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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
2章 南米共同戦線
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2章-十三技班な日常-


「この世に存在するものは、形があるものと形なきものに分けることができます」


〈ミストルテイン〉の格納庫でゲンゾウを始めとした十三技班の主要メンバーを前に、シオンは言った。


「もちろん、そんなこと言われるまでもなくみなさんもご存じでしょうが……俺とみなさんでは若干見え方(・・・)が異なります」


人外の世界に生きるシオンは人間と比較して、より様々なものを知覚することができる。

そういう意味で、シオンはゲンゾウたちのような人間よりもそのふたつの違いをより実感できている。


「俺たちのような人外に連なるものは、どちらかと言えば形なきもの――火や水、風のような自然、あるいは魔法や呪いのようなものと縁が深いです」


そう語りながらシオンが腕を振るえばその手元に手のひらほどの大きさの炎が灯る。


「それらは形がないがゆえにより自由で万能であるとも言えますが……その分不安定でもあります」


シオンが指をひとつ鳴らしただけで炎は消え去り、灰のひとつまみすらもそこには残らない。

形なきものというのはこのくらいに儚く、あっさりと消え去ってしまう代物にすぎない。


「反対に、形あるものは形を得た時点でその在り方をある程度固定されてはしまいますが、その分安定していて簡単には崩れない。……それはとてもすばらしいことです」


一定のことにしか使えないというデメリットはあれど、想定した使い方に対しては安定したパフォーマンスを発揮できる。

信頼できるか否かという観点から見れば、形あるもののほうが優れていると言って間違いないだろう。


「戦場で振るわれる武器、兵器といったものは信頼性第一。使うべきときに確実に使えて、その威力に安定感があるというのは必須要件だと言っていい。……つまり、戦いの場で使われるものは形あるものであるのが好ましいと言えるのではないでしょうか?」


格納庫の一角を行ったり来たりしながら、プレゼンのようにゲンゾウたちに語り掛けるシオン。


そんな彼のここまでの説明を目を閉じて聞いていたゲンゾウは、ため息をひとつ零してからシオンに尋ねた。


「そういう御託はいい。……要するに何が言いてえんだ?」

「〈アサルト〉にも実体のある兵装を載っけたいです!」

「却下だ」

「なんでですか!?」


自分の要望をぶっちゃけたシオンに対してゲンゾウの答えは冷ややかだった。

しかしシオンとしては全力で物申したい。


「いくら実験機とはいえ武器ふたつしかない上にどっちも光学兵装とか実戦舐めてるとしか思えないじゃないですか! 今後ガンガン前線出るんですから保険として実体兵装のひとつやふたつ用意しておくのが普通でしょ!?」

「んなこたぁテメェみたいなひよっこに言われなくてもわかってる! だがな、そもそも〈アサルト〉は強襲・撹乱のための機体だ。テメェの意見はコンセプトとズレるんだよ!」


〈アサルト〉は高機動を武器に敵陣に切り込み、撹乱して陣形を崩したり混乱させることにある。

要するに、〈アサルト〉自体が敵戦力を撃破するということはあまり求められていない。


開発中に想定された〈アサルト〉の理想的な運用プランは、まず敵陣に切り込み撹乱、次いで敵陣の中核となるポイント――指揮官の居所や敵戦力の密集地点に対して〈ドラゴンブレス〉を一発、最終的には敵陣を十分に混乱させた後離脱し、後続の味方に残りを任せるかそれと合流するか、といった内容だった。

