終章-月守屋敷①-
二台の車両に分かれて乗り込んだ面々は、直接月守家の屋敷に向かうのではなく、ひとまずはかつてシオンも行ったことのある御剣家へと向かうことになった。
というのも、月守家の屋敷を今管理しているのは御剣家なので、鍵などもそちらで管理しているらしいのだ。
「何度見ても大きい……むしろ前見た時よりも大きい気がします」
まだ記憶に新しい御剣家を前にそんなことを言っていると、この家の執事である早川が静かに現れた。
「おかえりなさいませ、アキト様、ハルマ坊っちゃま、ナツミお嬢様。そしてお客様方もようこそ」
大所帯を前に礼儀正しく礼をした早川だったが、少し視線を彷徨わせてから不思議そうな顔をする。
「早川、どうかしたか?」
「いえ、アキト様たちを含め9名で来ると伺っていたかと思うのですが、おひとり少ないですし、イースタル様の姿が見えないようですが……」
「ああ、それなら」
「ここです、ここ」
早川の視線がシオンの声のする方に向かい、そのまま大きく見開かれる。
それもそのはず。シオンの声を発しているのはどこからどうみてもネコのぬいぐるみなのだから。
「ふむ……事情はわかりかねますが、そのような魔法もあるのですね」
「理解が早くて助かります。……早川さんなら、案外こういうのにも慣れてるんでしょうけどね」
シオンの言葉に、ほんのわずかにだが早川が言葉を詰まらせた。
しかし、それは一瞬のことで次に彼が浮かべたのは困ったような微笑みだった。
「……いいえ、知っている方がぬいぐるみになっているなどという不思議な体験は初めてですよ。妖術を目にしたことがないと言えば、嘘になりますがね」
「やはり、早川もこの家がどういう家だったか知ってるんだな」
御剣家はかつて魔物狩りを生業としていた一族。
そしてそれを一族の人間にも隠すようになったのは、あくまでアキトたちが生まれた時からのこと。
アキトたちはもちろん、その父親であるイッセイのことも赤ん坊の頃から知っているという早川が、御剣家の真実を知らないはずがないのだ。
「ええ。私自身、少しばかり見えてしまう体質ゆえにここに来た身ですから」
「……そうか」
アキトたち三兄妹からすれば、早川もまたずっと自分たちに隠し事をしていた相手ということになるが、同時に自分たちを守ろうとしてくれていた相手でもある。
上手く言葉が出てこない様子のアキトたちに少し悲しそうな顔をしてから、早川は朱月に向き直った。
「朱月殿、お久しぶりです。まさか貴方と再会することになるとは思いませんでしたが……その様子ですとアキト様たちを守ってくださるのですね」
「ま、こいつらはコヨミの子だからな。……それにイッセイのことも俺様はそれなりに買ってたんだぜ?」
「ありがたいことです。……世界はずいぶんと危うくなってきているようですからね」
朱月と軽く言葉を交わしてから、早川は改めて全員を見渡した。
「皆様は、月守の屋敷に立ち入りたいとのことでしたね。全員が乗れるお車をご用意しておりますので、これよりご案内いたします」




