終章-〈アイランド・ワン〉-
到着してすぐ、〈アイランド・ワン〉の船上をシオン、アキト、ミスティ、アンナ、ガブリエラの五人で迎えの車両に乗って移動する。
降り立ってみてわかったが、この〈アイランド・ワン〉は思っていた以上に普通の島のようにできているらしい。
〈ミストルテイン〉が着陸した戦艦用のドックも人類軍の施設と比べても遜色ないものであったし、それ以外にも無数の建造物がある。
それどころか搭乗している人員向けと思われる居住区画もしっかりと用意されているようだ。
「なんかもう、そこそこの規模の人類軍基地がそのまま船になってるみたいな感じですね」
「ああ。まさか秘密裏にこんなものまで製造されていたとはな……」
「というか、こんなものどうやって隠してたんだって感じなんだけど」
〈アイランド・ワン〉の製造は要するに島をひとつ作っているようなものだ。
普通に考えればそんな大規模なことをしていて人類軍が気づかないはずもない……が、まあ≪スカーレット・コーポレーション≫が関わっている時点でその辺りは大体予想ができる。
「異能の力で隠されていた、というだけの話なんでしょうね……」
「副艦長もわかってきましたね〜」
逆に言えば、この〈アイランド・ワン〉の製造にはがっつり人外が関わっているということでもある。
「とはいえ、妙だな」
「まあ、そうよね。どうしてこんなもの作る必要があったのかしら?」
アキトとアンナの疑問にシオンも頷く。
これだけ巨大かつ特殊な船を作った以上、明確な目的があったのは間違いない。
しかし、どうにもその理由がシオンたちにはわからないのだ。
「一番それっぽいのは人類軍から隠れるための秘密基地ですけど、なんか大袈裟な気もします」
「そう、ですね。人外との連携ができているというのなら、小規模な異空間を作ってそこに潜伏する方が確実に人類軍から身を隠すことができるはずですし」
例えば玉藻前の神域や≪魔女の雑貨屋さん≫本社のような異空間。
もちろん異空間はそこらの人外が簡単に作れるようなものではないが、〈アイランド・ワン〉製造に協力しているヴィクトールであれば十分に可能なはず。
そうでなくとも≪秩序の天秤≫に所属しているクリストファーが交渉すれば異空間を作れる人外の協力を得るのも難しくないだろう。
その辺りを考慮すると、秘密基地として使うためだけにこんな巨大な船を作るというのはあまりにコストパフォーマンスが悪い。
「この船の方が異空間と比べれば安定はしているでしょうし、こちらの世界に干渉するには好都合なんでしょうけれど……」
ガブリエラの言う通り、異空間がこの世界から干渉されにくいのと同じく、異空間からもこの世界への干渉は難しい。
もしもその点を気にしてこのような船を作ったのだとしたら、この船を使って世界に対して積極的に干渉していくつもりなのだろうか?
だとすれば、具体的にどのような干渉をするつもりなのだろうか?
「(なーんか、ピンとこないんだよなぁ……)」
シオンたちの把握しているクリストファーの目的といえば“封魔の月鏡”の消失なわけだが、それとこの〈アイランド・ワン〉の存在はどうにも結びつかない。
もちろん、そもそもシオンたちが知らない目的や理由から製造されたという可能性も十分あるのでなんとも言えないのだが。
「……どうあれ、その辺りももうすぐわかるだろう」
諦めたようにそう言ったアキトの視線は進行方向に向いており、そこには一際目立つ建造物と、その入口で待ち構えている数人の人影。
「ようこそ、〈アイランド・ワン〉へ。来てくれて嬉しいよ」
クリストファー・ゴルドはそう言って、笑顔でシオンたちを迎えたのだった。




