行かせるんじゃねぇか。仮に入ろうとした奴が消し炭になる仕掛けでも、ぬいぐるみが消し炭になるだけで済む」
朱月の言い分はひどいものだが、実際シオンか朱月のどっちかで試すならシオンで試すのが正解である。
「ということで、アキトさん、ゴーゴーです」
「肩の上でぬいぐるみが炎上する可能性があるっていうのは普通に嫌なんだが……仕方ないか」
シオンもアキトも覚悟を決め、アキトはドアを開ける動きをしてから大きく前に一歩踏み出す。
シオンにはアキトが壁に真っ直ぐ突っ込んでいくようにしか見えないが、次の瞬間目の前が一変した。
「……こりゃ、凄いですね」
現代的だったコヨミの部屋とは似てもにつかない、古めかしい日本家屋の一室。
いくつもの本棚とそこにびっしりと詰め込まれた本はいわゆる和綴じのものばかりだ。
さらには頑丈そうな箱や、うっすらと魔力を感じるなんらかの魔法道具もいくつも並べられている。
「これは、ゴールってことでいいのか?」
「本の中身を読んでみないとなんとも断言はできませんけど、十中八九ゴールってことでよさそうですね」
むしろこの中にシオンたちの目的の情報がないのなら、他をどれだけ探しても見つからないだろう。
「ほぉ〜こりゃあすげぇな」
シオンとアキトが問題なく入れたことで安心したのか朱月もハルマと共に部屋に足を踏み入れてきた。
そのまま手近な本棚から一冊本を抜き出している。
「“月守流封印術指南書 その参”だとよ。この中のどれかにゃ、お目当ての“封魔の月鏡”のことも書いてあるんじゃねぇか」
「でも、この量……持って帰るのはシオンがいればどうにかなるとしても、読むのにかなり時間かかりそうだな」
「確かにこんなにあるのは予想外だったが……まあ、何もないよりはずっといいだろう」
何はともあれ、これでこの屋敷での目的は果たされた。
「(あとは、ここにある情報から何か糸口が掴めるかどうかって話だね……)」
ひとまず近くの本棚を丸ごと〈ミストルテイン〉に空間転移させつつ、シオンはこの先のことに考えを巡らせ始めるのだった。




