12章-ふさわしきその名は-
試作1番機の胸部から放たれた閃光はアンノウンの頭部を撃ち抜くと共にその背後に広がる空間の亀裂の中へと消えていく。
それからほどなくしてアキトたちの正面に広がりつつあって亀裂は消滅した。
「今のは……!?」
「〈ドラゴントゥース改〉……〈アサルト〉の持ってる〈ドラゴントゥース〉を魔術方面の技術で強化・小型化して機体の胸部に仕込んだもんだ」
どこか見覚えのある閃光だとはアキトも感じていたが、その感覚は間違いではなかったらしい。
「で、デカブツが完全に出てくる前に仕留めたってわけか」
「らしいな。……それより、そもそもなんであれがああして動いてやがるのかって話だ」
感心した様子の朱月とは真逆にゲンゾウの顔には驚きと共に怒りが見て取れる。
「動かせる状態だとは聞いていたはずですが」
「それは確かにそうだが、中身がまだだったんだよ」
「中身?」
「要するにECドライブに積み込むエナジークォーツがって話っすよ」
あの機体のECドライブにはシオンの作ったエナジークォーツを搭載する予定になっていた。
完成前にシオンが朱月に眠らされてしまったこともありその段階まで作業が進んでおらず、かと言って代わりのエナジークォーツなども用意できなかったのでECドライブの中身はからの状態――つまり絶対に動かせない状態で置いてあったはずなのだそうだ。
動力部の中身が無いのだから、単純に動かすことはもちろんあのように〈ドラゴントゥース改〉を放つことだって本来なら不可能なはずなのだが。
「でも確か前にテストしてませんでしたっけ?」
「あの時はシオンが自前の魔力で全部やってやがったんだ。……逆に言えばそういう真似ができるやつじゃなけりゃ動かせねぇって話だが」
そうこう話をしている間にアキトたちの乗る輸送車両が問題の試作1番機を追い越した。
ただ1番機はこちらを追いかけてくるでもなく、その場で再び戦闘機形態に変形すると凄まじいスピードで空へと舞い上がる。
「俺たちと助けてくれたってことは、味方ってことでいいのか?」
「……だろうな」
ラムダの言う通りアキトたちの窮地を救ってくれたのだから少なくともこちらに敵意がないというのは行動からも判断できる。
そしてそれ以上に、あれを誰が動かしているのかという疑問の答えは、半ば出ているようなものだ。
そもそもあの試作機の存在を知っている者は限られている。
さらに機動鎧一機を自前の魔力だけで動かせるような存在なんてゴロゴロいるわけではない。
そんな条件を満たしている存在などアキトはひとりしか思いつかない。
同時にその人物が今、あの機体に乗っているはずがないとも思うのだが、
「(……あり得ねぇ、なんて考えが通用しないのなんて身に染みてるしな)」
アキトたちの知らないようなとんでもない方法でなんとかやってのけたのだろう。という推測と呼べないような推測しかできないが、おそらくはそういうことなのだろう。
「……ところでギル。お前さっきからなんかソワソワしてねぇか?」
「うぇ!? そ、そそそんなことねぇっすけど!?」
「わー、バレバレもいいところっすねー」
そんな会話につられてギルを見てみると、確かにソワソワしていて落ち着きがない。
この緊急事態の中でも普段どおりの調子を崩していなかったというのに、おかしな話だ。
「(……そういえば、ここに着く前にあの機体の前で何かやってたな)」
勢いのあまり不問にしてしまったあの夜の怪しい行動。
もしかするとギルはあの機体がどうして動いているのかも含めて事情を知っているのかもしれないが……今はそれを聞いている場合ではないだろう。
「何はともあれもう〈ミストルテイン〉に到着する。グレイス君の隠し事について詮索するのも事が終わってからにしておこう」
アキトの言葉に十三技班の面々も納得してくれたのか、それ以上ギルに対して何かを問うことはなかった。
気になっていないわけではないだろうが、もう〈ミストルテイン〉が見えているのでそちらに集中してくれるのだろう。
「それはそれとしてよぉ。あの機動鎧の名前はなんなんだ? 1番機って呼び方はどうにもしまらねぇだろ」
朱月の疑問はあまり重要なものではないが、言われてみればアキトもあの機体の名前を把握していない。
わからなくて困るという状況でもないが、話題に挙げられると気になってくるものだ。
そんなアキトたちの雰囲気を察してくれたのか、ゲンゾウがため息をつきつつ口を開く。
「あの機体の名前は〈トリックスター〉」
〈いたずら者〉――神話や物語において周囲を引っ掻き回す存在。
それはまるで、
「……シオンの野郎が乗るにはこれ以上ふさわしい名前もねぇと思わねぇか?」




