終章-〈アイランド・ワン〉の正体-
話をしている間に移動は終わり、シオンたちは小洒落たレストランにいた。
このレストランはクリストファーたちと話し合いをした建物から少し離れたところにあり、一見すると普通の都市にでもありそうなレストランである。
当たり前のように制服を着た店員が働いているし、シオンたちは奥の個室に通されたが、他にも何組かの客がいるようだった。
「なんかこのレストランもそうですけど、この辺り全体的にただの都市みたいな感じになってません?」
このレストランの隣には雑貨屋が、そして向かいには書店がある。
何も知らない人間にこの辺りの写真を見せたなら、間違いなくどこかの都市の一角であると思うだろう。
「それはそうさ。この辺りの区画はあえてそういう、どこかの穏やかな都市みたいなイメージで作ってあるからね」
「どうして?」
当然だとでも言いたげに答えたヴィクトールにシオンはストレートに疑問をぶつけた。
巨大な船であるこの〈アイランド・ワン〉の上にわざわざそんな場所を作った意図がシオンにはさっぱりわからない。
「正直この船に来た時から謎だったんですけど、なんでこんな島みたいな船を作ったんですか?」
「そうだね……この船は、私たちの秘密基地であり、巨大な戦艦であり、民間人を受け入れるための難民船でもある。というところかな」
秘密基地という扱いについてはシオンたちもある程度予想していたが、巨大な戦艦と難民船というのは想定外の答えである。
「戦艦って……この船戦えるんですか?」
「ああもちろん。戦力としては〈ミストルテイン〉が停泊中の基地には人類軍からちょろまかしておいた〈クリストロン〉や〈グングニル〉がしっかり用意してあるし、クリストファーに同調して死んだフリをした軍人たちがいつでも戦えるように備えているよ」
「しれっとヤベェことぶっちゃけますね」
「それに、今は地面に格納してあるけど、回転砲台やミサイル発射管、さらには人類軍には使えない魔法寄りの兵器なんかもそれはもうたっぷりと用意してあるとも。規模で言えば戦艦というよりは人類軍基地と言ってもいいくらいさ」
ヴィクトールの様子からして、人類軍本部のような特別巨大な拠点と比べれば流石に劣るだろうが並の人類軍基地を上回る戦力があるのは間違いなさそうだ。
「つまり、ここは“封魔の月鏡”消失後の戦いのための母艦兼拠点、のような役割を果たすのですか?」
「そういう風にも使えるようにしてある、というのが正しいね。何せあれを消し去ったあとの世界について私たちが予想できているのはかつてない魔物の大量発生くらいだが、それ以外に何かが起きる可能性も否定できない。ある程度柔軟に対応できるようにしておかないと」
この〈アイランド・ワン〉は言ってしまえば移動できる軍事拠点だ。
海の上という制約はもちろんあるが、普通の軍事拠点と違い、問題が起きている地域に出向くことができるという点でかなり柔軟であると言えるだろう。
「とりあえず、戦艦としての側面はここまでの説明で理解できました。でも、難民船っていうのはどういうことなんです?」
「ひとまず“封魔の月鏡”消失後に世界に魔物が溢れることは間違いない。そうなると家を失ったり避難を余儀なくされる人々も多く出るだろうからね。そんな人々をひとまず迎え入れて安全圏……強力な人外によって守護されている土地などまで逃すことも想定しているのさ」
それがこの〈アイランド・ワン〉難民船としての側面、というわけらしい。
確かにこれだけ大きければ、相当な人数を収容することができるだろう。
「で、ようやく最初の質問に戻るんだが、この辺りの区画はそういった避難民や私たちに協力してくれてる人々の家族なんかのためにあるのさ。……長期間何の娯楽も余裕もない生活を続けるというのは精神を蝕むからね」
だからこそ普通の街並みのようなレストランや店があり、それらが普通に営業している。
〈アイランド・ワン〉という戦艦に乗っていることをできるだけ忘れさせて、平穏な日常を味わえるようにという配慮なのだ。
「ちなみに、この区画にある店は全部我が≪スカーレット・コーポレーション≫系列で欧州で普通に展開しているチェーン店だ。それとその気になればこの区画はそのまま全域地下に格納されるよ」
「……さっきまでかなりいい話感あったんですけど、もしかして少なからず商売の側面もあります?」
「平常時は普通にお金を取るけど、避難民にはちゃんとその辺り配慮するよ?」
とにもかくにも、〈アイランド・ワン〉がどういうものなのかシオンたちはようやく理解できたのだった。




