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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
12章 揃う役者たち
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12章-“破邪の白光”-


「魔力防壁を前面に集中! 突撃する!」

「了解!」


目視できるほどの魔力を〈ミストルテイン〉の前面に集めて守りを固め、真正面からディーンの操る異形へと突撃する。


ここまで逃げに転じていたことを思えば突飛な行動ではあるが、ディーンは冷静に、すぐさま異形の周囲に魔力を集めて攻撃の準備を始めた。


「(それでいい、しっかりこっちを狙え)」


ディーンは完全にこちらに集中していて、周囲を飛んでいる機動鎧部隊をほとんど意識していない。

ここまでの戦いから防壁と触手による防御に自信があるのだろうが、その自身があればあるほどこちらには有利に働く。


「攻撃、来ます!」

「怯むな!」


直後、異形の周囲で輝く無数の光が一度だけ強く瞬き、黒い光が〈ミストルテイン〉に襲いかかった。

魔力防壁と攻撃の接触によって〈ミストルテイン〉全体が激しく揺れる。


「っ! 兄さん! 速力少し落ちてる!」

「押し返されさえしなければいい、このまま突っ込め!」


続けて、船体が少し大きく揺れた。同時に耳に届いたのは爆発音だ。


「被弾したのか!?」

「比較的防壁の薄い端の辺りがわずかに抜かれたようです!」

「被害報告、船体右側面に被弾! 被害は小さいですが火災発生につき隔壁を封鎖。死傷者の報告なし!」

「流石に無傷とはいかないわね!」


そこに再びの攻撃が襲いかかる。

防壁中心部はともかく、わずかとはいえたった今抜かれたばかりの防壁が薄いポイントに攻撃を受けると不味い。


『大丈夫です、フォローします!』


咄嗟に防壁の出力を上げようとしたアキトの視界をふたつの影が高速で駆け抜けた。


さらに〈ミストルテイン〉前面に展開された防壁に重なるように複数の魔力防壁が展開されピンポイントに敵からの攻撃を阻む。

あるいは三日月のような魔力の斬撃が飛び、〈ミストルテイン〉に向かっていた閃光を迎撃する。


『わりぃな! 一発目は若干出遅れた!』

「いや、問題ない。このまま援護頼む!」


〈ワルキューレ〉と〈アサルト〉が合流し、攻撃の一部を退けてくれている。

依然として大量の光が襲いかかってくる上、接近すればするほどその勢いは増すが……


「(すぐに沈められるほどじゃない!)」


もともと多少の被弾は覚悟の上だった。

とにかく今は、〈ミストルテイン〉が沈まないようにだけ注意しつつ“破邪の白光”をできるだけ近くで叩き込めればそれでいい。


「! 巨大敵性体に動きあり! こちらに向けて触手を伸ばしてきています!」


遠距離の攻撃だけでは落とせないと悟ったのか、触手の内の三割ほどがこちらに向かってきている。


「(流石に何かあるとは気づかれてそうだな)」


あるいは〈ミストルテイン〉が接近し始めた時点でそれは察していたのかもしれないが、おそらく何か(・・)を実行される前に落とせる算段だったのだろう。

しかし落とすことはもちろんそれほど大きなダメージも与えられないまま〈ミストルテイン〉の接近を許してしまっている。

そのことでディーンの警戒も増しているのかもしれない。


触手が使用されるのが想定外というわけではないが、あの太い触手に殺到されてはそれ以上接近できなくなりかねない。


「朱月、触手を薙ぎ払えるか!?」

『あたぼうよ! とはいえすぐさま生えてくるからそこは我慢しろよ』

「構わない! ラムダも実弾兵装で少しでも触手を邪魔してくれ!」

「おうよ!」


うじゃうじゃと迫ってくる触手の群れに突撃する〈アサルト〉。

次の瞬間には〈アサルト〉を中心に炎が燃え広がって大量の触手を焼き払っていく。

それに負けじと触手は再生していくが、そこに〈ミストルテイン〉から放たれたミサイルが命中して再生を遅らせる。


閃光と触手の隙間を縫うように〈ミストルテイン〉はさらに異形へと接近していくが、唐突に船体が急ブレーキをかけたかのように大きく揺れる。


「か、艦長! 細い触手が一本船体に巻き付きました!」


すぐさまモニターに映し出されたのは、艦尾のあたりに巻き付く触手だ。

明らかに目の前で朱月たちが薙ぎ払っていたものより細いのは、おそらく気づかれずに〈ミストルテイン〉を拘束するためだろう。


幸い、通常より細い分力も弱いらしく船体が破壊される気配はない。完全に動きを制限するためだけのものなのだろうが、この状況では十分に脅威だ。

機動力を失っているところに残る触手が殺到すればひとたまりもない。

ディーンからすればチェックメイトと言ってもいい状況だろう。


――だが、アキトはまだ諦めることなどない。


「ナツミ!」

「うん!」


ナツミが祈るように手を組み、魔力を高める。

その魔力はそのままアキトへと託されて、アキトの魔力と混ざり合いさらに大きな力へと変わる。


『――我、人にありて神の力を与えられし者』


自然と口からこぼれ出た言葉は、いつかシオンが唱えたものと同じだった。


『体現せしは“月” 夜闇に輝ける淡き光 人の世を見渡し 不浄を清める大いなる神秘』


両手を前に、〈ミストルテイン〉前面に白く輝く光を集める。その照準は漆黒の異形の中心だ。


『人の業より生まれしもの 魂を持たぬ虚ろなる災い 今ここに 汝に許しと救済を』


強まった光に〈ミストルテイン〉の巻き付いていた触手や周囲を蠢いていた触手が消えていく。

苦し紛れに伸ばされた触手すらその輝きで消し去りながら、アキトは最後の言葉を告げる。


『――悲しきものよ、どうか安らかに』


解き放たれた光は流星のように空を駆け、漆黒の異形へと向かう。

迫る輝きに抵抗するように伸びた触手も、その巨体も瞬く間に黒い霧から白い光へと変わって霧散していく。


「――ハルマ、今だ!」


漆黒の異形は消え去り、そこには魔術を用いて空中に立つディーンがひとり。


そこに〈セイバー〉が迫り、振り下ろされた〈アメノムラクモ〉とディーンを守る魔力防壁が強くぶつかりあった。


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