終章-選ぶべきこと-
「――というのが、クリストファー・ゴルドという人物の目的だそうだ」
〈アイランド・ワン〉から出航する前の〈ミストルテイン〉。
そのブリーフィングルームで、アキトは昨日クリストファーから直接聞いた内容を集まる面々に全て説明した。
事前に知っていたシオンやアンナたちを除く面々の反応は、全体的に驚きが強いようである。
「……ったく、前々からなんか企んでやがるとは思ってたが、まさか大悪党になる算段だったとはな」
呆れたようにゲンゾウが言う。
クリストファーと近しい彼にとっては衝撃的な事実もあったとは思うのだが、案外落ち着いているようだ。
「というか、知り合いが世界の敵になるのにそんなあっさりめの反応でしいんですか?」
「あ? 別に今更だろ。そもそも教え子が実は神様で、いつの間にかドラゴンだのアンノウンだのになって、挙句の果てには体を鬼に取られたかと思えば機動鎧の動力になってるんだぞ? 昔馴染みが錬金術師でちょっと世界を危険に晒そうとしてるくらい軽いもんだ」
「な、何も言い返せねぇ……」
要するに、ゲンゾウの落ち着きはだいたいシオンのせいということらしい。
さらにそれを聞いていた他の面々も「言われてみればマシかも……」という空気になっている。
「もっと混乱すると思ってたけど、シオンのおかげで意外とマシね」
「それでいいのかと思わなくもありませんが……まあ、混乱して話が進まないよりはいいでしょう」
アンナとミスティのコメントを受けてアキトは少しばかり微妙な表情を浮かべたが、結局同じような結論に至ったのか気にせず続きを話し始めた。
「そんなゴルドさんの考えを踏まえて、俺個人の結論は“別の解決策を探す”だ。多くの犠牲を払う選択を許容はできないが、完全に否定すればもっと多くの犠牲に繋がる」
「だから賛成も反対もしないで別のアプローチってわけか。お前らしいな」
ラムダの言葉にアキトはしっかりと頷いた。それから改めて集まったメンバーを見渡す。
「ただ、これはあくまで俺個人の考えだ。そして、このレベルの問題について俺の考えを〈ミストルテイン〉全体に押し付けるべきではないとも思う」
この件は、冗談ではなく世界の命運を左右する選択だ。
だからこそ、それぞれの個人が自分自身の考えでどうするか選ぶべきだと、アキトは考えているのらしい。
「これから、艦内の全員に全てを説明して、どうしたいかを問うつもりだ」
「……なかなかヘビーな選択を迫るねぇ」
「レオもわかるだろ。ヘビーだからこそ自分で選ばせるべきだ」
人類軍本部での一件からそのまま同行しているレオナルドが茶々を入れるが、アキトはあくまで真剣なままだ。
「ゴルドさんの考えに反対しない時点で、少なからず俺は世界の敵の側についたようなものだ。少なくとも俺の命令でそんな道を選ばせるわけにはいかない。それに俺が選んだのは一番中途半端で、一番難しい道だ。そんな成功率の低いものに付き合うより現実的なゴルドさんの考えに乗りたいって考えも当然あり得る」
世界の、そしてそれぞれの命運を決定づけるかもしれない選択だからこそ、本人の意思で選ばせなければならない。
このことは、他人の選択に任せてはいけない領域にあるのだ。
「じゃあまあ、俺はアキトさんの考えに乗るってことでお願いしますね」
シオンの答えはとてもシンプルであるし、もう決まっている。
だから聞かれる前にさっさと意思表示をしておいた。
「俺もそっちに乗る。あと、どうせ十三技班の連中も同じだぞ」
「お爺ちゃん……多分その通りだけど、大事なことなんだから一応確認しないとダメよ」
続いてあっさりとアキトの考えに乗ったのはゲンゾウだ。
アカネもゲンゾウのことを注意してこそいるが、ゲンゾウの言葉を否定はしないのでアキトの考えに乗るつもりなのだろう。
「俺も兄さんの考えに賛成だ。元々は俺たちのご先祖様のやったことが発端なわけだし、少しでも安全な方法を探したい」
「あたしも! 少しでもたくさんの人に助かってほしいから」
「じゃあこの流れでアタシも。アキトの考えに乗っかるってことでよろしく」
「私もです」
シオンたちに続いて集められた主要メンバーが次々にアキトの考えに賛同すると主張し始める。
「シオン、お前のせいで収拾がつかなくなってきたんだが?」
「どうせこの後聞くんだからいいでしょ。もうさっさと全艦に諸々放送しちゃいましょうよ」
呆れたように、それでいて少し安心した様子でアキトは艦内全体への説明の準備を始めた。




