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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
12章 揃う役者たち
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12章-深夜の格納庫にて①-


結論から言えば朱月の提案した“考え”はなかなかに希望の持てるものだった。


その後朱月の言う“ネズミ”とも連絡を取ることができ、確実とは言い難いものの推進派を無力化する算段はついた。


「(あとは、実際に実行してみてどうなるか……か)」


実行は、アキトたちが北米の人類軍本部で拘束され上層部による聴取を受ける時。


〈ミストルテイン〉が本部に到着するまでそう時間がかからないことを踏まえれば、せいぜい二、三日後には実行の時を迎えることになる。


それなりに希望は見えたが、まだ不確実な部分は多い。

結局のところうまくいくかどうかは大きな賭けとなるだろう。


「(だとしても、勝ち目のある賭けになっただけマシか)」


少なくとも朱月が“考え”を述べるまではほとんどどうしようもない状況だった。

それがこうして勝ち筋が見えてきただけでもずいぶんと状況はよくなった。


こうなればあとはやるだけのことだ。


「(とはいえ、落ち着かねぇんだよな)」


やることははっきりしたし、それを実行する覚悟も決めた。

しかしそんな状況下で何も気にせずぐっすりと眠れるほど図太い神経をアキトは持ち合わせていない。


深夜、眠ろうにも眠れず部屋を出て何気なく訪れたのは格納庫だ。


「にしても、まさかこんなことになるとはな……」


二階相当の高さにある通路から格納庫全体を見下ろしつつ、そんな言葉が滑り出た。


本当にこんなことになるとは思っていなかった。

少し前の自分に「その内《境界戦争》を止めるためにクーデターをすることになるぞ」なんて言っても絶対に信じないだろう。

それほどに、少し前の自分では考えられなかったことをしようとしているのだ。


「(真面目な軍人になろうとしてた俺はどこに行ったんだか)」


自他共に認めるほどの天職だったパイロットから艦長などという立場になって。

今は亡き父を真似てお手本のような軍人のフリをして。

ミツルギ家の当主として恥ずかしくない人間にならなければと気負って。


それが気づけば人類軍にあっさりとウソもつけるしクーデターまでやらかす不良軍人だ。


結局、今と昔どっちの自分がいいかと聞かれれば今のほうがいいと即答するのだが、こんなことになる予定がなかったのは事実。

ではどうして予定が狂ったのかと言えば、それは考えるまでもないのだろう。


「シオンと出会ってからとんでもないことばっかりだな」


彼との出会いが今のアキトを作ったと言ってもきっと間違いはない。


「(そう言ったら「俺のせいにしないでくれます?」だのなんだの文句言ってきそうだが)」


若干頬を膨らませてじっとりした目を向けてくる姿が鮮明に思い浮かべられる。と同時にそんな彼が今近くにいないことが少し寂しい。

思えばシオンと出会ってから、距離ができてしまうことなどがあっても“会えない”時間というものはほとんどなかったのだ。


「(……いや、深く考えるのはやめとこう。こんなことアイツに知られたら絶対ニヤニヤしながら妙な絡み方してくるに決まってる)」


頭に過ぎったわずかな寂しさはそんな考えによって吹き飛んだ。

それと同時に当人が不在にも関わらずややシリアスな空気を壊されたことになんとも言えない気分になる。


思わず口から出てきたため息と共になんとなく視線が下がり、たまたま格納庫を歩いていた人影が目についた。


「あれは、グレイス君か?」


ちょうど格納庫を歩いているのはギルに違いない。

十三技班の人間が深夜にも作業をしているのは珍しいことではないのだが、なんとなくその姿に違和感を覚えた。


「(あれは……やけに周りを警戒してないか?)」


普段の彼はアキトのような上官相手はもちろん、玉藻前のような人外相手でも物怖じしないような性格だ。

そんな彼が周囲をチラチラと警戒しながら歩いているというのはどうも引っかかる。


「(こっそり深夜作業をしようとしている……としても別にコソコソすることはないだろうしな)」


少なくとも格納庫によく出入りする人間の中に深夜作業を咎める者はいない。

それに、アキトですらわかっているそのことをギルがわかっていないとも思えない。


そうなってくると、なおさら何故周囲を警戒しているのかがわからない。


あれこれと考えている間にギルはコンテナの影に消えてしまった。


「……一応、様子を見ておくか」


シオンが極端に目立つが、ギルもまた何をやらかすかわからない男である。

普段のギルの性格からして悪事を働く印象がないとはいえ、ああもコソコソしている以上は何か後ろ暗いことをする可能性が高い。


目撃してしまった以上艦長としては放っておくわけにはいかないということで、アキトはギルを追いかけることにした。


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