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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
12章 揃う役者たち
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12章-舞い戻ったもの-


ディーン・ドレイクによって引き起こされた大量のアンノウンによる人類軍本部襲撃。

それは〈ミストルテイン〉によるディーン・ドレイクの討伐と、突如現れた謎の人外の少年――トウヤの介入によって終わりを迎えた。


目の前の脅威が去ったのは確かだが、トウヤのことを知っているアキトからすればどうにもすっきりしない結末でしかなかった。


しかしアキトはトウヤがどこへ消えたのかも、そもそも何者なのかすらも知らない。

アキトとは別にトウヤのことを知っていたというハルマやガブリエラたちも、トウヤの正体までは把握していなかった。

そうなってくるとトウヤを追いかけることも難しい。


それにトウヤのこと以外にも突如として人外の艦隊と共に戻ってきたクリストファーや〈トリックスター〉を操る何者かの問題もある。


今はまず目の前のことを、――手始めに戦闘終了後に〈ミストルテイン〉へと戻ってきた〈トリックスター〉の問題を片付けるべくアキトは格納庫に来ていた。

……とはいえ、アキトにはほとんどその正体を確信してはいるのだが。


「クロイワ班長。〈トリックスター〉は?」

「うんともすんともってところだ」

「呼びかけなどは?」

「いや、そもそも呼びかける意味がねぇっつーかなんつーか……」

「……どういうことですか?」


「見りゃわかる」とゲンゾウが差し出してきたタブレットに表示されているのは無人の機動鎧のコクピットの映像だ。


「……これは、まさか〈トリックスター〉のコクピットですか?」

「ああ。見ての通り、誰も乗っちゃいねぇ。もちろん誰かがコクピットから出てきたなんてこともない」

「空間転移で立ち去った可能性は?」

「いえ、〈トリックスター〉が格納庫に来た時点で私もいましたが、そういった気配はありませんでした?」

「だとすれば……最初から無人だった?」


ガブリエラの言葉通り空間転移した者がいないのならその結論しかなくなる。

だが〈トリックスター〉は確かに動いていたし、聞き慣れた声がトウヤへと呼びかけていたのも間違いない。


「……レイル君。君は、〈トリックスター〉からはシオンの気配を感じたか」

「……はい。少し違和感はありましたけどシオンの魔力で間違いないと思います」

「俺様も同意見だ」


しれっと近くに現れていた朱月もガブリエラの言葉に頷いている。


「だが朱月、シオンはお前が封じ込めてるって話じゃなかったか?」

「ああ。ついでに言えばこの体の中には今もシオ坊の意識がある感じがするし、さっきのどさくさの中で外に出ていった気配もない」


自分の胸の辺りを手で叩きながら朱月はそう話すが、そうだとすると話がおかしい。


「お前が使ってる体の中にシオンの意識が残ったままなら、どうやってシオンが〈トリックスター〉を動かす?」

「方法自体は心当たりがあるが……まあそれは本人に聞きゃあいいいだろう」


朱月の言葉を待っていたかのようにアキトたちの前で黒い霧のようなものが渦巻き始める。

それらはゆっくりと集まっていきやがて人の形を成していく。


そうしてその場に現れた人物はアキトの知るシオンよりもずいぶんと小さい。

しかしその人物にアキトは見覚えがあった。


「子供の頃の、シオン……?」


いつか見せられた第一人工島での復讐劇の記憶。

その中で憎しみを叫んでいた五つの頃のシオンと目の前の子供の姿は完全に一致する。


「へぇ、よく覚えてましたね。一回しか見せなかったのに」


アキトの言葉に帰ってきた声もまさに子供のそれだが、彼の話し方や表情はアキトたちの知る十五歳のシオンを彷彿とさせる。


「細かいことは後でいい。とりあえずお前さんはなんなのか教えてくれや」


朱月の問いかけに対して少しだけ不満そうな表情をしてから小さなシオンは口を開く。


「俺は〈トリックスター〉のECドライブに使ったお手製エナジークォーツを核にした、シオン・イースタルの分身のひとつ」

「……つまり本人ではない?」

「まあ、厳密に言うなら? でも、オリジナルと記憶はリアルタイム同期中なのでほぼほぼ本人と思っていいですよ」


「分身ではありますけど、実質アバターというか子機というかそんな感じなので、普通にオリジナルとして扱ってもらっていいかと」と説明するシオン。

おおよそ状況は理解できたが、またさらりととんでもないことをしていたらしい。


「とりあえず、お前はシオン本人という認識でいいんだな?」

「はい、オッケーです」

「その状態についてもいろいろ聞きたいところだが、まずは……無事でよかった」


アキトの言葉にシオンがポカンと口を開けて固まる。

その反応は予想できていたが、それでもアキトは心からそう思っているのだから仕方がない。


「魔物に堕ちたのを助け出したかと思ったら今度は朱月に封じ込められて、あの日から今日までお前の無事を実感できないでいた。……まあ、まだ万全ってわけじゃないんだろうが、それでもお前がこうしてここにいるのを俺は嬉しいと思う」

「…………なんていうか……そういうこと言われると調子狂うんですよ」


あからさまに視線を泳がせたシオンはおそらく照れているのだろう。

そのような反応を見るのも少し久しぶりのことで、シオンが戻ってきたのだと改めて実感する。

それはアキトだけではないのだろう。


「シーオーンー!!!」

「え、ちょ、待て待てああああああ!?」


感極まった様子で飛びかかるギルによって小柄なシオンは容赦無く潰された。

それだけではなくガブリエラがギルに続いているし、十三技班の面々も次々集まっていく。


〈トリックスター〉を動かしていたのはやはりシオンだった。

それがわかったところで現状においてはほとんど何も進展はなく、アキトはもちろん人類軍や世界はまだ混乱の中にある。


しかしそれでも、アキトは目の前で繰り広げられている賑やかな日常に小さく安堵の息を吐くのだった。


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