2章-シオン・イースタルという存在①-
爆発事件の詳細をシオンに聞いたところ、彼曰く「リンリー先輩に魔法教えてたら、何をトチ狂ったのか「爆発せよ」とか唱えやがりまして」と敬語と暴言がないまぜになったなんとも言い難い口調で説明した。
口調の雰囲気からシオンがなかなかに怒っていることが付き合いの短いアキトにも察せられた。
「炎よ、って言って炎が出るなら爆発も起こせるのかなって」
「間違ってないですけど練習中にする人がどこにいますか? いやまあここにいたわけですが」
「正直悪かったと思ってるし、まさか初めてでできるとは思ってなかった」
やらかしたリンリー本人も失敗して笑い話になれば、くらいのつもりでやったことらしい。
どちらかと言えばそれがあっさりできてしまったことのほうが驚くべきことである。
「魔法とか魔力のコントロールって結局はいかにイメージできるかどうかですから……普段からドッカンドッカン爆発させてる先輩とは相性良すぎたんでしょうね」
その後、今後シオンの監督していないところでの爆発魔法の使用は禁止、ということで話は落ち着いたが、アキトとしてはそれ以前に艦内で軽いノリで魔法を使用すること自体に物申したい。
「言っときますけど、俺だってそんな危ない魔法なんてポンポン使ってないですよ? 精々ちょっと物持ち上げたり空飛んだりしてるだけで、炎とかビームとか出してるわけじゃないですもん」
「危険なものでなくても魔法は魔法だ」
「つーか炎だのビームだのも出せんのかよお前」
厳しい表情のラムダに「ええまあ」とあっさり答えたシオンはアキトの言い分に納得していないのか不満そうな顔で頬を膨らませている。
「普通の人間として生活してた頃はある程度我慢してましたけど、魔法は俺にとって生活に必要な要素なんです! 空を飛ぶなと言われると、歩くなと言われているの同じようなものなんですけど!」
「一時期我慢できていたなら今でも我慢できるだろう? 俺が見る分にはまだいいが、他の船員がそれを見てお前を危険視するとまた余計な騒ぎが起こり兼ねない」
「知ったこっちゃないです。それに魔法使おうが使ってなかろうがあんまり関係ないでしょ」
シオンの主張もわからなくはないが、魔法を軽率に使うほうがトラブルが起こりやすくなるのは間違いない。
どうにも上層部との話し合い以降シオンの中で何かが吹っ切れてしまったようなので完全に禁止するのは難しそうだが、せめてある程度の自重は促したいところだ。
「……わかった。では格納庫での使用に関しては目を瞑ろう。代わりにそれ以外の場所では必要以上に魔法を使わないと約束してくれ」
「俺にメリットないんですけどー」
「もしも格納庫以外での使用が報告された場合、説教だ」
「説教」
「艦長室に呼び出してアンナも同伴の上で最低一時間説教する」
シオンがあくまで協力者という立場である以上、こちらから強制力のある命令を出すことはできない。特に作戦行動中などではなく作戦外の生活態度の問題となれば余計に厳しい。
加えて明確に人類軍が不利益を被るようなことがなければペナルティを課すことも難しい。
そういった状況の中でアキトに可能な最大限の脅しが、この"説教"だ。
ペナルティと呼ぶほどのものではないので相手が協力者であっても特に問題はないし、ただの言葉による説教であれば身の安全を脅かす行為ではないのでシオンも強くは拒めない。
説教自体からの逃亡も考えられるが、そこはアンナを呼んでおけば防げることはこれまでのアンナとシオンの様子から確信できている。
おそらくこれ以上にシオンに効果的なものはない。
そんなアキトの予想は的中しているようで、シオンは怒るでもなく微妙な表情を浮かべていた。
「説教……説教かぁ……」
「何、格納庫以外での使用さえ控えればいいだけのことだ。難しくはないだろ?」
「……艦長殿。確実に俺の扱い心得てきてますよね?」
「そうでもしないとやってられないんでな」
アキトのことを見ていたシオンが何故か「あ、すいません」と謝ったかと思えば約束の件を了解したと早口に告げて逃げるように去って行ってしまう。
「どうしたんだアイツ……」
「いや、俺も今の顔見たら多分咄嗟に謝るぜ?」
若干引き攣った笑みを浮かべるラムダにどんな表情をしていたかと問うと「上手く言えないがものすごく罪悪感を覚える顔」というなんとも言えない返答をされた。
とにもかくにもひと段落したわけで、アキトは本来の目的だった休憩をとることにした。