もしもシオンの懸念するような武装のトラブルでもあれば、とっとと逃げ帰ってしまえばいいという話である。


「ECドライブの実験の都合光学兵装を載せるのは必須だってのもあるが、本体と弾薬の重量がかさむのは持ち味の高機動を鈍らせることになる。だから却下だ却下!」

「机上の運用プランと実情は違うじゃないですか! 俺バリバリ最前線で大暴れですよ!?」

「それはテメェが勝手に突っ込んで暴れ回ってるだけだろうが!」


ぎゃあぎゃあと言い合いをするシオンとゲンゾウ。

その会話を阻むようにパンパンと手を叩く音が格納庫に響き渡った。


「シオンくんもお爺ちゃんも落ち着いてちょうだい。話が進まないわ」


ふたりのことを窘めたアカネはシオンのほうへと視線を向ける。


「これは〈アサルト〉の今後の整備と運用について相談する場でしょ? 今のシオンくんの意見だって間違いじゃないし……何より彼自身が〈アサルト〉で戦場に出るパイロットでもあるんだもの、こっち都合で聞く耳持たないっていうのもよくないと思うの」

「ですよね!」

「……ふん」


アカネの言葉に勢いづくシオンとそっぽを向くゲンゾウ。そんな反応に苦笑しつつ彼女は続ける。


「で、シオンくんのことだから実体兵装についてもっと具体的なプランを考えてるんじゃないかと私は思ってるんだけど……どうかしら?」


少し楽しそうにそんな質問を投げかけてきたアカネに対して、シオンはにっこりと笑った。


「お察しの通り、〈アサルト〉に載せるための専用実体兵装についてバッチリ考えておきました」

「既存兵装を使うつもりがねえのかテメェは」

「そうなると載せる載せない以前に予算の問題になっちゃうわね……」

「ご心配なく! 少なくとも予算の問題はほとんどなしでいいはずです」

「あ? 新しいものこさえようってのになんでそういう話になる」


ゲンゾウとアカネの疑問はもっともだが、本当に心配はないのだ。


「大丈夫ですよ! だって、もうほとんど(・・・・・・)完成してるんで(・・・・・・・)!」


ふたりに向けて親指を立てて見せつける一方で、シオンの影が横にぐっと伸びる。

続いてそこから大きな黒い塊が浮かび上がってきた。


「俺が学生時代に十三技班の作業場でこっそり作った兵装のひとつ! 大型の実体剣の刀身内部にガトリングガンを仕込んだ近接戦闘でも遠距離戦闘でも使える一粒で二度美味しいオススメの品、その名も〈テンペスト〉です!」


いきなり飛び出してきた完成品に驚くゲンゾウたちを前にシオンは嬉々として語る。

数秒遅れてひとつ咳払いしたアカネはシオンに尋ねた。


「この兵装、見た目重そうだけどどれくらい?」

「厳密には計ってないですけど……ざっくり〈ドラゴンブレス〉の三倍くらい?」

「うんわかった。ダメね」


シオンの答えを聞いたアカネは即答だった。

その後ろではゲンゾウが「野郎共、解散だ」と他のメンバーを散らし始めている。


「親方以上にバッサリですね!? さっきまでの聞く耳ある感じはなんだったんですか!?」

「一応話を聞くつもりはあったんだけど……さすがに重さ三倍はダメよね」

「それに今の感じだと、テメェ自分が作った兵装を〈アサルト〉で試してみてえだけだろ」


ゲンゾウの指摘にぎくりとシオンが肩を震わせる。その反応で今の言葉を肯定したも同然だ。


「せめて〈ドラゴンブレス〉と同程度の重さの兵装用意してこい。それができりゃあ話は聞いてやる」


そう言ってシオンの頭を乱暴に撫でてからゲンゾウは去って行った。

アカネも髪がボサボサになったシオンを見て軽く笑ってからゲンゾウとは別方向に去って行く。


「あー……なんか久しぶりだなこのノリ」


士官学校時代には日常茶飯事だった空気を感じつつ、乱された髪を軽く手で直す。

結局自分の要望はかけらも受け入れられなかったわけだが、それでも気分は決して悪くない。


「よーしわかった。〈ドラゴンブレス〉くらいの重さでどうにかしてやろうじゃないか」


シオンは技師としてのやる気を燃え上がらせつつ、〈アサルト〉のもとへと向かうのだった。


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