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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
序章 はじまりは災いと共に
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序章-逃走道中-②

レイス・カーティスは混乱していた。


シェルターへのアンノウンによる襲撃、死を覚悟した瞬間に姿を現した逃走中の異界人、そしてその異界人が三年にわたる士官学校での日々を共に過ごしたシオン・イースタルであったという事実。

混乱、などというひとつの言葉で表せるほどシンプルな心情ではない。しかしだからと言って言葉を重ねれば表せるとも思えはしなかった。

しかしそんな少年の混乱を、状況は待ってくれはしない。


「オオオオオオオオッ‼」


反響することもなくゲートの厚い扉の隙間から直接届く獣の咆哮。それはこのシェルターが未だ現状考え得る最悪の状況――今にもアンノウンたちがなだれ込んでくる危機にあることを嫌でも思い出させる。

慌てて拳銃を構え直しつつゲートへと目を向ければ、ちょうど先程と同じく隙間から小型のアンノウンが侵入してくる様子が確認できた。しかも今度は一体ではなく数体。自身の手にある拳銃ではどう考えても対処不可能な敵の侵入に冷たい汗が流れる。

侵入してきたオオカミに似たアンノウンたちは真っ直ぐにこちらへと走り出す。それと同時にゲートへと歩みを進めていたシオンは立ち止まり、おもむろに左右に両手を広げる。次の瞬間、その両手で真っ赤な炎が燃え上がった。

続いて走り出したシオンは炎を纏った拳で容赦なくアンノウンを殴り飛ばす。それだけでアンノウンは吹き飛び、さらにその体が燃え上がってあっという間に動かなくなってしまう。迷いなく動き回るシオンはそのまま炎を纏う手を振り回してアンノウンを次々と薙ぎ払っていく。


「すごい……」


思わず口からこぼれてしまったのは驚きと感心の言葉。

拳銃などでは太刀打ちできず、基本的に一体に対して十分な武装を持ったふたり以上の兵士で対処するよう指導されている小型アンノウンを、目の前の彼はひとりで、しかも数体まとめてあっさりと殲滅してしまったのだ。

人間には決してできないであろう戦い方。まだ現実味のなかった「シオン・イースタルは人外である」という事実がそれを見せつけられたことによって突きつけられたように感じた。


『第三シェルターおよびその周辺施設にいる全兵士に通達する!』


シオンに目を奪われたままだったレイスの意識は突然響き渡った通信によって引き戻された。この通信は施設内の放送設備を用いて行われているらしく、シェルター内全体に届いている。


『第三シェルターにてアンノウンの侵入、および逃走中であった異界人の存在を確認。シェルター内の兵士は避難民を護衛しつつ施設奥への避難誘導を最優先! シェルター周辺の兵士は対アンノウン戦装備を整え救援に向かえ!』


通信によって出された指令にふと自分たちの後方を見れば、避難民が押し合うようにして奥へと向かおうとしている。決して大きいとは言えない奥への扉に人が殺到してしまっているせいで、すぐに全員を奥へ向かわせることができずにいるのだ。しかもああも避難民がいては奥のいる兵士はゲートの方へと向かってくることもできないだろう。

つまり、避難民を直接アンノウンから守れるのはレイスとハルマ、そしてシオンしかいない。しかしレイスとハルマについては武器が拳銃しかないため戦力外も同然だ。

とにかく避難民の方へと走り、彼らを守るように立つ。気づけばハルマも同じ考えで動いたのか、レイスのすぐ隣で同じように拳銃を構えていた。そしてその目線の先では絶え間なく侵入してくるアンノウンをシオンが引き続き蹴散らしている。


「ハルマ、この後どうする?」

「どうするも何も、避難民を守る。それから――」


――あのバケモノも殺す。

ためらいなく告げられたシオンを殺すという答えにレイスの呼吸が止まる。そんな動揺にハルマが気づく様子はない。


「さっきの戦い方を見てハッキリした、アイツはバケモノだ。それも俺たちを騙した挙句、俺たちのことをなんとも思ってなかったような奴だ。……放っておいて敵になる前に、殺す」


