12章-運命の時〜追求〜-
「……どういうことだね?」
突然の乱入者に会議室全体がざわつく中、ディーンがレオナルドをにらみつける。
鋭い視線は向けられたものを萎縮させるには十分な圧があるように思えるが、対するレオナルドは飄々とした態度を崩さない。
「最初に申し上げた通り、この場に集まっている上層部の方々の中にゴルド最高司令官暗殺事件の重要参考人が何名かいらっしゃる。ですので、情報部として捕まえに来た次第です」
「そのような報告は――」
「情報部は人類軍内部でも特殊な組織ですから、例え上層部相手であってもその活動を報告する義務はありません。今回のように上層部に疑惑の人物がいるのならなおのこと、ね?」
「そのくらいのこと、当然ご存知でしょう?」と挑発するように微笑むレオナルドにディーンの視線がさらに鋭くなる。
「……ひとまずそちらの主張は理解した。それで、具体的に誰を拘束したいというのかな」
「こちらの主張を理解してくださったなら聞くまでもないでしょう?」
「心当たりがないな」
「そうですか……では改めまして、ディーン・ドレイク殿。貴方をゴルド最高司令官暗殺の重要参考人として拘束させていただきます」
さらにレオナルドは十数名ほどの――アキトも耳にしたことのあるような“推進派”の高官たちの名前を次々に口にした。
「ふむ、全く身に覚えがないな」
「そりゃあ、悪党ってのはみんなそう言うものでしょう」
「潔白なのだから見に覚えがないのは当然だろう!」
年配の高官が怒鳴るように主張するのに対し、レオナルドは冷たい視線を向ける。
「ひとつ、先にご連絡しておきます。つい一時間ほど前、情報部副長官が情報部長官の指示で拘束されました」
「!」
レオナルドの一言で年配の高官の表情がわかりやすくこわばった。
アキトは正直何も知らないが、今のやり取りで年配の高官と情報部副長官とやらの間にあまりよくない繋がりがあったことは察した。
「いやぁ、それなりに上の方を懐柔してるとは思ってましたが、副長官とは驚きました。ま、うちの長官殿にはお見通しだったようですが」
「…………っ!」
何も言い返せない様子の高官を情報部の人間と思しき黒スーツが拘束する。
今や会議室のあちこちで同じような光景が繰り広げられている状況だ。
「ドレイク殿におかれましては何か主張はありますか?」
「そうだな……ここまで悪人扱いをするのなら相応の証拠を見せてもらいたいところだ」
あくまで冷静なままレオナルドをにらみつけるディーン。
対するレオナルドは懐から年季の入った手帳を取り出した。
「こちら、先日の中東のテロリスト掃討作戦の合間に入手した、≪中東解放戦線≫のトップの手帳です。この手帳にはテロリストたちにアンノウン誘導装置を含めた物資を提供していたスポンサーと彼が連絡した時間帯が事細かに記されていました」
「……それで?」
「この手帳に書かれていた時間帯の人類軍の回線を用いた通信記録をひとつひとつ丁寧に調べたところ、ぴったり同じ時間の通信記録が確認できました。……その全ての発信者が貴方だったという話です。ディーン・ドレイク殿」
クリストファー暗殺にテロリストたちが大きく動いていたことは人類軍も認めるところである。
そんなテロリストと頻繁に連絡を取り合っていたのだとすれば、ディーンこそが主犯であると判断するのは自然なことだろう。
しかし、ディーンは毅然とした態度を崩さない。
「なるほど……だが、そもそもその手帳とやらは本物なのか?」
「ほー、やり手の高官殿にしては雑な切り返しですね」
「そうでもない。君が言ったようなものがそう簡単に手に入るとは思えないだろう。それに今このタイミングで割り込んできたのも気になる」
すっとディーンの目が細められてレオナルドを見据える。
「この場に疑惑の人間が多数いるのは事実だが、無関係の高官も多くいる。拘束自体は会議終了後でも問題ないはず。……にもかかわらずわざわざこの場に割り込んでくるというのは、会議を阻みたいと言っているようなものではないか?」
「…………」
ディーンの言う通り問題の手帳が本物であると証明するのは難しい。
そしてレオナルドがアキトたちと通じていてディーンの指摘通りの意図でこの会議の場に乗り込んできたのも紛れもない事実だ。
無論アキトはレオナルドや彼の掴んだ証拠を信じているし、“推進派”の筆頭のひとりであるディーンがクリストファー暗殺を目論んでもおかしくはない。
間違いなくディーンこそがテロリストたちのスポンサーなのだろうが、自身の悪事を暴かれかけているのに彼は少しもひるまず、むしろレオナルドの方こそ悪人であるかのように語って見せる。
ここまでの話からしてレオナルドは情報部長官も味方につけてはいるのだろうが、権力という点で言えばディーンとてかなりの力を持つ。
疑惑を残しつつも言い逃れられてしまう可能性は否定できない。
「(元から博打だったのは確かだが、このままだと……)」
年配の高官や他の参考人たちを拘束できているので“推進派”全体の力は削げるかも知れないが、半端な形で終わってしまう。
そして半端な状態ではアキトたちの目指す和平への道へ人類軍を進めるには不十分だろう。
――もう一手、何かディーンを追い詰めるだけの一手があれば
『もうやめておきたまえ、ドレイク君』
わずかなノイズの後、会議室に響いた声。
通信機越しなので本来の声とは違うのだろうが、それでもアキトはこの声をよく知っている。
それはアキトに限らず、この場にいる全員が同じだろう。
しかし同時に今この声が聞こえるというのはおかしい――否、あり得ない。
そんなアキトたちの戸惑いの中、会議室にあるとある人物の顔が映し出された。
『さて、みんな久しぶりだね。見知った顔ばかりではあるが、一応自己紹介をしておこう』
画面の先の男性は、この場の空気などお構いなしに柔らかく笑みを浮かべて名乗る。
『私はクリストファー・ゴルド。……まあ、びっくりしているだろうが本物さ』




