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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
12章 揃う役者たち
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12章-安否確認-


アキトたちが来たる聴取とそこで実行するクーデターについての覚悟を決めているのと同じ頃。


ハルマを筆頭に〈ミストルテイン〉の若者たちはとある一角に集まっていた。


「全体的に拍子抜けっつーか、肩透かし感がすげぇっすよね」


何気なくシルバの口にした言葉にガブリエラが大きく頷く。


「正直に言えば、私とシルバはみなさんと引き離されて当然と思ってました」

「ですね。わたくし、仮にそうなっても開発局の立場を理由にシルバ様と同行する手筈まで整えていましたのに」

「だよな。十三技班(俺たち)なんてガブリエラが連れて行かれたときのために通信魔法の準備もしてたのに」

「マリーはまだしもギルは大きな声で言うなよ……」


十三技班のアウトな行動はさておき、実際全員が予想以上にゆるい拘束に肩透かしを喰らっている状況だ。


「まあ、その分には私たちにとって都合は良いんだけどね」

「それはそうだけどさ。なんか不気味だ」


現在の〈ミストルテイン〉の置かれている立場を思えば多少理不尽な扱いを受けたとしてもおかしくないはずなのだ。

それがこんなに穏やかな状態だというのはどうにも気になる。


「んー、よくわかんねぇけどそういう難しいことは艦長とかが考えてくれるんじゃねぇの?」

「っすよね。オレたちみたいなのがいくら考えてもって話じゃねぇっすか?」


現実問題まだ人類軍の軍人になって一年も経過していないハルマたちに上層部の思惑を予想するのは難しい。

しかしだからといって何もせずにのほほんとしていられるかといえば、それは今の(・・)ハルマには無理だ。


「兄さんちょっと落ち着こう……とか言っても無理だよね。あたしも無理だし」

「……ああ。正直いろいろ立て込みすぎててパンクしそうだ」


単純に〈ミストルテイン〉が嫌疑をかけられているというだけでもかなりの騒動だというのに、シオンは眠りについてしまうわ自分たちの出自やそれがこの世界全体に関係するなどというとんでもない事実まで飛び出してくるわと大変な事態になっている。


それらを急に投下されてほんの数日しか経過していないのに落ち着けるはずもない。


「こう言ったらなんだが、まだどうにかなりそうな今回の騒動はさっさと終わらせて母さんのことや≪月の神子≫のこと考えさせてほしい」

「まあ、そうなるわよね……」


同情するようにこちらを見るリーナやレイスたちももちろん壮大な話に混乱しているだろうが、言ってしまえば彼らは部外者だ。

もちろんハルマやナツミと縁もゆかりもない人々と比べれば一連の内容を身近に感じられているかもしれないが、それでもハルマたちと比べれば大したものではないだろう。

それを本人たちもわかっているからこそ、ナツミがそうであるようにハルマに対して落ち着けとは誰も言わない。


「というか、俺からすればなんでギルとシルバはそんなに落ち着いてるんだよ」

「ん?」

「シオンのこと。お前たちならもっと騒いだりすると思ってた」


ミツルギ家の問題に関係してシオンは眠りにつき、朱月にその体を奪われている状態。

朱月本人がシオンを害するつもりはないと明言しているとはいえ、親友であるギルにしても従者であるシルバにしてももっと何かしらの反応を示すものだと思っていた。


それが実際はこうして収容施設の片隅でのんびりとしている。

そのことにハルマは驚いているし、正直ちょっと八つ当たりしたくなっている。


「朱月がシオンの体奪ってすぐの時はかなり殺気立ってたよなお前たち」

「まぁそうっすね。もう少しあの鬼野郎に隙があれば動いてただろうし」

「なー。あと一秒声かけられるの遅かったら多分俺飛び蹴りくらわせてたぜ」


そんなふたりの動きを見逃さず、アキトを味方につけて宥めた朱月はさすがである。


「でも、それ以降も意外とおとなしいよね。ギルはまだしもシルバ君は兄さんの言うこと大人しく聞くタイプでもないでしょ」


シルバはあくまでシオンの従者という立場を優先するとやってきてすぐに明言していた。

ナツミの指摘通り、アキトに宥められたくらいですっかりおとなしくなっているのは少々違和感がある。


「まあ、そこは……言われたんで」

「「「「言われた?」」」」

「っす。シオン先輩に、夢の中で」

「「「「…………」」」」


一瞬の沈黙の後、アキト、ナツミ、リーナ、レイスが盛大に「は!?」と叫んだ。


「え、だってシオンって寝ちゃってるんだよね」

「そのはずっすけど、なんか出てきたつーか」

「まさかギルもか!?」

「おう」

「ガブリエラは!?」

「私は何も。……おそらく、契約を介して夢に干渉したんでしょうね」


状況が状況だったのでさすがのシオンも何もできない状態でいるのかと思いきや、これである。


「もしかして、心配して損した……?」

「いや、出てきたっつっても大して話せなかったんで。そもそもシオン先輩が契約経由でしか夢に出てこれない時点でかなり弱ってるってことなんじゃねぇかと」

「そう、ですね。話によれば異空間である【月影の神域】にも干渉できるほどだったみたいですし、それがたったふたりの夢にしか出てこれないというのは……」

「まあ実際ヘロヘロらしいぜ。でも無事だしこれ以上悪くはならないから安心しろって」


ヘロヘロの状態なりに暴走しそうなふたりに無事を伝えたということらしい。

身内にはそういった気遣いもできるあたりシオンらしい。


「それに……」

「それに?」

「あ! いやなんでもねぇ。ちなみにこれ朱月のヤツには秘密だから。全員内緒な」

「あ、ああ。わかった」


ギルの様子が少しおかしい気はするが、ひとまずシオンが本当に無事であるとわかっただけでも朗報だ。

まだまだ目の前の問題は山積みだが、少しだけ気が軽くなったように思う


「(こういう時こそアイツがいてくれたらなって思うけど……)」


少しばかり弱気な考えを振り払い、ハルマは今自分に何ができるか改めて考えてみることにしたのだった。


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