その目を怒りで満たして淡々と告げるハルマにレイスは言葉をかけることすらできない。

ハルマという少年は正義感が強く、言葉を交わし、笑いあってきた友人を殺すなどという恐ろしいことを言うような人間ではないはず。しかしその一方で彼が人外への強い憎しみを抱いていることもよく理解しており、事情も知っているレイスはその思いを否定することもできない。

シオンを殺すという彼を止めたい、しかしどうやって止めればいいのかレイスには見当もつかない。そんな時だった。


『第三シェルター内においてアンノウンと逃走中の異界人が交戦中。意図は不明だが異界人に人間に対する攻撃の意思は認められない。……総員、アンノウンのみに攻撃せよ。異界人への攻撃は禁止とする!』


シオンの戦闘能力は高く、現状彼ひとりの力で避難民は守られている。それを上層部も映像などで確認しているのだろう。

つまり、シオンにアンノウンを蹴散らしてもらうことで避難民を守ると共に人類軍が受ける損害を最小限にするつもりなのだ。それに加え現在こちらへの敵意を見せていないシオンに不用意に攻撃をしてしまうことで彼の攻撃目標に人類軍が加わるリスクを避けたいのだろう。

下された命令に、ハルマが小さく舌打ちをしたのが聞こえた。怒りに捕らわれつつも命令に従うだけの理性は残していたのか、あるいは避難民の安全を優先したのかどちらなのかはわからない。それにこの際、レイスにとってはどちらでも構わない。

ハルマの中からシオンを殺そうという意思が一時的にでも消えたことに、レイスはただただ安堵した。


***


『お前はまた、ずいぶんとお人好しなこったなぁ?』

『うっさい。どうしようが俺の勝手だろ』

『俺様の鬼の力使って暴れてるくせにその言い草はひどくね?』


脳内で朱月と軽口を叩き合いながら、現在の状況を改めて整理する。

正面には小型アンノウンが多数、後方には逃げ惑う避難民と警戒や敵意を隠そうとしない人類軍の兵士たち。どちらにしてもシオンにとって味方とは言えない相手だ。


はっきり言ってシオンがここでアンノウン相手に戦う必要などない。


シオンの目的はこの施設から脱出して人類軍から逃げること。そのために自身を子供の姿にしていた朱月の妖術――いわゆる変化の術を使って黒ネコに化け、通気口からあの部屋を脱出した。シオンがわざと監視の軍人に〈アサルト〉の所在を聞いたおかげで見事に格納庫の方に人員が割かれたようだったので、ネコの姿に化けたまま脱出するつもりだった。

ハルマたちに進んで保護されたのも、彼らであればシオンよりも施設の構造を把握しており、さらに避難民の飼い猫と判断されてシェルターに送り届けてももらえれば、それだけ外へ通じる通路を見つけやすくなると思ったからでしかない。そうやって外へ通じる場所を見つけた段階で適当に離れるつもりだった。

今こうして、朱月の力を借りてアンノウンを相手取ってまで避難民を守る必要はない。にもかかわらずシオンが今このような状況に置かれているのは――、


『……見ず知らずの人間とは言え、アンノウンに食い荒らされるシーンとか見て気分の良いもんじゃないだろ?』

『そりゃそうだが……そうじゃねぇだろ?』


シオンの返答に対して、朱月はずいぶんと自信ありげに言った。


『そんなに、あの連中が大切か?』


どこか揶揄うような声で朱月は尋ねる。その声はまるで、玩具や面白いものを見つけた子供のもののようにシオンには聞こえた。


『話しかけられてたし、顔見知りなんだろ? 連中のこと助けたいからってこんな面倒事に首突っ込むとはなぁ……友達とかそういう関係か?』


“友達”


朱月が軽く放った言葉にシオンの呼吸が一瞬だけ止まる。


『……今はもう、そうもいかないよ』


それだけ答えて、シオンは再び目の前のアンノウンに集中する。

穴から侵入してくるオオカミのような小型アンノウンを炎を纏う手で的確に迎撃していく。幸いなことに扉に開けられた穴はまだ小さく小型アンノウンの中でも特に小型のもの――二メートルに満たない個体しか侵入してくることはない。この程度の相手であれば朱月の力である鬼の炎と人間離れした膂力を使えば余裕を持って倒していける。しかし、それはあくまで今だけのことだ。

