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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
終章 選び取った未来
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終章-クリストファーの目的②-


「さて、俺様自身事細かにあいつのやりたいことを聞いたわけじゃねぇが……今回の一件に関しちゃお前さんたちの予想通り、【異界】との戦をやめさせようってのが一番の狙いに違いはねぇ」

「別の目的はねぇってか?」

「あえて言うなら、このままの流れで今の人類軍をぶっ潰そうって魂胆はあっただろうがな」


ついでのように出されたが、「人類軍を潰す」なんてアキトたちからすれば無視できない目的である。


「そ、それはどういう……?」

「そんな狼狽んなよ眼鏡の嬢ちゃん。少なくともお前さんたちみたいなのをどうこうするつもりはねぇだろうさ」

「でも、人類軍を潰すんでしょ?」

「細かい話をすりゃあ、自分を含めて老害どもをまとめて掃除しようって算段だ」

「……つまり、大規模な改革をしようとしてるってこと?」

「お行儀のいい言い方をするならな。だがまあ、老害どもを悪党にして若い連中に潰させようってやり方なんだから潰すみてぇなもんだろ」


だからこその真実の告発。

六年前の事件の原因が当時の人類軍にあり、なおかつそれを今日まで隠し続けてきたという上層部の悪事を暴くことで、上層部の――そしてその上層部が指揮する人類軍の大改革を行おうというのが朱月の話すクリストファーの狙いだ。


「都合よく数は減ってやがるし、信用も地の底だ。そこに六年世間を騙してたってことを付け加えてやりゃあ世の中や騙されてた側の軍人どもが嬉々として潰してくれんだろ」

「ああ、だからやたらと自分たちが悪者ですアピール激しかったのか」


シオンは「なるほどなるほど」と頷く。同時にアキトもシオンの言いたいことを理解した。


「上層部のひとりかつ世間に対して影響力のあるゴルド元最高司令官が上層部は悪だと認めることで、世間の認識をそういう方向に誘導したのか」

「そういうこった。もちろん騙した連中が悪いのは間違いねぇが、冷静に考えりゃ六年間疑問にも思わず踊らされてた側も大概愚かだろ? だがあいつは世間の連中がそういうことを考える前にとにかく悪いのは人類軍上層部だって刷り込んでやったわけだ」


「誰だろうが、都合の悪いことは他人のせいにしてぇからなぁ」とニヤニヤと朱月は笑う。


事実、ほんの少しであっても自分の非を認めることは気分のいいものではない。

言われるがままに思考停止していた愚かな自分を見ないふりして、全ては騙してきた相手が悪いと考える方が楽なのだ。誘導されずともそう考えたくなるのは仕方ない。


「今はまだ信じる信じないの問答でバタバタしてやがるが、信じる輩が増えてくりゃウソつきどもを追い出せって話になる。あとは()()()()()()()()()()が腐れ外道の老害上層部どもを一掃して改革はおしまいってな」

「で、上層部が六年前の件に関与してない新顔に入れ替わりさえすれば、人外との対話の道も見えてくるってわけね」

「そんなに上手くいくでしょうか?」


人類軍の改革はともかく、そのまま人外との共存の道にすぐに進むかと言えば、ミスティの言う通りそんなに上手くいくか不安な部分はある。

この世界の人間はあまりにも人外たちのことを知らないのだから、《太平洋の惨劇》に関する情報がウソだとわかってもやはり戸惑いや恐れはあるだろう。


「いけるんじゃないですか? わるーい上層部のせいで始まっちゃった戦争ですもん。自分たちを騙した悪党たちの始めた戦争なんて誰も続けたいなんて思いませんよ」

「悪者アピールはその辺も考慮してたのかしらね……」

「あの男ならそのくらい先まで考えてやがるだろうよ」


シオン、アンナ、朱月と立て続けにアキトやミスティの不安を否定した。

その内容に加えて、ただでさえアンノウンの問題がある中で進んで【異界】との戦争を続けたいと思う人間がいるとも考えにくい。

例えアキトやミスティの考えるように戸惑いや恐れがあってすぐに人外たちを信用できないのだとしても、ひとまずは戦いを止めたいと考える可能性が高そうだ。


「ここまでシオ坊やガブリエラの嬢ちゃんが人間のために戦ったってのは紛れもない事実として知られてるし、攻め込んできた≪銀翼騎士団≫とやらも無駄な殺生はしねぇっていう事実が広まってる。上層部のウソに騙されてたってのがわかったばかりの今、目に見える事実ってのは強いだろうよ」


少なくとも現在の上層部よりは人外たちの方が信用できるかもしれない、という考えになってもそれほどおかしくはない。

≪銀翼騎士団≫はともかくシオンやガブリエラを受け入れてアピールしていたのはそういう狙いだったのかもしれないと思うと、クリストファーはやはり恐ろしい男である。


「あとはまあ、どうせ思うように上手くいかなかった時に上手くいかせるための仕込みのひとつやふたつやみっつくらい用意してあんだろ」

「それもそうだな……」


クリストファーなら自分の狙いを成功させるために十分に準備しているはず。

どうせ成功するのだからアキトたちは狙いさえわかっていれば今は問題ないだろう。


「じゃあ、今回の動画配信の件はひとまず置いておくとして……彼の真の目的について聞いてもいいか?」


朱月はここまでの話をする前にわざわざ「今回の一件に関しちゃ」という前置きをした。

つまり「今回の一件」以外のクリストファーの本当の狙いが存在するのだ。

わざわざ含みのある言い回しをしていた以上、朱月も隠す気はないだろう。


「真の目的は簡単だ。お前さんたちも前に吸血鬼の野郎に聞いただろ?」


吸血鬼――ヴィクトール・スカーレットに「錬金術師の末裔とヴィクトールの目的はなんだ?」と質問した時、詳細は語られなかったが一応の返答はあった。


「“この世界をあるべき形に戻す”、だったか」

「そうだ。そんでもってその()()()()()ってのは……命あるものから生み出された穢れが魔物となり、命あるものは自らが生み出した魔物と相対し、時に報いを受け、時に打ち克つ。そんな原初の理のことを言う」


その内容は、アキトたちにとってあまりに聞き覚えのある内容だった。

朱月もそれを理解した上で、「もうわかっただろ?」とアキトに問いかけてくる。


「クリストファー・ゴルドの狙いは“封魔の月鏡”を消し去ること。ひとりの人間に押し付けることなく、命あるものが正しく自らの業に向き合う世界を取り戻すことだ」


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