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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
12章 揃う役者たち
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12章-今なすべき最善-


突如として現れた大艦隊の中で取り分け目立つ純白。


一見すると海上艦のようにも見えるその戦艦は、アキトがいつかクリストファーに見せられた特別な戦艦。


クリストファーが自ら「秘密裏に製造した」と口にしていたそれに誰が乗っているのかなど考えるまでもない。


『おや、さすがアキト君だ。この混乱の中しっかりと〈ミストルテイン〉を確保しているんだね』

「……やはり貴方でしたか、ゴルド最高司令官」


本部全体の混乱を感じさせない日常会話のような通信にわずかに脱力しつつ、自身の予想が当たっていたことを悟る。

だが、もっと大きな謎は残ったままだ。


「質問をしてもいいでしょうか?」

『構わないよ。今の私は最高司令官でもないただのしがない老人でしかないし、遠慮はいらない』

「では質問です……その艦隊は一体なんなの(・・・・)ですか?」


ただたくさんの戦艦を引き連れてきたというだけならまだいい。

しかしこの艦隊は違う。白い船の周囲に集まる戦艦は、今もなお増殖している(・・・・・・・・・・)のだから。


「明らかに人類軍――いえ、人類の艦隊ではないでしょう」

『ああそうだね。しかしそれならもう私に聞くまでもなく出ているんじゃないかな?』


人類の艦隊ではありえないことを起こしている――つまりそれは人類の艦隊ではない(・・・・・・・・・)


クリストファーの言う通りとてもシンプルな話ではある。

ただ当たり前のようにクリストファーがその中心にいる状況にアキトの理解が追いついていないだけだ。


『もう隠すことでもない。あの日の約束通り真実を明かそう。……とはいえ今は忙しい。取り急ぎまず簡単な自己紹介だけにしておこうか』


アキトたちとクリストファーは十年以上の付き合いで自己紹介など不要なはずなのに、モニターの先の彼は改まった態度で小さく咳払いをした。


『私はクリストファー・ゴルド。かつての人類軍最高司令官であり――古くは欧州にて神秘を探求した錬金術師の末裔(・・・・・・・)にして、人と人ならざるものたちの調和を重んじる≪秩序の天秤(リブラ)≫に名を連ねし者』


今になって思えばクリストファー本人に宣言されるまでもなくヒントは出揃っていたのだ。


アキトたちはもう、父方の御剣家も母方の月守家もどちらも人外社会に縁を持つ家であることを知っている。

そんな御剣家と以前から親交があったのだとすれば彼もまた人外社会に関わりを持っていたとしてもおかしくはなかった。


『ディーン・ドレイクの振るう魔物を呼ぶ力――かつての最高司令官としても≪秩序の天秤(リブラ)≫のひとりとしても見過ごせるものではない。故に、我らはこの戦場に介入する。……いろいろと隠し事をしていた私を信用するのは難しいかもしれないが、〈ミストルテイン〉にも力を貸してもらいたい』

「……わかりました」


正直に言えばこれまで知っていたクリストファー・ゴルドという人間がほんの一側面に過ぎなかったことにショックを受けているし、意図して正体を隠されていたことを思えば軽々しく信用もできない。


だが、ディーンを放っておけないというのはアキトたちも同じことだ。


幸いにも懸念であった戦力差もクリストファー率いる大艦隊と共に戦えるのであれば解決するだろう。


今もなお増え続けているアンノウンたちと戦える条件が揃った今、アキトたちがすべきことはとてもシンプルだ。


「今この時アンノウンの脅威に晒されている命を救い、その元凶であるディーン・ドレイクを止める。……それが今なすべき最善です」

『……ありがとう。頼りにさせてもらうよ』


アキトたちの話がまとまったのとほぼ同時にブリッジに警報が鳴り響く。


「アンノウンの出現反応が再び増加……!? 先程までより明らかにペースが上がりました!」

『……どうやら私たちの出現に驚いたようだね』


誰が驚いたかと言えばもちろんアンノウンたちを呼び出しているディーンだ。


想定外の大艦隊の出現に対して、さらにアンノウンを呼び集めて対抗しようとしているのだろう。


「まさか、無制限に呼び出せるのか……?」

『どうだろう、この世に無限などないと思うがねぇ』


出現反応の増加に比例してアンノウン自体の数も増えていくというのにクリストファーは焦る様子がない。

モニターの先の彼は堂々と――そしてわずかに笑みを浮かべていた。


『あの程度の魔物たちがどれほどいようと我々の敵ではない――全艦攻撃を開始せよ!』


普段の穏やかさとは真逆の力強い号令に、白い船を中心とする大艦隊による攻撃が開始される。


かつてない大群であるアンノウンと百を越えるであろう人外の大艦隊。

おそらく歴史上最大級の規模であろう戦いが今、幕を開けた。


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