そもそも小型の個体だけだったならあの分厚い扉に穴を開けることなどできないはずなのだ。それなのに実際に穴が開いているということは、扉の先にもっと大きな個体――少なくとも中型に分類されるアンノウンが一体以上控えているはず。実際、より大きな穴を開けようと扉を攻撃している鈍い音は今もなお聞こえている。

中型アンノウンとなれば、いくら鬼の高い身体能力と強力な炎を扱えるとはいえ生身で相手するのは厳しい。出てきた段階でさっさと逃げるべきなのだが――、今のシオンにはそれ以外の選択肢がある。


『朱月、さっき言ってた話は本当なんだよな?』

『もちろんだ。言っただろ? 俺様はあの鎧の心臓同然なんだ。少し多めに魔力をもらうことにはなるだろうが、問題なくやれるだろうよ』

『わかった。いつでも実行できるように準備しといて』


朱月との会話を切り上げて目の前のアンノウンに改めて集中する。穴からは続々と小型アンノウンが侵入してきており、ペースは時間が経つほどに上がってきている。

現状、避難民を守れるのはシオンひとりだけと言っていい。シェルターが襲撃される可能性はあまり考えられていなかったのか、このシェルターにはアンノウンとの戦闘を想定した装備をしている兵士がいない。つまりは戦力外だ。シオンが一体でも倒し損なえば避難民や兵士が襲われる。


「(本当に、我ながら面倒なことに首突っ込んだもんだね)」


朱月の言う通り、かなり面倒なことになってしまっている。しかも冷静になればなるほど、シオンがこのようなことをする理由も必要もない。

こうして多くの人間を守ったところで敵と認定されてしまっているシオンが感謝されることもなければ、アンノウンがいなくなった瞬間に銃口を向けられる可能性すら大いにある。自分の身が可愛いのであれば、見捨ててこの場から逃げるのが正しい。しかし、


「それができたら苦労してないんだけどさ‼」


誰に言うでもなく吐き捨てつつ、目の前に来ていたアンノウンを思い切り殴り飛ばす。発した言葉は間違いなくシオンの本音だ。

シオンは多くの人の命を守るためなら命を差し出せる、などという善人ではない。しかし、顔見知りで三年に渡って親交を持ってきたハルマたちを見捨てられるほど薄情でもないというだけの話だった。


そのまましばらくの間、ひたすらアンノウンたちを倒す。

アンノウンの侵入が始まってからすでに十分程度は経過しているのだが、残念なことに避難状況は芳しくない。ようやく四割程度の人間が奥へ行けた程度だろう。

シェルターいっぱいにいた避難民がひとつしかない奥への扉に混乱したまま殺到しているせいで完全に人の流れが詰まってしまっている。こんな調子では全員が奥に避難できるのはいつになるかわからない。


「……やばっ⁉」


シオンが思わず声を出してしまったのは、穴から今までとは異なるタイプの小型アンノウンが無数に飛び出してきたからだ。その姿は今まで出てきていた四足歩行の獣のものではない、明らかな鳥類のもの――飛行可能なタイプの小型アンノウンだ。

即座にそれらを狙って炎を放つが、オオカミ型のものよりもサイズが小さく動きも素早い。しかも穴から出てきたかと思えばあらゆる方向に散ってしまい、ひとりでは狙いきれない。


『朱月!』

『応とも! 派手にやるぜ‼』


多めの魔力を使って両手の炎を大きく燃え上がらせる。そのまま両腕を大きく振るって自身の前方、広範囲に炎を放った。相当な熱を伴った炎に後方の避難民から悲鳴が上がるが知ったことではない。広範囲に広がる炎で散らばるアンノウンを焼き払う。

しかし、それでも全てを焼き払うには至らなかったらしい。一体のアンノウンが炎から逃れてシオンの真上を通り過ぎた。

迷いなく避難民を狙うアンノウンは急降下し、避難民たちに飛びかかったかと思えば一瞬にして再び舞い上がる。その足には小さな子供を捕らえていた。アンノウンはまるで鷹や鷲のごとく獲物を捕らえたのだ。


「クソが!」


子供の悲鳴にひとつ悪態をついて力強く地面を蹴る。鬼の膂力で一気に空中のアンノウンに向かって飛び――その最中、ちょうどアンノウンを挟んだ反対側、奥への扉の真上にある通路に見知った女性の姿と、彼女の構える銃器を見た。

