終章-錬金術師のあれこれ①-
クリストファーたちとの話し合いは終わった。
そうなればシオンたちにもう用事はないのだが、クリストファーの好意で〈ミストルテイン〉に色々と物資を提供してもらえることになったので〈アイランド・ワン〉を立ち去るのは明日になる。
今はついでに食事でもと誘われてそのままクリストファーたちと移動している最中だ。
「まあ、間に合わなかった時には戦力になれよっていう圧は感じますが」
「あはは! まあそういう意図はあるが……物資を提供しなくてもアキトくんなら手を貸してはくれるだろう?」
シオンが歯に衣着せずにぶっちゃけるのに対して、クリストファーはあっさり認めた上で笑い飛ばした。
実際、アキトの結論はああだったが、クリストファーの計画を完全に否定したわけではない。
より良い道が見つけられなければ、クリストファーの計画を前提に犠牲を少なくするために戦おうとするのはわかりきっている。
「そしてアキトくんがその気であれば君も手伝ってくれるんだろう?」
「そりゃそうですけど、そういう風に言われるとなんかいやですねー」
シオンがムッとしてもニコニコと笑うばかりでクリストファーは余裕の態度だ。
なんとなくだが、人類軍最高司令官をしていた時よりもさらに茶目っ気が増したような気もする。
どちらかと言えば今の状態の方こそクリストファー・ゴルドの本当の姿なのだろう。
「ゴルドさん。せっかくなのでさっきの計画に関係ないことを色々質問してもいいでしょうか?」
「おや、ラステル君もそう呼んでくれるのかい?」
「まあ、元最高司令官ってつけるの正直噛みそうですし……」
「うん、わかる。自由に呼んでくれていい。それで質問とは?」
「えっと、まずはあなたの身の上と言いますか……錬金術師の末裔というところについて。アタシはあんまり人外界隈のこともわからないのでピンとこなくて」
言われてみれば、シオンも錬金術師に関することなどアンナはもちろんアキトにすら説明をしていない。
この際本人に語ってもらうのが一番早いだろう。
「ふむ、身の上話か。とりあえずは我が一族……ゴルド家について簡単に話そう」
クリストファー・ゴルドの祖先であるゴルド家は、元は欧州に暮らす錬金術師の家系だったという。
当時の錬金術は化学と魔術の中間の立ち位置にあり、表向きの歴史ではそのまま化学へと成り代わっていくが……歴史の裏では魔術の方面に向かった錬金術師も存在し、ゴルド家もそうして魔術や人外との関わりに向かった錬金術師であるという。
「我が一族は昔から自然界のマナを使用する魔法道具なんかの分野に特化している。ちなみに≪魔女の雑貨屋さん≫から君たちがもらったマジフォンは私の弟の一家が関わっているよ」
「そういえばあれも錬金術師が関わってるとか言ってましたね……」
「私は人類軍に入ることを選んだから、錬金術は主に弟が受け継いでいるんだ。欧州ではまあまあ名の売れている魔法道具職人なんだよ?」
なんでもないことのようにクリストファーは言うが、人類軍の作ったECドライブ以上の性能のエナジークォーツを動力にしたシステムを、実は人類軍最高司令官の弟が作っていたと聞かされる現役の人類軍軍人の気持ちを考えてもらいたい。
特にお手本のような人類軍軍人であるミスティの受けた精神的ダメージは大きそうだ。
「もしかして、ゴルド元最高司令官も当たり前に異能の力を……?」
「いや、恥ずかしいことに我が一族は魔力がお粗末でね。かく言う私も術を使うとなるとからっきしで、多分アーノルド君にも劣る」
「……え、私ですか?」
「そうとも。そもそも〈ミストルテイン〉の乗員は一定以上の魔力を保有している人間だけだからね」
「初耳ですが???」
思わずシオンも口を出した。
言ってなかったっけ?とでも言いたげな表情をしているクリストファーだが、そんなこと誰も聞いていない。
「そもそも〈ミストルテイン〉は〈光翼の宝珠〉を動力としているからね。安定稼働には乗組員の魔力がある程度高い方がよかったんだよ」
「なるほど……魔力のある生き物なら意識して封じ込めでもしない限りはある程度の魔力をずっと放出してますもんね」
平均よりも魔力の高い人間を揃えればなおのこと。そうすればその分〈光翼の宝珠〉が吸収する魔力量も増えてECドライブも安定しやすくなるというわけだ。
〈ミストルテイン〉について乗組員の選抜に少し特殊な基準があるという話は少し聞き覚えがあったが、まさか魔力量の話だったとは思わなかった。
「ていうか、今になって思うと対異能特務技術開発局もほぼほぼあなたの差金で設立された感じでは?」
「まさか、私ではないよ。表向きは」
つまりは誰か別の上層部の人間を使って提案させ「最高司令官はあくまでその案を採用しただけ」という状況をわざわざ作ってはいるが裏では全部クリストファーの差金というわけである。つまりシオンの想像は何も間違えていない。
「本当、裏でそこまでやらかしてるんですかあなた」
シオンの問いに、クリストファーは曖昧に笑みを浮かべて誤魔化すばかりである。




