終章-クリストファー・ゴルドの思惑③-
「それは、しかし……」
クリストファーの答えに対して、ミスティは何を言えばいいのかわからないのかまともな言葉が出てこないらしい。
アンナもガブリエラも似たような状態なのかクリストファーを見つめることしかできないでいる。
かくいうシオンも、クリストファーの返答は正直想定外だった。
「……もう少し、大人な回答が来るかと思ってたんですけどね」
「ふむ……だが、これが私の本音だからね」
改めてそう話すクリストファーの様子から、彼が本気なのがわかる。
「それに……君はこういった答えの方が納得できるだろう?」
クリストファーの言葉は、図星だった。
シオンはクリストファーがそれらしい大義名分を――彼の言葉を借りるなら“世界のためだとか人類のためだとかいうような高潔な大義”を口にすると思う一方、そのような答えだったならすんなりとは受け入れなかっただろう。
しかしクリストファーが実際に示した答えは、シオンにとって身に覚えしかない。
「案外似た者同士って話ですか?」
「どうだろう? 自分にとって大事な人間を守りたいというのはそれほど珍しいことでもない。……まあ、そのためにどこまでできるかは人それぞれだろうけれど」
つまりシオンやクリストファーは自分の愛する者たちのために、大勢の他者を切り捨てることができる者同士、ということだ。
「俺様もそこに含めてもらった方がよさそうだなぁ」
「……やっぱりきたか」
部屋の角をみれば、同行してきていなかったはずの朱月が当たり前のように壁に寄りかかってこちらを見ていた。
彼とクリストファーの間に繋がりがあるのはわかりきっていたので、こうしてここに現れたことはそれほど意外でもないが、それなら最初から一緒に来ればよかったものを、とは思う。
「俺様も、コヨミを取り戻せればそれでいい。ま、流石に世界に滅びられちゃ困るが、多少死人が出るくらいなら気にもならねぇ」
「な? 同族だろ?」と朱月はニヤニヤと笑う。
事実には違いないが、それに頷くのはなんとも癪だ。
「……ゴルド元最高司令官……いえ、この際ゴルドさんとお呼びします」
「なんだいアキト君」
「今の言葉、本気なんですね?」
「……ああ。嘘偽りない私の気持ちだよ」
改めてアキトが確認してくるのに対してもクリストファーの答えは変わらない。
それは、自分の目的のために世界中で死者が出ることを理解した上で事を起こそうとしていると明言したのと同じだ。
「このことについて、認めてほしいとも許してほしいとも言わない。君たちが力づくで私を止めようとしたとしても無理はないだろう」
「それでも止めるつもりはない、と?」
「もちろん」
その言葉が心からのものだとシオンにはわかる。
シオンもクリストファーの立場なら同じように考え、口にするだろうから。
「(この人、殺さない限りは止まんないんだろうな)」
クリストファーの決意を聞いて何も言えなくなってしまったアキトの隣で、シオンはそんなことを思うのだった。




