終章-屋敷の奥にて-
しばらくの間屋敷を探し回ったシオンとアキトだったが、進捗はよろしくない。
「見事に物がないですね……」
封印される前にしっかりと身辺整理がなされたのか、屋敷の中はとにかく物がなかった。
当然シオンたちが求める情報が書かれた資料などもない。
「物だらけでどれが目的の物なのかわからない〜みたいな状況よりはマシですけど」
「確かに、時間のロスは少ないな」
立派な屋敷な上、やはり少なからず空間が拡張されていたのか広いし部屋数も多いのだが、どの部屋にも物がないので一部屋調べるのにかかる時間は五分にも満たない。
もしも各部屋に数十分もかかっていたらどれだけ大変だっただろう。
とはいえ、見つからないことには変わりないので、問題は何も解決していない。
「まあ、入り口に近い部屋から順にチェックしていたわけだからな。重要なものを置いてくとすればお前の言う通り奥の方なんじゃないか?」
「だといいんですけど、ここまでがこんな調子だったからちょっと不安になってきました……」
そんな話をしていると、曲がり角からハルマと朱月が出てきた。
「兄さん、シオン」
「その調子だとお前さんたちも収穫はなさそうだなァ」
「つまりそっちも収穫なしってことか」
手分けをするとなった時、重複を避けるために探し終えた部屋に魔力で痕跡を残すことは決めたが、探す場所については特に決めていない。
それなりの時間屋敷を歩き回っていれば遭遇くらいはする。
むしろそれなりに奥まできたので他のメンバーとも順次合流することになるかもしれない。
「っていうか、朱月。マジでお前なんの役にも立たないの?」
「知らねぇもんは知らねぇよ。シオ坊だって重要なことは俺様に隠すだろ?」
「悪い鬼なんだから、相手が隠してるのを出し抜いて多少は情報を掴むくらいしてろって話」
「流石に理不尽がすぎるぞ……」
朱月は不服そうだが、この鬼はシオンのことも鮮やかに裏切ってみせたような奴なのだ。
シオンからすれば、そのくらいのことしていて当然のように思えるのだが……。
「まさかお前、コヨミさんに絆されすぎてそこまで気が回らなかったとか」
「…………さぁな」
「図星かい……」
シオンの想像以上に朱月がコヨミに甘かった事実が明らかになる一幕を挟みつつ、シオンたちは再び探索を開始する。
もうわざわざ分かれるのも面倒なので四人一緒だ。
「……ん? あれ……洋風のドアだ」
ここまではどの部屋も純和風だったというのに、目の前にあるドアはハルマの指摘通り洋風だ。
「明らかに、他の部屋とは違うって感じだな」
「ですね。一応電気とか水道は普通に通ってましたしトイレとかは流石に洋式でしたけど、そういうの以外はここまで全部和風で古めかしかったですもんね」
アキトの指摘通り、ここは他の部屋とは何かが違うのだろう。
「ここは……」
「朱月、心当たりある感じ?」
「ああ。俺の知ってる限り、この屋敷で西洋風の部屋なんぞひとつしかねぇからな」
そう言って朱月は躊躇なくドアに手をかけた。
鍵がかかっているわけでもないらしくあっさりとドアは開き、シオンたちも朱月に続いてドアの先へと足を進める。
「……ここまでとだいぶ雰囲気が違うね」
部屋の中はここまでの日本家屋らしい畳の部屋ではなく、かと言って洋風とも言い難い、フローリングに白い壁紙という近代的な広い部屋だった。
ここまでの屋敷とはあまりにも違っていて、少し頭が混乱しそうである。
また家具も他の部屋と比べれば残っており、少し大きめのベッドや洋服ダンスや本棚、シンプルな机などがある。
これまでの何もない部屋と比べれば、ずいぶんと人が暮らしていた痕跡が残る一室だ。
「で? 結局ここってなんの部屋なの?」
「特別な部屋ってわけじゃねぇ。ここは、ガキの頃からコヨミが使ってる私室ってやつだ」