一瞬の視線の交錯。それだけでシオンは彼女のこの後の行動を予測し、身体を捻って彼女の向ける銃口の射線から身体を逃がす。

次の瞬間、轟音と共に火を噴いたライフル。放たれた弾丸は見事に子供を捕らえたアンノウンの頭を撃ち抜く。そして投げ出された子供をキャッチしたシオンはアンノウンに飛びかかった勢いをそのままにシェルターを縦断して女性の立つ通路に着地した。


「やっぱりいい腕ですよね……できれば向けられたくないです」


ポカンとしている子供を通路に降ろしつつ、先程ライフルを撃った女性――アンナに告げる。


「安心しなさい、少なくとも今アンタに銃を向けなきゃいけないような命令は出てないし、命令が出たとしても通信状態が悪かったことにでもしておくわ」


迷いなく問題のあり過ぎる発言をしたアンナの態度に安心しつつ、すぐさま通路の手すりに足をかけてその上に立つ。


「そろそろひとりじゃ限界だったんで、協力お願いしますね」


返事は待たずに手すりから跳び、一気に先程までアンノウンたちを迎撃していた位置まで戻る。その着地時の隙を狙ってシオンに飛びかかってきたオオカミ型のアンノウンの頭が弾丸に撃ち抜かれて爆ぜた。さらに無数の発砲音と共に他のアンノウンたちも同じように倒され、霧散していく。


『避難民のみなさん、ご安心ください。みなさんの身は我々救援部隊が守ります。どうか落ち着いて奥へお進みください!』


拡声器を通したアンナの声。それに避難民でもないのに安心しつつシオンはアンノウンたちの迎撃を再開する。

依然として獣の姿のアンノウンも鳥類型のアンノウンも穴から飛び出してくるが、シオンとしては先程までよりはずいぶん気が楽になった。アンナが連れ立ってきたのであろう兵士たちがこのシェルターの上部に張り巡らされた通路の上で大口径のライフルを携え、的確な射撃での迎撃を始めたからだ。

腕のいい兵士が多いのかシオンの撃ち漏らしはもちろん、シオンよりも先にアンノウンを仕留めてくれるほどの仕事ぶりに、安心すると共に何かの拍子でこちらに向けられたらと思うと冷や汗をかいてしまう。

加えて、シオンのようなよくわからない存在ではなく人類軍の兵士というよく知る護衛が現れたからか、避難民にも少し落ち着きが戻ってきた。その影響で避難のスピードは明らかに上がってきている。あと三分もすれば全員が奥へ避難できることだろう。

このまま何事もなく避難が終わってくれればシオンとしては願ったり叶ったりなのだが――その期待を裏切るように、外へと続く扉が再び大きな音を立てて歪んだ。

最初に穴が開けられた時から、より大きな穴を開けようという動きは見られていた。避難が終わりかけるまで扉が耐えたことはむしろ幸運と言ってしまって良さそうだが、シオン個人としてはここまで耐えたなら避難が終わるまで耐えてほしかったところである。


「(なーんて、文句言ったところでどうにもならないわな)」


軋みながら強引に開かれていく扉。そこから顔を覗かせる中型アンノウンを前にシオンは小さく溜息を吐いた。


『朱月、やれる?』

『おう! とっくに準備が終わっちまって昼寝しちまうところだったぜ』

『……そいつは結構、早速やるよ』


準備を終えたという朱月の答えに、シオンは身の内の魔力を一気に高める。その身を覆い周囲に溢れ出る光に兵士たちの警戒が高まるが、気にせずにシオンは前方に手をかざす。

すると、中型アンノウンは何かを察したようにシオンのことを見た。シオンは現在強い魔力を発している。アンノウンは本能でシオンがアンノウンたちにとって何か都合の悪いことをしようとしていると察したのだろう。中型アンノウンは強引に押し開けた扉の隙間から勢いよく飛び出してきた。

全身が見えるようになった中型アンノウンは、オオカミのような獣の姿でありながら二息歩行を可能とする、獣人型。五メートルを超える巨体とは思えない機敏さでシオンに迫る。

