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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
終章 選び取った未来
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終章-明かされた真実-


カナエの報告から三時間後。

事前の予告通りにクリストファー・ゴルドによる動画配信は開始された。


動画に映るのは白い壁を背景に長机がひとつ。そして長机を前に座ってカメラを見つめているクリストファー・ゴルド本人。


これまでクリストファーが人前で何かを話す機会があれば多くの報道関係者に囲まれていたことを思うと、どこか寂しさすら感じるシンプルなセットにはやや違和感を覚えてしまう。

ただクリストファー当人はそんなことなど気にしてはいないのか、すぐさま画面越しのアキトや世間の人々に対して挨拶を始めた。


『この動画を見てくれている全てのみなさん、こんにちは。私はクリストファー・ゴルド。……公には死亡したことになっている私が本物であると証明することはできませんが、まあそこは信じてくださいとしか言えません。信じられないというのも、また仕方のないことでしょう』


世間の人々が最初に考えるであろう問題に自ら触れて、少し困ったようにクリストファーは苦笑する。


『それに、私が生きていようが死んでいようがそんなことは些細な問題に過ぎない。ですから私のことは気にせずお話を聞いていただければと思います』

「(生死が些細な問題……?)」


今の混乱している世界において、クリストファーのようなリーダーシップを持つ人物が生きているか死んでいるかというのは些細なことでは決してない。

そのくらいのこと、クリストファーがわからないはずがないというのにこのような言い方をするというのは引っかかるし、どうもにも嫌な予感がする。


『さて、早速ですが本題に入りましょう。……話すべきことはいくつかありますが、まずはひとつ重大な()()を――新暦四年に起こった《太平洋の惨劇》の真実を明らかにさせていただきたい』

「「「!!!」」」


クリストファーの言葉にブリッジで配信を見ている全員に動揺が走る。

それはアキトたちには心当たりのあり過ぎる内容だ。


『《太平洋の惨劇》において、対話を求めた人類軍は【異界】の艦隊による奇襲を受けて壊滅し、《境界戦争》は始まった。それが多くのみなさんの認識でしょう。しかし、かつての人類軍最高司令官として、断言します。それは()()()()()()()()と』


クリストファーの発言と同時に画面が切り替わり映像データや文書データが画面に映し出される。

少し目を通しただけでも、それらがクリストファーの証言を肯定する証拠であるのがわかった。


『対話を求めたのは人類軍? いいえ、先に対話を求めたのは【異界】の艦隊でした。奇襲を仕掛けたのは【異界】の艦隊? いいえ、対話の申し出に対して先に攻撃を仕掛けたのは人類軍の艦隊でした。《境界戦争》を引き起こしたのは【異界】の野蛮な人外たちである? いいえ、我々人類軍こそがこの戦争を始めてしまったのです』


淡々と、それでいてひとつひとつ丁寧にクリストファーは事実を明らかにしていく。

しかも動画に映る様々な証拠データは単に映し出されているだけではなく、動画内のリンクから誰でもダウンロード可能になっている。


クリストファーが本物か否かわからないことを思えば、言葉だけでは信憑性は低い。だから畳み掛けるように様々な証拠データを世間にばら撒いているのだろう。


もちろんそれらの証拠も偽造や改竄の可能性があるためすぐには信じられないだろうが、このような世界を揺るがす問題であれば様々な国や機関が証拠の真偽を明らかにしようとするはず。

そうした第三者によって「真実だ」と認められれば、世界の人々も信じる他なくなる。


「(これまでなら、人類軍によってもみ消されていたかもしれない。でも今は違う)」


人類軍が正常に機能しているのならともかく、大混乱に陥っている今、このように大々的に発信されてしまった情報を統制する余裕などあるはずがない。

加えて人類軍そのものの信用が失われている今ならば、「もしかして」と感じる人間も多いだろう。


この動画によってすぐにとはいかずとも、早ければ数日、遅くとも数週間もあればクリストファーの言葉が事実であると世界は理解することになる。


『告発などと偉そうなことを言っている私もまた、この六年間真実を明らかにできなかった時点で情報を隠蔽していた者たちと同罪。何故今更こんな真似をしているのかという疑問を持つ人もいるでしょう。……その答えは、今更ではなく今こそこの真実が必要だからです』


再び画面はクリストファーのみを映す状態に戻り、画面上のクリストファーは真っ直ぐにこちらを見ている。


『この過ちは私を含む事実を隠蔽した者たちのもの。世界のみなさんはもちろん、人類軍に属する多くの軍人たちのように、この事実を知らされていなかった人々の罪ではありません。あなたたちは騙されていた被害者に過ぎない。だからこそ今からでも明らかになった真実を受け止めて、正しい選択をしていただきたい。……【異界】との和平をもって《境界戦争》を終わらせていただきたい』


クリストファーの言葉に、アキトはこれこそがクリストファーの一番の狙いなのだと理解した。

《太平洋の惨劇》の事実を明らかにしたのも世間をこの方向に誘導するためなのだろう。


『六年前、【異界】の人々は対話を望んでいました。協力者であるシオン・イースタル君や、欧州で人々を守ってくれた“天使”と呼ばれる少女もまた人間との争いを望まず、力を貸してくれています。侵攻してきた【異界】の艦隊も決して戦いを積極的に望んでいるわけではなく、アンノウンたちは【異界】の攻撃ではなく自然災害に近しいものであることも明らかになっています。……【異界】や人ならざるものたちとの対話や共存は、可能なのです』


再びひとつひとつ丁寧に共存できる可能性を伝えるクリストファーの目は真剣だ。


『この配信を見てくれている全てのみなさん。どうか真実を見極め、私たちの愚かな過ちを裁き、この世界に正しい平和をもたらしてください』


その言葉を最後に、クリストファーによる動画配信は終わった。


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