12章-訪れた白き船-
「(……思っていた以上に不味いな)」
先程コウヨウからアンノウンの数を聞いたことに加えて改めて上空から人類軍本部の状況を見渡してみて、アキトは改めて現状の厳しさを痛感した。
単純に数が凄まじいというのは言うまでもないが、それに加えてわかりやすく人類軍が混乱している。
セレナが本部内で飛んでいる通信をキャッチしてくれているのだが、どうもまともな指揮がなされていないようだ。
それ自体は無理もない。
人類軍上層部の人間であるディーンがいきなりアンノウンを呼び集め始めた上に、よりにもよって人類軍本部のど真ん中でそんな事態が発生したのだ。
どれだけ肝が据わっている人間であっても混乱は避けられないだろう。
さらに最悪なことに、人類軍本部の防衛を仕切る司令所がいの一番にアンノウンに襲われてしまったらしい。
「(あるいはそれは意図したものか……)」
ディーンにどこまでアンノウンのコントロールができるのかは不明だが、特定のポイントにアンノウンを呼び集めることさえできれば優先して司令所を襲わせることはできる。
偶然というにはできすぎな状況からして意図されたものと見なしておいたほうがよさそうだ。
「艦長、まもなく宿泊施設です。副艦長との通信も繋がりました」
「わかった繋げてくれ」
アキトの指示でモニターのひとつにミスティの顔が映し出された。
『艦長、ご無事で何よりです』
「ああ。そっちはどうだ?」
『問題ありません。……指示されていました転移魔法陣も完成しているそうです』
宿泊施設の人間を〈ミストルテイン〉に移動させるにあたって艦を着陸させるのは少々リスクが高い。
そのためガブリエラの案で施設内にはガブリエラが、〈ミストルテイン〉の格納庫には朱月がそれぞれ転移用の魔法陣を用意する手筈になっている。
空間が不安定な状況ではあるが、宿泊施設と〈ミストルテイン〉の距離を十分に縮めた上で魔法陣を用いて補強すれば、安全な転移も可能だそうだ。
「朱月、こちらの準備は?」
『心配しなくても終わってらぁ。とりあえずこの高さのまま施設の真上で止まりゃぁ十分だろうよ』
「わかった。ナツミ、頼んだぞ」
「うん!」
そのすぐ後、ナツミの操舵によって〈ミストルテイン〉は宿泊施設の直上でしっかりと止まった。
目立つ〈ミストルテイン〉にアンノウンたちが寄ってこないよう、念の為周囲を魔力防壁で覆っておく。
「では予定通りに転移を開始してくれ」
『了解しました』
直後魔力の反応が宿泊施設と格納庫の二箇所で強まる気配がある。
『こちら格納庫。無事にぞろぞろと入ってきてやがるぜ』
朱月の言葉通り〈ミストルテイン〉に人の気配が増えてきていることがわかる。
思っていた以上にハイペースで転移してきているようなので、この調子なら十分もかからずに全員を収容できそうだ。
『アキト、パイロットたちも揃いつつあるけど、出す?』
「……いや、まだだ。準備だけはさせておいてくれ」
少なくとも現時点ではアキトの展開した防壁があるので出さずとも問題はない。
この後戦闘をするのであれば出撃させておいたほうがいいのだが――、
「(そもそも戦うべきか、慎重に検討すべきだろうからな)」
〈ミストルテイン〉はこれまで多くの修羅場を乗り越えてきたが、この戦場はすでにアキトたちの参戦で状況を好転させられるようなものではない。
もちろんただ無情に残された人々を見捨てるつもりはないが、アキトたち自身の身の安全が最優先だ。
状況次第ではすぐに戦場を離れなければならないことを思えば、機動鎧部隊を出撃させて分散してしまうのはリスクが高い。
「(せめて外部から救援でも来れば話は変わるが……)」
本部の危機である以上その内救援自体は来るだろうが、それがいつになるかまではわからない。
そのような不確実な要素をあてにするべきではないだろう。
『艦長、全員の〈ミストルテイン〉収容が完了しました』
「わかった、ひとまずミスティとアンナはブリッジに来てくれ。この後の動きを――」
アキトの言葉が終わるより早く、ブリッジに警報が鳴り響く。
「なんだ!? アンノウンか!?」
「い、いえ。これはミサイルの接近警報です!」
事実飛来した無数のミサイルが本部のあちこちに着弾し、アンノウンたちを仕留めていく。
「アンノウン共を倒してるってことはお仲間か!?」
状況としてそう見るのが妥当だが、どうにもアキトは違和感を覚えずにいられない。
「方角はわかるか? 識別信号は?」
「方角は西の海側。識別信号は……なんだこれ!?」
コウヨウの驚きの理由はアキトにもすぐにわかった。
ブリッジのモニターのひとつに表示されているレーダー。
そこに表示されている西側の動体反応の数が、まるで分裂するように増殖しているのだ。
「こんな艦隊、どこの基地から来やがったんだ……?」
「いくらなんでもこの規模の艦隊がすぐに来れるわけがないだろ。それに……」
望遠で捉えた艦隊の中央。
あまり目立たないカラーリングを好む人類軍の戦艦とは思えない純白が目を引く。
その戦艦をアキトは知っていた。




