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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
2章 南米共同戦線
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2章-第0回 シオン先生の人外社会講座①-


南米の異変に対処することはもう決まってしまったことで、相手がミランダとなれば今更なかったことにしてしまうわけにもいかない。

シオンはもう仕方がないと諦めて、アキトに文句を言うのはやめることにする。


「(これ以上わがまま言って子供扱いされるのも癪だし……)」


こんな内心を知られようものなら余計に子供扱いされてしまいそうだが、シオンは気分を切り替えるために奢ってもらったカフェオレをぐびぐびとあおる。


その様を黙って見ていたアキトは、シオンがカップを置いたタイミングで口を開いた。


「イースタル。今後人外の社会について定期的に話を聞かせてもらえないか?」

「……ん? すいません、いきなりなんです?」


あまりに唐突過ぎる話題にシオンの頭は置いてきぼりをくらった。

先程までの話題とも異なるし、かなり急な話でアキトの意図がいまいち掴み切れていない。


「今回の件もそうだが、俺たちは事前の情報共有が不十分だ。……お前が不満に思ったことも、俺がもっとお前の実力やアンノウンについて理解していれば軽率にミセスの提案を受けなかったかもしれないし、ミセスがどういった人物なのか事前に知っていればお前をひやひやさせることもなかった。……そうは思わないか?」

「……まあ、確かにそうかもしれません」


アキトはシオンから事前に情報を与えられていなかったからこそ、あの場で自分の持つ知識だけで考えるしかなかった。

何も聞いていなかったからアキトはミランダを警戒しなかったし、ここまでシオンがあまり苦戦せずにアンノウンに対処してきたから今回も大丈夫だろうと判断した。


要するに"知らなかったから"そうなってしまったのであって、知っていれば話は変わったはずなのだ。


アキトの言う通り事前に情報を共有することができれば、彼はより良い判断を下すことができ、シオンもそれに対して不満に思わずに済む可能性が高まるだろう。


「(そういう風に言って情報を聞き出したい……って感じでもないか)」


シオンから情報を引き出すための方便ではないかと少し疑ったが、アキトにそういった悪意があるようには見えない。

彼も馬鹿ではないので多少そういった打算もあるかもしれないが、あくまでメインは言葉にしていた通り今後より良い判断を下すためなのだろう。


話としては、シオンにとっても悪くはない。


何も教えないままシオンの手が届かない場所で何かをやらかされるよりは、ある程度知識を与えて自衛してもらうほうがいい。

望まれてもいないのに口を出して煙たがられるのは困ると思っていたが、アキトは知識を望んでいるのだからその心配もない。


「(聞かれて困ることは誤魔化せばいいし)」


アキトもどうせシオンが何もかも正直に話すとは思っていないだろうし、シオンの言ったことを全て信用することもおそらくしない。


そういった裏はあるが、それでもこの話は双方にメリットがある。


「いいですよ。シオン先生の人外社会講座ってことで」

「……一応聞くが見返りは要らないのか?」

「講座を開くときには今みたいにお菓子と飲み物が欲しいところですね」

「わかった、そうしよう」


ここで見返りの有無をちゃんと確認するあたり、アキトもシオンのことをだいぶ理解してきたなと思いつつ差し出されたアキトの手を取って握手を交わす。


「ところで、講座には菓子と飲み物がいるなら、今も講座中という解釈をしてもいいのか?」

「……そういうことにしてもいいですよ」


回りくどい言い方だが、要するにアキトは今シオンに聞いておきたいことがあるのだろう。

菓子も飲み物もある今なら講座ということにするのもやぶさかではない。しかしあえて言うなら、


「でもその前にカフェオレのおかわり貰えます?」


微笑みながらちょっとした見返りを求めればそれは快諾され、アキトの分のコーヒーも補充した上で改めてふたりはテーブルを挟んで向き合うことになった。




「で? 艦長は何が聞きたいんですか?」

「とりあえず、今日話をした三つの集団について改めて聞いておきたい。≪魔女の雑貨屋さん(ウィッチ・マート)≫以外は概要すら聞いていないからな」

「あーそういえばそうでしたね」


魔女の雑貨屋さん(ウィッチ・マート)≫については話の流れで少し触れたが他については一切説明もしていなかった。

直接関わる機会があるかはわからないが軽く触れておくべきだろう。


「説明の軽いのから順に話すと……まずは≪流浪の剣(ドリフテッド・ソード)≫ですね。ここは人間社会に当てはめると民間軍事会社ってところでしょうか」

「……依頼を受けて戦闘などの軍事サービスを提供する、ということでいいか?」

「大体そんな感じです。営利目的ってわけでもないのでボランティアみたいな側面も強いですけど」


彼らは「弱き者を守る」という信条を掲げる騎士。

必要と判断すれば例え見返りが一切なくても戦いに赴くだろう。


「次に≪剣闘士の宴(コロッセオパーティ)≫ですが、こっちもアンノウンと戦うってところは≪流浪の剣(ドリフテッド・ソード)≫と同じですけど、人間社会風に言うとフリーの傭兵集団ってことになります」

「……≪流浪の剣(ドリフテッド・ソード)≫よりも利益を求める集団ということか?」

「利益を求めるっていうか……戦うこと(・・・・)そのものに価値を見出してる人たちなんですよね」


流浪の剣(ドリフテッド・ソード)≫のような信条を掲げるでもなく、お金を稼ぎたいわけでもなく、単純に彼らは戦いに魅入られている。

後天的にそうなってしまった者、あるいは先天的にそういった存在である者たちがその性質を悪事ではなく善行に向けるために集まったのが≪剣闘士の宴(コロッセオパーティ)≫だ。


流浪の剣(ドリフテッド・ソード)≫と≪剣闘士の宴(コロッセオパーティ)≫。


どちらも魔物狩りを生業とする集団だが在り方や行動原理は大きく異なるわけだ。


「なんというか……衝突したりはしないのか?」

「根っこは違ってもアンノウンを倒すっていう目的は同じですし、どっちも利益を求めてるわけでもないので……」


シオンの返答にアキトは複雑そうな表情を浮かべている。その気持ちはシオンにもわかる。


人間社会であれば仕事の取り合いのひとつやふたつ起こりそうだが、このふたつはそうはならない。

必要があれば協力して討伐に当たることもあるだろう。


流浪の剣(ドリフテッド・ソード)≫はともかく≪剣闘士の宴(コロッセオパーティ)≫は完全に喧嘩好きの荒くれ者集団だというのに、それでも人間よりもよっぽど穏やかなのだ。


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