軽く三〇メートルは取ってあった距離を一瞬にして詰めてきた中型アンノウン、その手にある鋭い爪がシオンに向けて振り下ろされる。しかしシオンは動かず、そして焦らない。


爪が少年の小さな身体を引き裂こうとする寸前、シオンは小さな声で告げた。


「朱月、ぶっ飛ばせ」


瞬間、轟音と共にシオンへと迫っていた爪も、その持ち主である中型アンノウンも扉の方へと勢いよく吹き飛んだ。そしてシオンの頭上には黒い機械の腕――〈アサルト〉の右腕だけが(・・・・・)空中に飛び出している。


『右腕だけ先にお届けだ。いい拳だったろ?』

「器用なこともできるんだな……思った以上に使い勝手よさそう」


シオンの言葉が終わると同時に空中に浮かぶ腕のちょうど付け根、空間が歪んだかのような影が広がっていき〈アサルト〉の右腕以外の部分がその場に姿を現す。

幻でも何でもない、核となっている朱月の力によってこの場に呼び出した正真正銘の〈アサルト〉本体だ。これが可能だったからこそシオンは格納庫に〈アサルト〉を取りに行かなかった。どこに居ようと呼び出せるものをわざわざ取りに行く必要などないのだから。

続いて〈アサルト〉の胸部が開き操縦席への入り口がシオンの方へと向けられた。シオンは五メートルほどの高さにあるそこに飛び込み、すぐに操縦席に腰かける。


「それじゃあ、さっさと片付けようか」


正面にはいまだ健在の中型アンノウンと小型のアンノウンがいくらか残っている。これらを殲滅させてしまえばひと段落というわけだ。


『そういや、なんか面白そうなもんがあるんだが……』


朱月の発言に合わせてモニターのひとつに武装の情報が表示された。朱月本人に機械のことはわからないものの、〈アサルト〉を自身の身体同然というだけあって感覚で武装のことなどを理解できているらしい。確かに、表示された内容はなかなか興味深い。最初にこの機体を使った時、戦闘を考えていなかったため武装のことはあまり気にかけていなかったのだが、どうやらこの機体の目玉武器のようだ。

〈アサルト〉の右腕で腰に装着されている兵装〈ドラゴンブレス〉を取る。これ自体は最初の搭乗時にも使用したが、今からする使い方はあの時とは違う。

中型アンノウンへと銃身を向けると同時に、その銃身が上下に開く。獣が口を開けたかのように上下に開いた銃身の中には、もうひとつの銃口が隠されている。

出力可変型光学兵装、それが〈ドラゴンブレス〉――戦局に応じてふたつの出力を切り替えられる〈アサルト〉独自の光学兵器。

再び危機を察した中型アンノウンが機敏な動きで〈アサルト〉へと飛びかかる。

その巨体とその先にあるこじ開けられた扉を射線に入れ、〈ドラゴンブレス〉にエネルギーを回す。


「消し飛べ!」


引き金を引くと同時に迸る極太の光線。それは中型アンノウンの胴体を消し飛ばし、さらには壊された扉の先に続くトンネルへと向かう。そして数秒の空白の後、トンネルは激しい爆炎と共に崩れ去り、瞬く間に瓦礫で埋もれてしまう。

こうなってしまえばこれ以上アンノウンが侵入してくる心配もないだろう。爆発や光線の余波で小型のアンノウンたちもほとんどが消え去り、残っていたもののも兵士たちの狙撃で仕留められていく。

こうなればシオンがこれ以上ここにいる意味はないのだが――。


『お前さぁ……トンネルぶっ壊したら俺様たちも出られねぇだろうよ』

「……嬉々としてこの銃勧めてきた奴に言われたくない」


トンネルの破壊については意図的だ。これ以上アンノウンに侵入されたら困るので塞いでしまおうと思ったのだ。ただし、全部片付いた後の逃走については……残念ながらすっかり忘れていた。

言い訳するわけではないが、技術者として珍しい兵器に気分がのってしまったというか、試してみたい気持ちが抑えられなかったのだ。


「……どうしよっかな」


アンノウンという敵はひとまず片付いた。となれば次は人類軍という敵にどう対処するかだ。

機体の中で頭を掻くシオン。朱月のわざとらしいため息をあえて無視しつつ、この後どう動くかに考えを巡らせるのだった。


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