12章-限られた選択肢-
「拘束って……どういうことですか!?」
ディーンからの通信を終えた頃。
ちょうどブリーフィングルームに戻ってきたガブリエラと朱月に状況を伝えれば、当然と言えば当然の反応が返ってきた。
ガブリエラの疑問はつい数分前にアキトがディーンにぶつけたものと同じだ。
一方で朱月はあまり戸惑うことなく落ち着いている。
「まあ、思い当たることはなくもねぇな。……原因はシオ坊の魔物化だろ?」
「ああ、そうだ」
上層部からの呼び出しの原因は朱月の指摘通り、シオンが魔物化したことにある。
ただ厳密に言えば、上層部はあの一件を“シオン・イースタルの魔物化”であると正確に把握しているわけではない。
シオン救出のためにアキトたちから説明をしていなかったので、上層部は詳しい経緯などを把握していない。
あちらが把握していたのは、極めて強大な力を持つアンノウンが突如出現してテロリストたちを蹂躙したことくらいだろう。
とはいえ何も把握できていないほど上層部も無能ではない。
強大なアンノウンの出現――もといシオンの魔物化の前後の状況を作戦に参加していた他の部隊の映像記録などを確認し、シオンがアンノウンとなった瞬間の映像を発見したのだ。
それを見ればシオンが問題のアンノウンであったことを推測するのは難しくないだろうし、仮にそうでなくとも何かしら関係していることは確実にわかる。
「まあ、あれだけ人類軍もいたんだし見られててもおかしくなかったわよね……」
「相当ごちゃごちゃした戦場だったし誤魔化せるんじゃねぇかと思ってたんだが、流石にそこまで無能でもなかったらしい」
アンナと朱月の言うように仕方がないことではある。
アキトもそれはわかっていたので今日にでも正式な報告を入れるつもりだったのだが、後手に回ってしまった形だ。
「せめて救出成功直後に報告しておけばよかったんだが……」
「あーまー、そこはまあ俺様のせいだな!」
救出直後に衝撃的な情報を大量に与えられてしまってそれどころではなかったのは事実だ。
しかしそれを言い訳にしていいわけでもないし、今更誰のせいという話をする意味もない。
問題なのは、こちらから報告する前に状況が伝わってしまったこと。
そしてそのせいでシオンどころか〈ミストルテイン〉そのものに厳しい目が向けられているということだ。
「今回俺たちが拘束されるのは、一連の騒動における情報隠蔽――さらに言えば意図的に作戦を妨害した嫌疑がかけられているからだそうだ」
「それは……そのように思われても仕方がない状況ではありますね……」
最初こそ戸惑っていたガブリエラも状況を聞く中で落ち着いてきたらしい。
それと同時に状況の厳しさも理解できてしまったのか、表情が険しくなってきている。
情報隠蔽については実際シオン救出の邪魔をされないために意図して隠していたのだから反論のしようもない。
その上、結果的にテロリストを一掃するという人類軍にとって大きな意味を持つ作戦を妨害してしまったのも事実で、状況的に疑いの目を向けられてもおかしくはない。
「テロリストどもはシオンがズタボロにしたんだ。人類軍連中の目的はある意味果たされたようなもんだとも思うが……」
「確かにある意味人類軍以上にテロリストたちに打撃を与えたかもしれませんが、あの混乱では主要メンバーの逃亡を許した可能性も否定できませんからね」
積極的に暴れることをしなかった天魔竜神が逃げるテロリストをわざわざ追いかけたとも考えにくい。
その上人類軍も周辺から退避してしまっていたことを思えば、テロリストたちの逃亡は難しくはなかっただろう。
戦力は十分に削れただろうが、人類軍の目指していた根本解決の邪魔をしてしまったのは否定のしようがない。
「なんつーか、大人しくお縄に着くしかねぇな?」
「そうなんだが、そうなると困るんだ」
ふたつの世界の和平を実現するために一秒だって時間が惜しいというのに、拘束などされている場合ではない。
しかも下手すれば拘束からそのまま部隊解体なんて可能性まであるのが非常に不味い。
「いっそ、すっぽかしたらどうだ?」
「できたらそうしてる。だが、そうもいかないだろ」
本部に行かなければ拘束は避けられるかもしれないが、それは諸々も嫌疑を全て認めたことになる。
そうなれば〈ミストルテイン〉全体が人類軍の裏切り者とされてしまう。
ここで人類軍と袂を分かってしまえば、人類軍に対して和平を訴えることも難しくなるだろう。
それに、〈ミストルテイン〉の船員たちは和平を目指すことに賛同してくれているが、だからといって人類軍と対立するという選択に安易に巻き込むわけにはいかない。
「とにかく、今は上層部の命令に従うしかない。すぐに北米に向かおう」
アキトの指示でひとまずその場は解散となった。




